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56号 WHO 淋菌感染症の治療ガイドライン
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淋菌は耐性化が進んでおり、既に、キノロン系薬は使用できなくなっている。現在はセフトリアキソンが第一推奨薬として利用されているが、セフトリアキソンへの感受性が低下した淋菌も報告されている。2016年6月、WHOが「淋菌感染症の治療ガイドライン」1)を公開したので重要ポイントを抜粋して紹介する。

淋菌感染症の臨床症状

淋菌感染症は合併症がなければ、通常は尿道分泌物および排尿困難といった症状のある男性の尿道炎としてみられる。尿道分泌物は「少量かつ粘液性」から「大量かつ膿性」まで幅広い。女性の淋菌感染症では無症状が多く、感染している女性の半数以下が異常な膣分泌物、排尿困難、下腹部の不快感、性行疼痛症などの非特異的な症状を訴える程度である。最も多い臨床症状は粘膿性子宮頸管炎による膣分泌物および子宮頸部の脆弱性である。直腸感染症の多くは男女ともに無症候性であるが、ときどき、直腸および肛門の疼痛もしくは分泌物を訴える患者がいる。咽頭感染症も殆どが無症状であるが、軽度の咽頭痛や咽頭炎がみられることもある。淋菌感染症の女性の殆どで、認識できるような症状がないので、感染症が認識されず治療もされない状況となっている。このような感染症は未治療であっても、通常は自然に治癒する。しかし、骨盤炎症性疾患(子宮内膜症、卵管炎、卵管卵巣の膿瘍など)のような重篤な合併症を引き起こすことがあり、子宮外妊娠や不妊症の原因となっている。男性では未治療の尿道感染症は精巣上体炎、尿道狭窄、不妊症を引き起こすことがある。感染を繰り返すことによって、合併症のリスクは増加する。 淋菌感染症の母親の幼児は出産時に感染することがあり、その結果、眼の化膿性分泌物や眼瞼の腫脹を呈する新生児結膜炎となる。未治療の結膜炎は瘢痕および視力消失を引き起こすことがある。

検査診断

淋菌は培養や核酸増幅検査(NAAT:nucleic acid amplification test)、ときにはグラム染色によって診断できる。NAATは高感度かつ特異的な診断検査法であり、幅広い検体で実施できる。例えば、尿、外陰膣・子宮頸部・尿道のスワブなどである。NAATは感度が90%以上あり、培養(>85%)よりも感度が高い。ただし、直腸や咽頭の検体では感度が低いことが多い。NAATによって感度は様々であり、特に、初期世代のNAATでは特異度が低く(98.1‒99.7%)、低い陽性的中率となっている。
これは、特に蔓延率の低い集団においてみられ、他の種類のナイセリア属との交差反応によるものである。現在の利用可能な商業用NAATの欠点は抗菌薬感受性の情報を提供できないことである。それ故、感受性検査のためにはNAATと並行して培養を実施すべきである。微生物学的培養および抗菌薬感受性検査のために、淋菌感染症を疑う症例すべてから検体を収集すべきである。但し、これは地域の財源を考慮した範囲となる。

淋菌の培養は特異的かつ安価である。その感度は尿道および子宮頸管感染では85‒95%である。淋菌を最適に分離するためには、良好な検体採取、十分かつ適切な培地への適時な接種、適切な移送と適切な培養時間が必要である。グラム染色は、特に症状のある尿道炎の男性の淋菌感染症の予測診断を提供することができる。但し、男性の無症状感染では僅か50‒70%がグラム染色にて陽性になるに過ぎない。子宮頸部および直腸のグラム染色の診断は信頼度が低い。そして、咽頭検体は検査すべきではない。

生殖器および肛門直腸の淋菌感染症の治療

地域の耐性データによって、2剤治療もしくは単剤治療のどちらを選択するかを決定することを推奨する。地域の耐性データが入手できなければ、生殖器もしくは肛門直腸の淋菌感染症の患者には単剤治療よりも2剤治療を勧める。これらは妊婦にも適用できるが、合併症について濃厚に監視すべきである。

2剤治療(下記のいずれかを選択する)

  • セフトリアキソン250mg筋注(単回)+アジスロマイシン1g内服(単回)
  • セフィキシム400mg内服(単回)+アジスロマイシン1g内服(単回)

単剤治療(抗菌薬の感受性を確認している地域での最近の耐性データに基づいて、下記の1つを選択する)

  • セフトリアキソン250mg筋注(単回)
  • セフィキシム400mg内服(単回)
  • スペクチノマイシン2g筋注(単回)

解説:入手可能な淋菌の抗菌薬感受性データによると、キノロン系薬への耐性は高率であり、アジスロマイシン耐性が出現し、セフトリアキソンおよびセフィキシムへの感受性の低下がみられている。「耐性淋菌が出現している」および「単剤治療を選択するという決断のための感受性のサーベイランスデータが多くの臨床現場で不足している」ので、2剤治療が推奨される。

口腔咽頭の淋菌感染症の治療査

成人および青年の口腔咽頭の淋菌感染症には、単剤治療ではなく2剤治療を推奨する。下記のオプションを提案する。

2剤治療(下記のなかの1つを選択する)

  • セフトリアキソン250mg筋注(単回)+アジスロマイシン1g内服(単回)
  • セフィキシム400mg内服(単回)+アジスロマイシン1g内服(単回)

単剤治療(抗菌薬の感受性を確認している地域での最近の耐性データに基づく)

  • セフトリアキソン250mg筋注(単回)

解説:口腔咽頭の淋菌感染症では単剤治療後の治療不成功が観察されている。そのため、単剤治療よりも2剤治療を提案する。この勧告は妊婦にも適用できるが、合併症について濃厚に監視すべきである。口腔咽頭感染症は肛門直腸感染症と同程度に積極的に治療すべきである。

治療不成功後の淋菌感染症の再治療

治療が不成功であった淋菌感染症の患者には下記のオプションを提示する。

  • 再感染が疑われるならば、WHO推奨のレジメにて再治療し、禁欲を強化するか、コンドームを使用し、そして、パートナーに治療を提供する。
  • WHOに推奨されていないレジメで治療したあとに、治療不成功が発生したならば、WHO推奨のレジメにて再治療する。
  • 治療は不成功であったが、耐性データが入手できたならば、感受性に基づいて再治療する。
  • WHO推奨の単剤治療による治療後に治療不成功が発生したならば、WHO推奨の2剤治療にて再治療する。
  • WHO推奨の2剤治療のあとに治療不成功が発生したならば、下記の2剤治療のなかの1つで再治療する。
    • セフトリアキソン500mg筋注(単回)+アジスロマイシン2g内服(単回)
    • セフィキシム800mg内服(単回)+アジスロマイシン2g内服(単回)
    • ゲンタマイシン240mg筋注(単回)+アジスロマイシン2g内服(単回)
    • (口腔咽頭感染症でなければ)スペクチノマイシン2g筋注(単回)+アジスロマイシン2g内服(単回)

文献

  1. WHO Guidelines for the treatment of Neisseria gonorrhoeae
    http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/246114/1/9789241549691-eng.pdf?ua=1

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長