ケンエーIC News 感染症トピックス
2018年01月

73号 電子タバコ

米国外科学会および外科感染症学会が2017年に公開した手術部位感染ガイドラインに「手術の4~6週間前の禁煙は手術部位感染を減らす。そのため、現在のすべての喫煙者(特に、インプラント材料を用いた手術を受ける喫煙者)には禁煙することが推奨される。電子タバコも使用しないことが専門家でのコンセンサスである」と記載されている1)。フランス麻酔蘇生医学会もまた、周術期における喫煙管理のためのガイドラインのなかで電子タバコについて議論している。ここでは「術前は電子タバコを使用すべきではない」と「術前の禁煙のために既に電子タバコを用いている人に対して、電子タバコを使用することを止めさせる必要はない」の2点についての投票があったが、最終的な結論は得られず、勧告を提示することはできなかった2)。このように手術前の電子タバコについての議論が白熱しており、現時点では確固たる方向性が明らかでないが、それでは電子タバコとはどのようなものなのか?有害なのか?禁煙補助具として利用できるのか?CDCが電子タバコについての情報を公開しているので紹介する3)

電子タバコとは何か?

電子タバコには数多くの形とサイズがある。その多くは電池、発熱体、液体タンクを有している。電子タバコは通常は「ニコチン(通常タバコ、葉巻、その他のタバコ製品に含まれている依存性薬物)」「味付け」「エアロゾルの産生を補助する化学物質」を含有する液体を加熱することによってエアロゾルを作り出す。使用者は肺にこのエアロゾルを吸い込む。使用者が空気中に息をはきだすときに、居合わせた人もこのエアロゾルを吸い込んでいる。
電子タバコは多くの異なる名前で知られている。例えば、「イー・シグ(e-cigs)」「イー・フッカ(e-hookahs)」「モーズ(mods)」「ベイプ・ペンズ(vape pens)」「ベイプス(vapes)」「タンク・システムズ(tank systems)」「ニコチン電子送達システム(electronic nicotine delivery systems : ENDS)」などがある。
通常タバコ、葉巻、パイプに形を似せて製造されている電子タバコもあれば、ペン、USB、その他の日常器具に似ている電子タバコもある[図1]。タンク・システムやモーズはタバコ製品には似ていない。電子タバコを使用することを「ベイピング(vaping)」と呼ぶことがある。

図1

電子タバコ

電子タバコのエアロゾルには何が含まれているか?

電子タバコの使用者が機器から吸って、そして吐き出すエアロゾルには有害物質が含まれている。それには、下記ものが含まれるが、消費者がどの電子タバコが何を含んでいるのかを知ることは難しい。ニコチンが全く含まれていないとして販売されていた電子タバコにニコチンが含まれていたことがある。

  • ニコチン
  • 肺の奥深くに吸い込まれる極微細粒子
  • ジアセチル(重大な肺疾患を引き起こしうる化学物質)などの味付け
  • 揮発性有機物質
  • 発癌物質
  • ニッケル、スズ、鉛などの重金属

電子タバコは健康にどのような影響を与えるか?

電子タバコの歴史は浅い。そのため、科学者は長期の健康への影響について学んでいるところである。現在、我々が知っていることは下記のとおりである。

1. 殆どの電子タバコはニコチンを含有しており、それには健康への影響がある。

  • ニコチンは習慣性が高い。
  • ニコチンは胎児に毒性がある。
  • ニコチンは青年(20歳代の初めから半ば)の脳の発達に有害である。
  • ニコチンは妊婦と赤ちゃんの健康に有害である。

2.ニコチンの他にも、電子タバコには体に有害な物質が含まれている。

  • これには発癌化学物質、肺の奥深く到達する微小粒子が含まれる。しかし、電子タバコのエアロゾルは燃焼タバコ製品からの煙に比較すると、有害化学物質が少ない。

3.電子タバコは意図しない怪我を引き起こす。

  • 電子タバコの電池の欠陥が火事や爆発を引き起こすことがある。殆どの爆発は電子タバコの電池が充電されたときに発生している。
  • ニコチンの急性曝露は有害である。小児や成人が電子タバコの液体を飲み込んだり、吸い込んだり、皮膚や眼を通じて吸収すれば毒性がある。

電子タバコは通常タバコよりも安全か?

通常タバコの煙に含まれている7,000種の化学物質の致死的な混合物について考えてみると、電子タバコのエアロゾルの方が通常タバコより毒性化学物質は少ない。しかし、無害ということはない。

電子タバコは禁煙補助具になりうるか?

現時点では、FDA(Food and Drug Administration : 米国食品医薬品局)は電子タバコを禁煙補助具として認可していない。成人(妊婦を含む)の禁煙のために電子タバコを推奨するにはエビデンスが不十分だからである。電子タバコをすべてのタバコや有煙タバコ製品の代替として使用するならば、妊娠していない成人喫煙者を補助するかもしれない。現時点では、この問題についての研究は数少なく、結論は不確かである。コクランレビューによると、ニコチン入りの電子タバコがプラセボ―(非ニコチン)の電子タバコに比較して、喫煙者を長期に禁煙することを助けたという2件の無作為化比較試験のエビデンスがある。しかし、現存する研究にはいくつかの問題があり、それには「試験の数が少ない」「サンプルサイズが小さい」「推測値周囲の誤差範囲が広い」などがある。

文献

  1. American college of surgeons and surgical infection society: Surgical site infection guidelines,
    2016 Update.J Am Coll Surg. 2017; 224 : 59-74
    http://www.journalacs.org/article/S1072-7515(16)31563-0/pdf
  2. Pierre S et al.Guidelines on smoking management during the perioperative period.
    Anaesth Crit Care Pain Med. 2017 Jun;36(3) : 195-200
  3. CDC. Electronic cigarettes
    https://www.cdc.gov/tobacco/basic_information/e-cigarettes/index.htm

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長