ケンエーIC News

65号 米国外科学会と米国外科感染症学会: 手術部位感染ガイドライン
PDFファイルで見る
米国外科学会と米国外科感染症学会が手術部位感染の予防、診断、管理に関するガイドラインを公開している。その中から介入リストを紹介する1)

入院前の介入

  1. 1.1.手術前入浴
    • クロルヘキシジンによるルチーンの手術前入浴は皮膚表面の病原体の濃度を減らすものの、SSI(手術部位感染:surg ical sit e infect ion)を減らすということは示されていない。
  2. 1.2.禁煙
    • 手術の4~6週間前の禁煙はSSI を減らすので、すべての喫煙者(特に、インプラントを用いた手術を受ける喫煙者)に推奨される。電子たばこも止めることが専門家でのコンセンサスである。
  3. 1.3.血糖コントロール
    • すべての糖尿病患者には最適な血糖コントロールが奨励される。しかし、HgbA1Cの改善がSSIの危険性を減らすというエビデンスはない。
  4. 1.4.MRSAスクリーニング
    • 黄色ブドウ球菌のスクリーニングおよび除菌プロトコールを全ての症例に実施するか否かについての決定はベースラインのSSIおよびMRSA保菌率を参考にすべきである。
    • 米国医療薬剤師会の臨床実践ガイドラインでは人工関節全置換術および心臓手術の前には黄色ブドウ球菌の保菌スクリーニングと鼻腔のムピロシン除菌を推奨している。
    • MRSAバンドル(スクリーニング、除菌、接触予防策、手指衛生)は遵守されるならば相当有効であるが、さもなければ有益ではない。
    • 標準的な除菌プロトコールはない。「鼻腔のムピロシン単独」vs「鼻腔のムピロシン+グルコン酸クロルヘキシジン入浴」が考慮されている。
    • 除菌プロトコールを効果的にするためには、手術日の近くで完了すべきである。
      バンコマイシンはMRSA陰性患者のSSI予防として用いるべきではない。
  5. 1.5.腸管処理
    • 機械的腸管処理および内服抗菌薬の併用はすべての待機的大腸切除術に推奨される。

入院後の介入

  1. 2.1.血糖コントロール
    • 手術直前の高血糖はSSIの危険性を増加させる。
    • 目標とする周術期の血糖は糖尿病の有無にかかわらず、すべての患者において110~150mg/dLとすべきである。例外は心臓手術の患者であり、その目標は<180mg/dLである。
    • 目標血糖値<110mg/dLは有害事象と結びつき、低血糖のエピソードを増加させ、SSIの危険性を減少させない。
  2. 2.2.除毛
    • 毛髪が手術に影響しなければ、除毛は避けるべきである。除毛が必要ならば、剃刀の替わりにクリッパーを用いる。
  3. 2.3.皮膚消毒
    • 禁忌(火災被害、粘膜、角膜、耳などの表面など)でなければ、皮膚消毒にはアルコール含有の消毒薬を用いる。
    • アルコールとの併用において、明らかに優位な消毒薬(クロルヘキシジンvsヨード)はない。
    • 消毒薬にアルコールを含有できなければ、禁忌でなければヨードではなく、クロルヘキシジンを用いる。
  4. 2.4.手術時手洗い
    • 水を用いないクロルヘキシジンのスクラブ(註:クロルヘキシジンエタノールのラビング製剤)は水を用いる伝統的なスクラブと同程度の効果があり、時間が少なくて済む。
  5. 2.5.手術着
    • 手術着についての推奨を支持するエビデンスは限られている。
    • 米国医療機能評価および米国周術期看護師協会の方針は施設でのスクラブの洗濯およびふっくらした使い捨ての帽子の使用を支持している。
    • 米国外科学会ガイドラインは、毛髪の露出が最小ならばスカルキャップ(頭部のみを覆う縁なし帽子)を使用し、頭部や首のすべての宝石類は取り外すか覆う。そして、手術室の外ではプロフェッショナル衣類(スクラブなし、もしくは、白衣で覆われた清潔なスクラブ)の使用を支持している。
  6. 2.6.予防抗菌薬
    • 予防抗菌薬は必要時に限定して投与する。
    • 予防抗菌薬は手術の種類およびSSIを最も引き起こす可能性の高い病原体によって選択されなければならない。
    • 予防抗菌薬は切開の1時間以内に投与されるべきであるが、バンコマイシンおよびフルオロキノロンは2時間以内に投与する。
    • 予防抗菌薬の投与量は体重によって用量調節すべきである。
    • 十分な組織濃度を維持するための抗菌薬の再投与は薬剤の半減期に基づく。もしくは1,500mLの血液喪失の度に再投与される。
    • 切開部の閉創後に予防抗菌薬を投与することがSSI のリスクを減らすとするエビデンスはない。予防抗菌薬は閉創の時点で中止すべきである(例外にはインプラントを用いた乳房再建術、関節形成術、心臓手術があるが、これらの手術での抗菌薬の適切な投与期間はまだ判明していない)。
  7. 2.7.術中の正常体温
    • SSIのリスクを減らすために術中の正常体温を維持する。術前の加温はすべての症例に推奨される。術中の加温も全症例(短時間の清潔手術を除く)に実施すべきである。
  8. 2.8.創縁保護具
    • 遮水性のプラスチック製創縁保護具を使用すれば開腹手術でのSSIを予防できる。結腸直腸および胆道系の待機的手術でのエビデンスが最も強い。
  9. 2.9.抗菌縫合糸
    • トリクロサン抗菌縫合糸が利用できるならば、清潔および清潔-汚染の腹部症例での閉創において推奨される。
  10. 2.10.手袋
    • 二重手袋の使用が推奨される。結腸直腸の症例では閉創の前に手袋を交換することが推奨されるが、結腸直腸の症例での閉創前の手指スクラブ再施行は推奨されない。
  11. 2.11.器具
    • 結腸直腸の症例での閉創では、新しい手術器械の使用が推奨される。
  12. 2.12.閉創
    • 汚染および不潔な切開創での遷延性一次閉鎖法vs一次閉鎖法およびSSIについての高い質のエビデンスはない。
    • 人工肛門部では巾着縫合が一次閉創よりも推奨される。
  13. 2.13.局所抗菌薬
    • 特別な症例(脊椎手術、人工関節全置換術、白内障手術など)では局所抗菌薬はSSIを減らすことができるが、現時点ではルチーンに使用することを推奨するにはエビデンスは不十分である。
  14. 2.14.酸素補充療法
    • 補助酸素(80%)の投与は全身麻酔下で実施した手術の直後に推奨される。
  15. 2.15.創部ケア
    • ドレッシングの除去のタイミングがSSIのリスクを増加させるというエビデンスはない。
    • 早期のシャワー(術後12時間)はSSIのリスクを増加させない。
    • ステープラー縫合された皮膚の上からの陰圧閉鎖療法の使用は開腹結腸直腸手術(腹部切開)および血管手術(鼠径切開)でのSSIを減らすことができる。
    • ムピロシンの局所塗布は標準ドレッシングと比較すると、SSIを減らすことができる。
    • 毎日の創部の厳密な調査は汚染創のSSIを減らすことができる。

文献

  1. Ban KA, et al. American college of surgeons and surgical infection society: Surgical site infection guidelines,
    2016 Update. J Am Coll Surg. 2017;224:59-74
    http://www.journalacs.org/article/S1072-7515(16)31563-0/pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長