イギリス公衆衛生週報 感染症トピックス
2017年12月01日

Vol. 11 / No. 43

英国における注射薬使用者の感染症:年次報告書の要約

Infections among people who inject drugs in the UK: annual report in summary

英国における注射薬使用者(PWID)の感染症に関する年次報告書、「Shooting Up」がPublic Health Englandにより発表された。この報告書は、PHE、Health Protection Scotland、Public Health Wales、およびPublic Health Agency Northern Irelandが合同で作成した。
PWIDは、HIV、HBV、HCVなどのウイルス、Clostridium botulinum及びStaphylococcus aureusのような細菌など、様々な感染症に罹患しやすく、重症化や死亡に至る可能性がある。この報告書では、精神賦活性薬物(ヘロインやコカインなど)の注射をしている者の感染症の程度とそれに関連したリスクを検証している。

【HCVの陽性率は依然高く、感染例の半数が診断されていない】
C型肝炎はPWIDの血液媒介性感染症では依然最も多く、英国のこの患者群では高頻度に伝播が起こる。PWID5名に2名がHCV陽性である。新規のDAA製剤の普及により、HCVによる疾患の発症や死亡を抑制し、伝播のリスクを低下させる可能性が高まる。HCV陽性のPWIDの約半数が診断されていないため、(48%)HCVの検査を勧め、検査を受ける患者を増やすことが特に重要である。自身の感染を知らない者のうち、22%は検査をこれまで一度も受けたことがなく、44%は2年以上検査を受けていないと報告されていた。

【HIVの陽性率は依然低いが、リスクは継続して認められる】
英国では、PWID100名に約1名がHIV陽性である。ほとんどの患者は診断を受けており、HIVに対する医療を受けることになっている。しかし、PWIDは進行して診断されることがしばしばある。2015年以降持続しているグラスゴーのHIVアウトブレークや2016年にイングランド南西部で発生したHIV集団感染で明らかなように、PWIDの局地的なHIVアウトブレークの発生が続いている。

【HBVは依然少ないが、ワクチン接種を、特に若年者で継続する必要がある】
英国では、PWID200名に約1名がHBV陽性である。PWIDの約4分の3はHBVワクチン接種を受けたと報告されているが、現在、ワクチン接種率は上昇しておらず、特に若年層(54%)及び最近注射薬を始めた者(54%)で低い。

【細菌感染はいまだに問題である】
PWIDの細菌感染はしばしば全身の衛生状態の悪さや未滅菌の注射器具が原因となっている。PWIDでは、細菌感染は重症化しやすく、初期症状が出てから受診するまでの期間が長くなると重症度が増すことになる。PWIDの約3分の1(36%)では前年に注射部位に感染兆候があったことが報告されており、これは2011-2013年の28%と比べて増加している。これらの症状の報告は男性よりも女性に多い。細菌感染のアウトブレーク、徳にA群連鎖球菌によるものはPWIDで発生が続いている。

【リスクの高い注射手技は減少しているが、依然問題である】
PWIDによる注射針や注射器の供用は英国全体で減少してきたが、供用は依然問題であり、6名に1名が前月に注射針と注射器を供用したことが報告されている。

【精神賦活性薬物注射のパターンの変化が懸念されている】
英国では、いまだにヘロインが最も使用されている注射薬である。イングランド及びウェールズでは近年、クラックの注射が増加しており、過去4週間に使用した者の53%が2016年にもクラックを使用したことが報告されており、2006年の35%と比べて増加している。近年、英国では新たな精神賦活性薬物(NPS)の使用数が増えている。NPSのなかには、通常は短時間作用峨他の刺激性薬物であるが、注射できるものがあり、その使用者でリスクの高い注射手技が多いことから懸念されている。しかし、メフェドロンなどのようなNPSのなかには、その使用が減少傾向にあることが示されている。

【効果的な介入を継続及び適正化が必要である】
この報告書で提示された所見から、注射による健康被害の減少及び注射薬をやめたいと考える者の支援を目的としたサービスの継続及び改善が必要であることが示されている。地域における注射針・注射器の適正使用プログラムの提供、オピオイド置換療法やその他の薬物治療など、様々なサービスを提供しなければならない。感染症に対する予防接種や検査は定期的にPWID又は以前注射薬を使用していた者に施行する必要がある。ケアのパスウェイや治療は血液媒介性ウイルスや細菌感染の診断を受けた者にとって最適なものでなければならない。

