コラム

column

【医師監修】インフルエンザになったときに活用できる傷病手当金制度

2022.11.28| 感染症・消毒

インフルエンザに感染すると療養のため長期の間、仕事を休まざるを得ない状況になることがあります。この間、有給休暇が使えずに欠勤扱いとなった場合、休んだ日数分の賃金は「欠勤控除」として給与から引かれ、収入面でも大きなダメージを受けることになってしまいます。そこでぜひ活用したいのが、傷病手当金制度です。今回は、安心して長期療養するために知っておきたい、傷病手当金制度について解説します。

安心して働くために知っておきたい傷病手当金制度とは

会社員イメージ

傷病手当金制度とは、健康保険に加入している会社員などの被保険者や、その家族の生活を保障するために設けられた制度です。被保険者が病気やケガなどで会社を休まなければならず、その間、会社から十分な報酬が受けられない場合、健康保険から標準報酬日額の3分の2が手当金として支給されます。給付の対象は健康保険に加入している被保険者なので、扶養家族が療養のためアルバイトやパートなどを欠勤しても支給されません。

傷病手当金制度は、療養に数週間から数カ月かかる大病や大ケガに限らず、1週間程度で完治するインフルエンザの場合にも利用することができます。ただし、利用するには一定の条件を満たしておかなければなりません。続いて、傷病手当金の支給条件について具体的にみていきましょう。

傷病手当金の支給条件

説明を受ける会社員

傷病手当金の支給を受けるには、次の4つの条件をすべて満たしていなければなりません。

1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
支払いの対象となる病気やケガは、業務以外での事由によるものである必要があります。業務上や通勤災害による病気やケガの療養の場合は、労災保険の給付対象となるため傷病手当金の対象にはなりません。また美容整形など、病気と見なされないものも支給対象外です。

2. 仕事に就けないこと
医師が「仕事に就くことができない」と認めた期間のみが傷病手当金の対象期間となります。「まだ本調子じゃないから、もう一日休もう」など、本人が大事をとって休んだ日は対象となりません。

3. 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
連続して欠勤した最初の3日間を「待機」といい、この期間は支給対象となりません。なお「待機」には、有給休暇、土日・祝日などの公休日も含まれます。また、体調を崩して会社を早退した場合、その日も「待機初日」としてカウントされます。
4日目以降で仕事に就けず、給与支払いが受けられない日が支給対象となります。これにも公休日が含まれるため、制度を利用する際は公休を含めた期間や日数で申請しましょう。

4. 休業期間中、給与の支払いがないこと
有給休暇を利用する場合には、傷病手当金制度は利用できません。また企業によっては、病気やケガなどで欠勤する労働者に病気休暇制度に基づいて、一部給与を支払う場合がありますが、その額が傷病手当金よりも少なければ差額が支給されます。

インフルエンザで欠勤した場合の支給対象

傷病手当金の支給条件は分かりました。それでは、インフルエンザにかかった場合、実際の支給対象はどのようになるのか、モデルケースをみてみましょう。

<モデルケース>
木曜の午前中、Aさんは勤務中に体調を崩し、早退をして診療を受けました。検査の結果、インフルエンザであることが判明。会社の就業規則に基づき翌日から土・日曜を含む5日間、自宅療養をし、水曜から仕事復帰しました。

この場合、傷病手当金が支給される対象日数は、待機の3日間以降に連続して休んだ日曜/月曜/火曜の3日間です。傷病手当金の支給額の計算方法は、1日当たりの金額:【支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額】(※)÷30日×(2/3)となります。 Aさんの日給が1万円とすると、6,667円×3日=2万1円が支給されることになります。待機期間中は傷病手当金が支給されませんが、この部分の収入を補うため、有給休暇を利用することは可能です。

