ケンエーIC News 感染症トピックス
2017年12月

72号 レプトスピラ症と洪水

レプトスピラ症は、病原性のあるレプトスピラ属(註:レプトスピラ属には病原性のないものもある)の感染によって引き起こされる細菌性感染症である。ヒトが感染動物の尿に直接接触したり、尿に汚染した土壌や水(しばしば洪水のとき)に接触することによって感染する。米国において、洪水後にレプトスピラ症の患者が発生したため、その状況を紹介する1)

調査の発端

2016年8月、ルイジアナ州の中南部で広範な洪水が発生した。洪水の約1カ月後、ルイジアナ州保健所はレプトスピラ症の血清学的エビデンス(レプトスピラ属IgM抗体)のある2人の患者の発生報告を受け取った。検査がされたとき、患者は2人とも重症のため入院していたが、適切な治療によって回復した。病院の記録のレビューによると、患者は2人とも発症前に洪水に曝露していたことが明らかになった。これら2人のレプトスピラ症の患者の発生は、彼らの住居地域でそれぞれ過去29年間に報告された3件の症例を大きく超えて増加したことを示しているので、2016年の洪水に関連した他のレプトスピラ症の症例を同定するために調査が行われた。

レプトスピラ症

レプトスピラ症の患者の約90%は発熱、悪寒、吐き気、頭痛などの非特異的な症状を呈する自然治癒する疾患を経験する。脹脛と下部背部の筋肉の疼痛および化膿性分泌物のない結膜の紅潮が特徴である。患者の約10%が重症化し、それは黄疸、腎不全、無菌性髄膜炎、心臓不整脈、胃腸症状、肺出血、循環虚脱の組み合わせで特徴づけられ、死亡率は5~15%である。

症例定義

レプトスピラ症の症例の疑いは、洪水に曝露した患者において、2016年8月13日~9月21日の期間に、発熱に加えて、少なくとも2つの非特異的症状(筋肉痛、頭痛、黄疸、結膜紅潮、斑点状丘疹もしくは点状出血性皮疹)、もしくは、少なくとも1つの診断的指標となる重症疾患(無菌性髄膜炎、腎不全、肺合併症、心電図異常、胃腸症状、出血、急性腎不全を伴う黄疸)の症例として定義された。
ルイジアナ州イベント早期検出システム(LEEDS:Louisiana Early Events Detection System)は全州の症候群サーベイランス電子システムであるが、この質問票が8月13日~9月21日に洪水地域で勤務していた、レプトスピラ症に一致した症状や診断のある、病院治療を受けた患者を同定するために用いられた。ここで設定された期間は洪水期間(8月11日~8月20日)およびレプトスピラ症の潜伏期を含むように設定されており、それは洪水が始まってから2日後に始まり、水が引いてから30日までである。

調査

症例定義の症状および診断要素に合致した患者の病院記録がレビューされ、発熱のない患者やその他の診断を支持する検査エビデンスのある患者は除外された。残りの患者は洪水への曝露を確かめるためにインタビューされ、洪水に曝露した人はレプトスピラ症のPCR検査のための全血および尿検体を提供し、顕微鏡的凝集テスト(MAT:microscopic agglutination test)のために血清検体を提供した。MATは当初の2人の患者の血清でも実施され、そのうちの1人の患者の急性期尿検体がPCRにて検査された。すべての検査はCDCにて実施された。
LEEDSの質問によって、医療記録のレビューが必要な患者69人が見つけ出された。医学記録のレビューに基づいて、症例定義に一致しなかった患者を除外し、その後、症例定義に一致した18人の患者のうち13人がインタビューされた。これらの患者のうち、4人が洪水曝露を報告し、血液および尿検体を提出した。LEEDSで同定された患者はMATおよびPCRにてレプトスピラ属の感染が陰性であった。レプトスピラ症は当初の2人の患者ではMATにて確定され、そのうちの1人の患者では尿PCRにてLeptospira kirschneri DNAが同定された。

野生動物でのレプトスピラ属の蔓延度

レプトスピラ属はルイジアナ州の野生動物で流行している。ルイジアナ州野生動物・漁業部門によれば、ルイジアナ州の野生化ブタの集団での抗レプトスピラ属血清有病率は2015年は71%であった。この数字は2012年の米国農業部門によって推定された26%よりもずいぶん高い。米国農業部門サーベイランスはシカの集団でレプトスピラ症が相当増加していることを見つけ出しており、2007~2012年は平均7%の血清有病率であったのが、2015~2016年の狩猟期間では42%であった。

レプトスピラ症を疑うことの重要性

洪水後のレプトスピラ症の確定症例の追加同定はなかった。しかし、洪水によってケアへのアクセスが困難であったことや、重症ではなかったがゆえに医療を求めなかった患者がいたかもしれない。それ故、いくつかの症例は見逃されているかもしれない。
ルイジアナ州の野生動物でレプトスピラ属が流行していること(野生化ブタでL.kirschneriが確認されたことを含む)、および最近の洪水に関連したレプトスピラ症が2人いたことから、レプトスピラ症に一致した症状のある患者および未処理の水に曝露した患者(特に、洪水のときに)ではレプトスピラ症に疑うことが重要である。そして、レプトスピラ症の予防について公衆を教育すること、臨床症状について医師を教育することは早期の同定と治療を可能にするので、重症化を減らすかもしれない。

文献

  1. CDC. Notes from the Field: Postflooding Leptospirosis ̶ Louisiana, 2016
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/66/wr/pdfs/mm6642a9.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長