世界エイズデー、スコットランドにおけるHIV

World AIDS Day: HIV in Scotland

2016年には、英国におけるHIV陽性の91,987例のうち、4,412例がスコットランドに住んでいる。Health Protection Scotlandから発表された2017年9月までの新データによると、2016年にはスコットランドで256例がHIV陽性と診断された。
英国はヨーロッパで初めて、ゲイ及びバイセクシャルの男性でHIVの減少がみられた国であり、スコットランドはゲイ及びバイセクシャルの男性で40%の減少が報告された(新規の診断例は2015年の131例から2016年は80例)。これは、HIVの検査及び治療に加え、暴露前予防療法の普及によるものと考えられる。2017年7月にはスコットランドでNHSによる暴露前予防療法の処方が可能となり、2017年11月時点で選択基準を満たした、HIV感染のリスクが高いと思われる数百例が現在NHSにより暴露前予防療法を受けている。
スコットランドでは、ゲイ及びバイセクシャルの男性によるコンドームを使用しない性行為がHIV感染の主要な危険因子である。しかし、2015年以降、NHSのGreater Glashow & ClydeエリアでPWIDにHIVアウトブレークが発生している。このアウトブレークは公衆保健のイニシアチブを進めることにつながり、このイニシアチブにはこの特定の高リスク群でHIVに対する認識を高めること、検査の機会を増やすこと、感染したばかりの患者に対するサービスを支援することなどがある。
HIV検査は、HIVの蔓延に対するスコットランドの対応の中心的なものである。2016年には、新たに診断された患者のうち、57例(39%)が進行期に診断されていた。これは2014年に初めて減少傾向がみられて以来、横這いである。
2016年の推測によると、スコットランドの約700例が診断されておらず、自身のHIV感染を知らずに生活している。2030年までにAIDSの蔓延状況を終息させるために、UNAIDSは90:90:90という目標を設定した。これは2020年までにHIV感染者の90%を診断すること、診断された患者の90%が治療を受けること、治療を受けている患者の90%でウイルスを抑制すること、というものである。スコットランドでは、この目標の第一番目の項目はまだ達成されていないが、HIV感染に対する治療へのアクセスやケアは良好で、2016年7月から2017年6月の期間に4,575例が治療及びケアの専門的サービスを受けたと報告されている。これらのサービスを受けた患者のうち、965が抗レトロウイルス薬の投与を受け、そのうち96%はウイルス抑制を認めており、UNAIDSの目標を超えた。
スコットランド政府のSexual Health and Blood Borne Virus Frameworkは、セクシャルヘルス及び福祉の改善を支援するためのものであり、スコットランドにおける血液媒介性ウイルスの問題に取り組んでいる。その目的は、予防対策を強化することを通じ、未診断の患者を減少させることによって、また感染例に質の高いサービスを提供し続けることにより、スコットランドで起こっているHIVの伝播を抑制することである。

イングランドで猩紅熱が急増、2014年~2016年

Scarlet fever upsurge in England, 2014 to 2016

イングランドにおける現在の猩紅熱の急増の影響(それに伴い、アウトブレークや入院例が増加)が最近のLancet Infectious Diseasesの論文のテーマである。
1911年から2016年にかけてイングランド及びウェールズにおける猩紅熱の届出の分析に基づき、このレポートでは、この最近の急増は患者数の増加に関して前例のないものであり、4年ごとの流行サイクルでみられるものと比べて、また20世紀にみられたものよりもスケールが大きいと考察している。猩紅熱の人口比は、2013年から2014年にかけて人口10万人当たり8.2例から27.2例へと増加し、その後の2年でさらに増え、2016年には届出数が19,206件に達した。猩紅熱の大半の患者は重症ではないが、2014年~2016年の入院率は罹患率の上昇に一致して上昇した。2014年の届出例40例につき1例は猩紅熱又はその合併症の管理目的で入院したことが確認されている。特に主に学校(67%)及び保育所(31%)でみられたアウトブレークの管理という点で、公衆保健に対する影響は大きいと結論付けている。
著者らは、猩紅熱の急増にはいくつかの理由が考えられると考察している。イングランドは西洋で初めてこのような増加を認めた国であるが、同様の増加は東アジアで記録されており、英国との細菌学的な関連性はみられていない。2017年のデータではわずかな減少がみられているが、罹患率は依然高く、急増の原因を究明することはいまだに重要である。一方、著者らは猩紅熱の患者を合併症及び感染拡大のリスクが少ない抗菌薬で治療することが重要であることを強調している。PHEのhealth protection team向けのアウトブレーク管理及び記録に関するガイドラインは2017年10月に改訂される予定である。