傷病手当支給表

なお、支給対象期間は、支給開始日から最長で1年6カ月あります。ただし、途中で仕事に復帰した期間があれば、その間は支給対象外となります。しかし、復帰後に同じ病気やケガの療養のため再び欠勤することになった場合、支給開始日からカウントして最長1年6カ月までは傷病手当が支給される、という仕組みになっているのです。
インフルエンザの場合は、原因となるウイルスのタイプがさまざまであるため、感染の都度「別の傷病」として扱われます。つまりインフルエンザにかかったとしても、その都度、傷病手当金の制度は利用できるのです。

(※) 詳しくはこちらへ
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g6/cat620/r307/#q2

傷病手当金制度を利用したほうがいいケース

傷病手当金制度は心強い制度ですが、給与が全額支給される有給休暇の方が、収入の面ではメリットが大きいです。そのため有給休暇に余裕がある場合は、あえて傷病手当金制度を利用しなくてもよいでしょう。しかし、仕事を始めたばかりで有給休暇が支給されていなかったり、すでに消化したりしている場合は、傷病手当金制度を利用するのがオススメです。また、旅行や、家族の病気などに備えて有給休暇を残しておきたい場合も、傷病手当金制度を利用するとよいでしょう。

傷病手当金の申請方法

インフルエンザによる欠勤でも傷病手当金制度が利用できることが分かりました。それでは、実際にどのような手順で申請するのか、必要な書類や手順について解説します。

●申請に必要な書類
傷病手当金支給申請書

●申請の時効
傷病手当金を申請する時効は、仕事に就けなくなった日の翌日から2年です。インフルエンザの療養時は回復に努め、治ってから速やかに申請手続きを行いましょう。

●申請の手順
1. 会社に報告
インフルエンザの療養のため、長期欠勤することを会社に報告します。このとき、傷病手当金を申請したい旨も相談しておきます。

2. 申請書を取り寄せる
「傷病手当金支給申請書」を準備します。協会けんぽや保険組合から取り寄せるほか、ホームページからダウンロードすることもできます。

3. 医師に「意見書」の記入を依頼
「傷病手当金支給申請書」の中に「意見書」があります。これは、欠勤期間中、仕事に就くことができなかったことを証明するための書類です。この「意見書」への記入を、医師に依頼しましょう。病院によっては、記入に2週間程度かかる場合もあるため、どれくらい時間を要するか、事前に確認しておくと安心です。

4. 会社に「事業主証明」の記入を依頼
「傷病手当金支給申請書」の中の「事業主証明」の欄への記入を会社へ依頼します。これによって、欠勤期間中、給与が支払われていなかったことが証明されます。

5. 本人記入を済ませ、「傷病手当金支給申請書」を会社へ提出
「意見書」と「事業主証明」への記入が完了したら、本人記入を済ませ、会社に提出します。その後、会社から健康組合などに書類が提出され、申請が完了します。ほとんどの企業では会社が窓口となって行いますが、本人が直接健康組合に提出することも可能です。

まとめ

傷病手当は被保険者やその家族の生活を支えてくれる、心強い制度です。有給休暇が使えない場合も、制度を利用することで収入が保障されます。ただし、利用するための条件や支給されない待機期間などもあるため、制度について正しく理解しておかなければなりません。今回紹介した内容を参考に、上手に制度を活用しましょう。

木村医師よりコメント

有給休暇と傷病手当金、両方を利用することはできません。ですので、有給休暇が使えるときには、あまり傷病手当金にお世話になることがないかもしれません。しかし、勤め始めたばかりという場合には有給休暇もないため心強い制度となります。制度を利用するためには、ある一定の条件が必要となり、書類等の提出も必要です。よく確認し、間違いがないよう利用を進めていただければと思います。

監修者

医師:木村眞樹子

都内大学病院、KDDIビルクリニックで循環器内科および内科として在勤中。内科・循環器科での診察、治療に取り組む一方、産業医として企業の健康経営にも携わっている。総合内科専門医。循環器内科専門医。日本睡眠学会専門医。ビジョントレーニング指導者1級資格。

 

この記事を読んだあなたに
オススメの製品