消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

12.ベンザルコニウム塩化物(Benzalkonium Chloride)

毒性

(単位:mg/kg)

    LD50 MLD
マウス 皮下 64  
ラット 腹腔 14.5  
静脈 13.9  
  15
動脈   15
経口 240  
  250
皮下 400  

粘膜刺激性

ウサギ舌下粘膜に0.1,1,10%のベンザルコニウム塩化物を短時間接触法にて30分接触させ、30分、1、6、24、48、72時間後に肉眼的観察を行った結果、紅斑あるいは白苔として観察され、24時間後で最も強く認められた。また3濃度間の傷害の差も大きく認められた。

生殖に及ぼす影響

ベンザルコニウム塩化物の3,10及び30mg/kgを妊娠初期0日目から6日目まで毎日1回強制経口投与し、妊娠マウスの母体及び胎仔に及ぼす影響について検討した結果、高濃度の30mg/kg群において着床阻害あるいは流産を引き起こす可能性が示唆されたものの、100µg/kg以下の低濃度においては、生殖機能に対して何ら影響を及ぼさないものと考えられた。

致死量

ヒト経口推定致死量
50~500mg/kg

(10%液の場合 大人 25~250mL)

副作用

ベンザルコニウム塩化物は、皮膚刺激性、粘膜刺激性は極めて弱いが、濃厚な液を皮膚、粘膜に用いた場合、刺激症状が現われる。また、粘膜、創傷部位、炎症部位に長期間又は広範囲に用いた場合、全身吸収による筋脱力を起こす恐れがある。

アレルギー反応

  1. 79歳、男性。臀部掻痒感に対しベンザルコニウム塩化物を十分に希釈せずに高濃度で使用し続けたところ、腹部、外陰部、背部、臀部、大腿、両指間に紅斑、糜爛及び潰瘍を認めた。
  2. 44歳、女性。口腔外科手術前の皮膚消毒に0.1%ベンザルコニウム塩化物を用いたところ、塗布部位に限定して、周囲に発赤を伴う小水疱を形成した。
  3. 保存剤としてベンザルコニウム塩化物を含む噴霧溶液製剤により気管支狭窄を起こした。
  4. 21歳、看護師。日常ベンザルコニウム塩化物に接する機会が多くなり、両手に掻痒を伴った皮疹を生じた。
  5. 31歳、男性。潰瘍部の消毒にベンザルコニウム塩化物を使用したために接触皮膚炎を生じた。
  6. 82歳、男性。保存剤としてベンザルコニウム塩化物を含む噴霧製剤を皮膚潰瘍に対して使用し、接触皮膚炎を生じた。

点眼薬・点鼻薬における反応

ベンザルコニウム塩化物を保存剤として含む点眼薬による眼囲の色素沈着、アレルギー性結膜炎、及び表在性角膜炎、上皮損傷、壊死性強膜炎を起こしたと報告されている。
また、ベンザルコニウム塩化物を含む点鼻薬により、目、鼻、喉に炎症を起こしたという例もあるが、同様の症例報告はほとんど認められない。

  1. 57歳、女性。0.05%ベンザルコニウム塩化物を含有する点眼薬の使用後、両眼周囲に浮腫性紅斑や掻痒が生じ、鼻閉感や息苦しさを伴った。点眼テストでは眼周囲や胸部に蕁麻疹、左下腿に皮疹が出現した。
  2. 57歳、男性。4年間にわたり頻回にベンザルコニウム塩化物をそれぞれ0.03%、0.015%、0.005%含有する点眼薬3剤の使用と掻破を繰り返した結果、両下眼瞼に瘙痒を伴いびらん性硬結を主徴とする接触皮膚炎を認めた。

誤使用例

  1. 8ヶ月、男児。アルコール綿と間違い、10%ベンザルコニウム塩化物を浸した綿花を、3時間貼ったままであった。4日後には綿花を貼った部位に一致して、皮膚壊死、潰瘍、びらんを伴う紅斑局面となった。
  2. 5歳、男児。誤って50%ベンザルコニウム塩化物をアトピー性皮膚炎患部の消毒に用いていたことにより化学熱傷を生じた。
  3. 68歳、女性。左下腿痂皮性皮疹を綿に含ませた10%ベンザルコニウム塩化物で1回消毒。直後より刺激症状があり、夜には発赤疼痛増強。3日目には膿疱出現。7日目には壊疽状となった。
  4. 22歳、女性。左眼霰粒腫の手術の際、10%ベンザルコニウム塩化物で左眼瞼部を消毒し、アルカリ眼外傷を発生。角膜上皮剝離を認めた。

