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68号 米国消化器内視鏡学会ガイドライン
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米国消化器内視鏡学会が「軟性消化器内視鏡の再処理のためのマルチソサエティ・ガイドライン-2016最新版」を公開している1)。その中から病原体の伝播についての記載を紹介する。

病原体の伝播

米国では毎年、2,000万件以上の消化管内視鏡検査が実施されている。患者の予後は日常的には追跡されていないが、これらの検査による病原体の伝播の報告は稀である。
1966~1992年に公開された265件の科学的論文を含んだ大規模なレビューによると、消化管内視鏡によって281件の病原体の伝播が発生した。これらの伝播は「洗浄と消毒のガイドラインに不順守であった」「消毒用の液体化学殺菌剤としては容認できない薬剤を使用した」「乾燥が不適切であった」「欠陥器具を用いた」によるものであった。その後の20年間でも、消化管内視鏡の検査による病原体の伝播は比較的少数ながら、報告されている。その全てが「感染予防の実践」もしくは「内視鏡と付属器具の再処理」の明らかな破綻によるものであった。

最近、医学的論文および一般メディアからの報告によって、機器を操作するために起上装置を使用している側視型の十二指腸内視鏡による多剤耐性病原体のアウトブレイクが明らかとなった。このアウトブレイクは過去の伝播の事例とは異なり、洗浄と高水準消毒を適切に実施したにも拘わらず発生している。これらの事例は十二指腸内視鏡には「剥き出しかつ複雑な可動性部分がある」「チャンネルからすべての病原体を常に除去することは困難である」「十分な再処理を妨げるバイオフィルムがある」などの問題があることを明らかにした。一般的に、病原体の伝播は「非内視鏡的」(血管内ラインのケアや麻酔薬などの投与に関するもの)、もしくは「内視鏡的」(内視鏡や付属機器による伝播に関するもの)に分類される。

非内視鏡的な病原体の伝播

数件のC型肝炎のアウトブレイク(ニューヨーク内視鏡センターでの1件のアウトブレイクを含む)は一般的な感染予防の重要性を訴えている。これらの事例は鎮静用の血管内チューブ、複数回バイアル、注射針の再使用など不適切な取り扱いによるものであった。
同様に、C型肝炎の6症例のアウトブレイクがラスベガス内視鏡センターでも発生した。これらの症例は単回使用バイアルから麻酔薬の投与分を引くために再利用されたシリンジが複数の内視鏡患者に使用されたことによる交差汚染が原因であった。

内視鏡的な病原体の伝播

数件のC型肝炎ウイルスの伝播の事例が内視鏡の再処理プロトコールの破綻によるものであった。「生検鉗子の滅菌不良」や「病院環境に直接接触したスタッフの手による清潔器具の汚染」によって病原体が伝播した。最近、「一方向性弁を付属したチューブが適切に使用されなかった」および「内視鏡の灌流チャンネルへの水ポンプに使用されたチューブの再処理が適切ではなかった」ということが米国の複数の内視鏡センターで確認された。このような状況では感染性病原体が伝播する可能性があるので、広範囲の患者に通達された。スクリーニングしたところ、肝炎やHIV感染の症例が複数見つかったが、同定された症例が過去の内視鏡検査に関連したものかどうかは確定していない。これまで、同定された感染症と内視鏡的曝露の関連性の可能性を示した疫学的もしくは微生物学的エビデンスはない。耳鼻咽喉科で用いられた内視鏡を介した同様の伝播が心配されたことがあるが、在郷軍人での1件の大規模研究によるC型肝炎の症例の遺伝子検査では伝播は実証されなかった。しかし、内視鏡のみならず、内視鏡の器具や付属器の再処理は破綻しやすいので、患者に曝露の危険性や感染のリスクを常に与えている。

CDCが1980~2002年の調査の記録をレビューしたとき、消化管内視鏡に関連したアウトブレイクはみつからなかった。最近、CDCは十二指腸内視鏡が関連する感染症のアウトブレイクを幾つか調査した。1990~2002年のデーターベースを再評価したところ、消化管内視鏡の検査中に病原体が伝播した可能性がある7件の事例が見つかった。2002~2010年のデーターベースによると、感染が疑われる症例が再処理の破綻後に発生しており、特定のチャンネルに適切な付属機器を使用しなかったとか、再処理のときにすべてのチャンネルを洗浄することが不十分であったときに発生している。2005年~2012年に入手されたデータを精密に調査したところ、患者への通達とスクリーニングの必要性が示された。それは、再処理の破綻が依然として問題となっているからである。2012年以降、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:Endoscopic retrograde cholangiopancreatography)後の感染の伝播が複数報告されている。症例に基づく病原体の伝播は感染の真の発生を低く見積もっているが、入手できるエビデンスはこれは稀な出来事であることを示唆している。消化管内視鏡での病原体の伝播について十分にデザインされた前向き研究はない。

十二指腸内視鏡による感染の伝播

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌やその他の多剤耐性病原体が、適切かつ最適な再処理にも拘らず、十二指腸内視鏡によるERCPにて患者から患者に伝播したことが報告されている。同様のアウトブレイクは欧州からも報告されている。米国では10~12件のアウトブレイクと少なくとも60件の臨床的感染が報告されている。過去3年間に世界では、十二指腸内視鏡が関連した可能性のある25件以上のアウトブレイク(250件以上の感染と20件以上の死亡を引き起こした)が報告されている。曝露した可能性のある患者1,000人以上がスクリーニング培養をするように助言され、少なくとも100人が無症候保菌者となった。伝播は鉗子起上装置の持続的汚染によるものであり、それらは十二指腸内視鏡の主要な製造元の機器のデザインで発生していた。

文献

  1. Petersen BT, et al. Multisociety guideline on reprocessing flexi ble GI endoscopes:2016 update. Gastrointest Endosc 2016:85,282-294

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長