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79号 HIV検査の積極的な実施のための推奨
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HIVの感染予防は極めて重要な対策であるが、感染したあとの迅速な検出と適切な治療も極めて重要である。感染者がエイズ発症することを防ぐのみでなく、パートナーへの感染を防ぐことができるからである。
平成30年1月18日、厚生労働省健康局結核感染症課長から「後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改正に係る留意事項について」が通知され1)、そこではHIV検査を適切かつ積極的に実施することが推奨されている。この通知には「HIV検査を口頭ではなく書面により同意を得る必要があると誤解している医療機関がある」と指摘しており、そのことが適切かつ積極的な検査の妨げとなっていると述べている。すなわち、書面による同意は必要ないのである。
それでは米国での現状はどうであろうか? CDCが2018年6月に週報で記述した「HIV感染について最近のリスクのある男女における最後のHIV検査からの間隔―米国、2006~2016年」に記載されているので紹介する2)

CDCの推奨

2006年以降、CDCは「13~64歳のすべての人々にHIV検査をルチーンに実施する」「ハイリスクの人には、少なくとも年に1回は再検査する」ということを推奨している3)。ハイリスクの人には「注射薬物使用者およびその性的パートナー」「性交と引き換えにお金や薬物を得る人」「HIV感染者の性的パートナー」「最近のHIV検査以降に複数のセックスパートナーを持った性的に活動的なゲイ、バイセクシャル、男性間性交渉者(MSM: men who have sex with men)、ヘテロセクシャルもしくはそのような人と性行為するヘテロセクシャルの人」が含まれる。
2017年、CDCは性的に活動的なMSMに年1回のスクリーニングを実施するという推奨を繰り返した4)。これはMSMが年1回のスクリーニングをすれば、HIV発生率が相当減少することを明らかにした系統的文献レビューに基づいたものである。

米国の現状

全米のサーベイランスデータによると、HIV感染のハイリスクの多くの人々が年1回のスクリーニングを受けておらず、診断の遅れが続いている。CDCが2006~2016年のデータを解析したところ、米国成人の非入院の人の僅か39.6%がHIV検査をしたことがあるに過ぎなかった。検査したことのある人では、最後の検査からの日数(中央値)は1,080日もしくは約3年であった。過去12ヶ月以内にHIV感染のリスクのある振る舞いのあった人々の僅か62.2%がHIV検査を受けたことがあるに過ぎず、このグループでの最後の検査からの日数(中央値)は512日(1.4年)であった。また、これまでHIV検査したことのある人の割合および最後の検査からの間隔は2006~2016年の期間ではあまり変化しなかった。
HIVのリスクが続いている人々でのもっと頻回なスクリーニングは新しい感染を防ぐために必要である。最近のHIVのリスクのある人では最後の検査からの日数(中央値)は他人よりも短いが、それでも1年を越えている。すなわち、最近のHIVリスクのある人でのHIVスクリーニングの頻度は最適とは言えず、それは2006年以降も事実上改善されていない[図]。

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スクリーニング検査の目的

早期の診断とHIVの増殖を抑制する効果的な治療は個人の罹患と死亡を減らすばかりではなく、他の人への伝播のリスクも減らすことができる。診断の遅延は「免疫系のダメージを最小にして、HIVの伝播を防ぐための早期の治療」の有益性を低下してしまう。HIVスクリーニングはHIVの予防と治療のための重要な入口でもある。HIV感染のリスクが続いている人にとって、年1回のスクリーニングはリスクを減らす機会を提供しており、それにはHIVの曝露前予防[註釈]も含まれている。

今後の対応

リスクの高い人を同定し、彼らが年1回のHIVスクリーニングを受けることを確実にする努力によって、罹患率、死亡率、他の人々への伝播を防ぐことができる。HIVリスクの続いている人々での再スクリーニング検査を増やすためには、電子カルテの画像表示といった既に存在している戦略や新規で革新的な戦略による標準的な臨床的実践としての日常的なスクリーニングが必要である。

文献

  1. 厚生労働省健康局結核感染症課長 後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針の改正に係る 留意事項について
    http://www.pref.saitama.lg.jp/a0701/kansen/kourousyou/documents/ryuuijikou.pdf
  2. Pitasi MA, et al. Interval since last HIV test for men and women with recent risk for HIV infection ̶ United States, 2006‒2016
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6724a2-H.pdf
  3. Branson BM, et al.Revised recommendations for HIV testing of adults, adolescents, and pregnant women in health-care settings.
    https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5514.pdf
  4. DiNenno EA, et al.Recommendations for HIV screening of gay, bisexual, and other men who have sex with men̶United States, 2017.
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/66/wr/pdfs/mm6631a3.pdf

[註釈]
曝露前予防:現在はHIVに感染していないが、HIV感染する危険性が高い人々をHIVから守るために、抗HIV薬を毎日内服すること

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長