誤飲例

  1. 21歳、女性。10%ベンザルコニウム塩化物を約100mL誤飲した。口腔内と咽頭、喉頭蓋に発赤と腫脹を、食道に潰瘍、胃に発赤を認めた。
  2. 84歳、女性。10%ベンザルコニウム塩化物を誤飲した(50mL以下)。意識障害、肺水腫、血圧低下があり、約2時間半後に死亡した。
  3. 96歳、女性。10%ベンザルコニウム塩化物を口に含んだだけで、高度の口腔咽頭浮腫とびらんをきたし、窒息状態となった。
  4. 77歳、男性。10%ベンザルコニウム塩化物を誤飲し、経過中に肺水腫、消化管出血、腎不全及び血液凝固能異常をきたし、くも膜下出血で死亡。
  5. 73歳、男性。10%ベンザルコニウム塩化物を誤って口にふくみ、すぐに吐出したにもかかわらず、咽喉頭炎、食道炎を起こした。
  6. 31歳、女性。自殺目的で10%ベンザルコニウム塩化物を約200mL服用した。嘔吐、吐血、下血、呼吸困難、過呼吸などがみられ、著明な喉頭浮腫、膵炎、腐蝕性胃炎を認めた。
  7. 72歳、女性。10%ベンザルコニウム塩化物を約20mL服用した。呼吸困難と咽頭痛を訴え、泡沫状の嘔吐が見られた。上気道浮腫と水溶性下痢、消化管浮腫を認めた。
  8. 90歳、男性。自殺目的で10%ベンザルコニウム塩化物を約150mL服用した。頻呼吸、易出血性の口腔内びらん、咽頭・喉頭粘膜の著明な発赤と腫脹、食道粘膜の全周性剝離を認めた。
  9. 82歳、女性。10%ベンザルコニウム塩化物を約200mL誤飲した。食道全体に出血、浮腫、潰瘍、また、喉頭・気管支に著明な粘膜浮腫を認めた。第2病日にARDSを発症し、第21病日に酸素化能の低下、第27病日に死亡した。

注射例

41歳、男性。自殺目的で10%ベンザルコニウム塩化物を約15mL静脈注射した。1時間後呼吸困難となり、肺水腫、ヘモグロビン尿を認めた。

中毒症状

経口の場合

  • 口腔・粘膜刺激感、咽頭痛、上腹部痛、悪心、嘔吐、下痢又は便秘、消化管出血、流涎、多尿
  • 呼吸困難(呼吸筋麻痺)、肺水腫、窒息、努力性呼吸、喉頭浮腫、チアノーゼ
  • 血圧低下、ショック、痙攣、脱力、筋無力
  • 眼調節障害、精神錯乱、不安感、不穏、昏迷、意識混濁、昏睡
  • 遷延すれば腎不全
  • 摂取後1~2時間後に死亡することもある

※皮下注では局所血栓形成により壊死

成人が希釈液を少量誤飲してもあまり害はない(多くは速やかに回復)
但し、小児の場合であったり、高濃度液や、非経口的に投与された場合は危険

処置法

高濃度液又は大量の希釈液を経口した場合

中枢神経症状はほとんどの例で服用後25分以内に発生しており、以下の処置は早期に行う必要がある

  1. 希釈剤投与
    水又は牛乳、卵白を与える <蛋白質と化学的に結合するため>
    (少なくとも摂取量の100倍以上)
  2. 胃洗浄
    2~3Lの微温湯で1回250mL以下で行う
  3. 吸着剤投与
    薬用炭(40~60g → 水200mL)
  4. 緩和剤投与
    牛乳、卵白、植物油を1~2時間ごとに内服
    又はマグネシア乳(酸化マグネシウム10+水100)
  5. 下剤投与
    硫酸マグネシウム(30g → 水200mL)又は、マグコロール®P(50g → 水200mL)
    (中毒を起こすことがあるので、下痢が起きないときは注意)
  6. 輸液投与
  7. 呼吸管理(酸素吸入、人工呼吸など)
  8. 対症療法
    ・痙攣にはジアゼパム注(セルシン®)又はフェノバルビタール注(フェノバール®)など
    ・血圧低下にはドパミン注(イノバン®)、ノルアドレナリン注(ノルアドリナリン®
    ・筋力低下に注意し、必要ならば気管内挿管、補助呼吸
    ・ショックに対し補液と血管作働薬(ドパミン)
    ・強制利尿は脳浮腫を増強させる危険性があるので禁忌
    ・腎不全に血液透析
    ・高濃度の液で皮膚が汚染されたら水と石けんで洗う