消毒薬の選び方

消毒剤の毒性、副作用、中毒

16.オキシドール(Oxydol,Hydrogen Peroxide Solution)

毒性

過酸化水素(90%)の毒性

(単位:mg/kg)

    LD50 LC50 MLD LCL0
マウス 吸入       227ppm
腹腔 880      
経口 2000      
皮下 1072      
皮膚 1072      
ラット 吸入   2000mg/m3/4時間    
経口 376      
皮下 620      
皮膚 4060      
ウサギ 静脈 15000      
    4mg/kg  
皮膚     500  

ヒト最低中毒濃度(TCL0):10mg/m3(吸入)

発癌性

オキシドールは毒性及び刺激性が低い消毒剤であるが、長期大量投与より、マウスの十二指腸に腫瘍の発生が認められている。

  1. 飲料水に0.1%及び0.4%混入し、C57BLマウスに74日間投与したところ十二指腸癌が発生。しかしF-344ラットに0.6%及び0.3%78週間投与では腫瘍発生率に有意な差はなく、F-344ラットにおいては癌原性はないと判定された。

副作用

口腔粘膜の刺激

オキシドールを洗口に用いて、口腔粘膜に潰瘍が生じたとの報告がある。

発生するガスによる副作用

創傷部位から皮下組織に移行すると酸素ガスを発生し血管閉塞を起こすことがあると報告されている。

  1. 0歳、男性。変形性股関節症に対して亜酸化窒素などによる麻酔下、外反骨切り術が行なわれた。術野汚染のためオキシドールによる洗浄を実施した直後より、EtCO2(終末呼気炭酸ガス分圧)が32mmHgから19 mmHgへ低下し、PaCO2(動脈血炭酸ガス分圧)が37.7 mmHgから47.2 mmHgへ上昇した(酸素塞栓)。
  2. 54歳、男性。頸椎椎間板ヘルニアの診断の下に頸椎前方固定術を受けることとなった。オキシドール約30mLで術野を洗浄したところ、突然収縮期血圧が70mmHgに落ち、99%あったSao2(経皮的動脈血酸素飽和度)が90%に低下した(酸素塞栓)。
  3. 71歳、男性。喉頭癌再発のため喉頭全摘術施行。口腔咽頭をオキシドールで洗浄後約10分、術野の血液がチョコレート色となったため血中メトヘモグロビン濃度を測定したところ10.8%と上昇しており、メトヘモグロビン血症と診断された。
  4. 本剤を注射筒に入れて、圧力をかけて創部洗浄に用いたところ、皮下内に分解した酸素が溜まり、ガス産生菌による感染症と誤診された。
  5. 54歳、男性。本剤を胸腔内の洗浄に用いたところ、胸腔内に溜まった酸素ガスが血管内に入り、脳塞栓を生じた。
  6. 62歳、女性。皮膚の瘻孔をオキシドールで洗浄した直後に著明な心機能の低下、空気塞栓を認め、心室細動から心停止に至った。

誤使用例

  1. 67歳、男性。便秘がありオキシドールを浣腸したところ、肛門出血・便意頻回・残便感を生じた。発症後3日目に行った大腸内視鏡検査では、歯状線から35cmまでの直腸・S状結腸に粘膜の著明な発赤・浮腫を認め、下部直腸にはびらん・出血が見られた。
  2. 3歳、女児。オキシドール(過酸化水素1.5%)20mLを誤って浣腸、血性下痢を訴え来院、当日内視鏡像では直腸全周性に不規則で浅い潰瘍が発赤の強い浮腫粘膜に囲まれていた。

誤飲例

73歳、女性。自殺目的にてオキシドールを200mL飲用。泡沫状の泡を150mL程度嘔吐。肝内に門脈ガス、胃壁内気腫像、胃十二指腸の浮腫、声帯・食道・胃・十二指腸粘膜の発赤、びらんを認めた。

中毒症状

高濃度の場合(10%以上)

  • ・口腔粘膜の刺激症状
  • ・口内炎、咽頭・喉頭炎、食道炎をはじめとした消化管の炎症を起こす
  • ・悪心、嘔吐(3%前後の濃度でも起きる)
  • ・有機物との接触により分解し、多容量の酸素ガスを発生するため、膨腸を起こす
  • ・眼に入った場合は角膜の潰瘍形成又は穿孔

処置法

経口の場合

過多量、高濃度液でない限り生命に別状はない

  1. 牛乳200mL投与(分解促進)
  2. 対症療法
    酸素ガス発生により、高度の膨腸が生じた場合(ガスコン®ドロップ1回5mL、1日3回投与、また導管ガス排除)

眼に付着した場合

流水で15分間以上十分洗浄する