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63号 トリインフルエンザA (H7N9)の危険度評価
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中国でのトリインフルエンザA (H7N9)[以下、H7N9]の症例数は過去3年間で漸減していたが、2016/2017年の冬季は増加した1)[図1]。CDCは「H7N9はパンデミックを引き起こし、社会にダメージを与える可能性が高い」としているので、ここでH7N9およびインフルエンザ危険度評価ツールについて解説する。

トリインフルエンザA (H7N9)

2017年1月16日、中国保健局は2016年9月以降にH7N9のヒトでの新規症例120件を確認したとWHOに報告した2)。H7N9はトリでみられるウイルスであり、通常はヒトには感染しない。
しかし、2013年4月にH7N9の最初のヒトでの症例が中国にて報告された。それ以降、検査確認されたH7N9のヒト感染の924症例が報告され、約3分の1が死亡している。これらの症例の殆どがH7N9に感染した中国の家禽もしくは汚染環境(家禽マーケットなど)に曝露している。稀に、限定的な非持続性のヒトからヒトへの伝播が発生しているが、持続的な伝播のエビデンスはない2)

早期の症状は季節性インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスの症状に似ており、それには、発熱、咳、咽頭痛、筋肉痛、倦怠感、食欲低下、鼻汁や鼻閉などが含まれる。しかし、このウイルスは重症感染症を引き起こすことがあり、症例によっては死亡する。重症および死亡のリスク因子には高齢および特定の慢性疾患の合併がある2)

最も心配されることは、このウイルスがパンデミックを引き起こす可能性があることである。インフルエンザウイルスは常に変化しているが、このウイルスには、ヒトにおいて容易かつ持続的に拡散する能力を獲得する可能性があり、それはパンデミックの誘因となる。事実、「インフルエンザ危険度評価ツール」によって評価されたインフルエンザウイルスの中で、H7N9はパンデミックを引き起こし、公共の健康に重大な影響を与える可能性が高いとしてランクされている3)[表1]。

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インフルエンザ危険度評価ツール

インフルエンザ危険度評価ツール(IRAT: Influenza Risk Assessment Tool)」は現時点で動物で感染伝播がみられているが、ヒトではみられないインフルエンザAウイルスがパンデミックとなる潜在性危険度を査定する評価ツールであり、CDCおよび外部のインフルエンザ専門家によって開発された。IRATは2つのシナリオ(「出現」および「影響」)に基づいて潜在的なパンデミック危険度を評価している5)

「出現」はヒトにおいて容易かつ効果的に拡散する能力を持つ新型(ヒトでの新型)インフルエンザウイルスの出現の危険性に言及したものである。「影響」は、新型インフルエンザウイルスが人々のなかで効果的かつ持続的に拡散し始めたとき、社会への負荷(例:損失就業日、病院の収容力および財源への負荷、基本的な公共サービスの中断など)およびウイルスによって引き起こされるヒトの感染症の潜在的重症度に言及したものである5)

IRATはこれらのシナリオに関連するパンデミックの潜在的危険度を測定するために10項目の基準を使用している。これらの基準は3つの包括的カテゴリー(「ウイルスの特性」「人々の特性」「ウイルスの生態および疫学」)に分類される5)

「ウイルスの特性」カテゴリーには10項目の評価基準のなかの4項目が含まれており、それは「遺伝子変異(遺伝子的多様性の程度やヒトでの感染に重要な分子指標の存在)」「リセプター結合(インフルエンザウイルスが最も好む組織や細胞の種類[例. 鼻の組織や細胞vs肺深部の組織や細胞]および、インフルエンザウイルスが好む宿主[例.動物もしくはヒト])」「実験動物への伝播(実験動物に効果的にインフルエンザウイルスが伝播する能力)」「抗ウイルス薬への感受性と耐性(インフルエンザウイルスが抗インフルエンザ薬による治療にどの程度反応するか?)」である。

「人々の特性」カテゴリーには3項目が含まれており、それは「人々の免疫保持(人々が新型インフルエンザウイルスに対する免疫を持っているか?)」「疾患の重症度と発病機序(特定のインフルエンザウイルスによって人間や動物に引き起こされる疾患の重症度)」「ワクチン候補への抗原関連度(現在もしくは過去に製造したインフルエンザワクチン株に比較して、新型インフルエンザウイルスにはどの程度の類似があるか?)」である。

「ウイルスの生態および疫学」カテゴリーには残りの3項目が含まれており、それは「世界的な分布(動物)(そのインフルエンザウイルスは動物においてどの程度広く拡散しているか?限定区域のみか、複数の異なる区域の動物にもみられるか?)」「動物種の感染(どの種類の動物がインフルエンザウイルスの影響を受けているか?これらの動物とヒトとの接触は容易か[例. 感染は野鳥か家禽のどちらにみられているか]?)」「ヒトでの感染(ヒトでの感染が発生しているか?どのような環境でヒトへの感染が発生しているか?ヒト-ヒト感染もしくは集団発症が発生しているか?直接かつ長時間の接触後にどの程度の頻度と容易さでヒトと感染動物での伝播が発生しているか?)」

これらの得点は3つの危険度(低リスク、中リスク、高リスク)に分類され、「低リスク」は1~3点、中リスクは4~7点、高リスクは8~10点である。10項目の評価基準の各々は2つのシナリオへの重要性に従って重みをつけられる5)

文献

  1. WHO. Influenza at the human-animal interface
    http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/Influenza_Summary_IRA_HA_interface_01_16_2017_FINAL.pdf
  2. CDC. Avian Flu (H7N9) in China
    https://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/watch/avian-flu-h7n9
  3. CDC. Avian Influenza A (H7N9) Virus
    http://www.cdc.gov/flu/avianflu/h7n9-virus.htm
  4. CDC.Summary of Influenza Risk Assessment Tool(IRAT)Results
    http://www.cdc.gov/flu/pandemic-resources/monitoring/irat-virus-summaries.htm
  5. CDC.Influenza Risk Assessment Tool (IRAT)
    https://www.cdc.gov/flu/pandemic-resources/national-strategy/risk-assessment.htm

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長