消毒薬の選び方

各種消毒薬の特徴

4.過酢酸(エタンペルオキソ酸)

特徴

0.3%過酢酸(アセサイド®など)は、市販消毒薬のなかではもっとも強力な抗菌効果を示す消毒薬である。
すなわち、すべての微生物に有効であるのみならず(図8)、ウイルスや結核菌を5分間、枯草菌(Bacillus atrophaeus、旧名 B.subtilis)の芽胞を10分間以内という短時間で殺滅できる1,2)
また、グルタラール(ステリハイド®など)やフタラール(ディスオーパ®)と異なり、蛋白を凝固させないという利点もある。
すなわち、器材への蛋白凝固は生じない。さらに、廃棄後には最終的に水に分解するため、環境に優しい消毒薬といえる。

一方、本薬は強力な酸化剤であるため、金属劣化や変色の原因になることがある。
したがって、本薬への10分間を超える浸漬は避けるとともに、内視鏡への適応では器材劣化が生じるか否かを前もってその内視鏡メーカーに確認しておく必要がある。

図8. 微生物の消毒薬抵抗性の強さと、過酢酸の抗菌スペクトル

微生物の消毒薬抵抗性の強さと、過酢酸の抗菌スペクトル

消毒対象

過酢酸は内視鏡の消毒に適している1,3~10)。また、10分間以内に枯草菌の芽胞を殺滅できるので、化学滅菌剤としても利用できる。

なお、内視鏡自動洗浄機への本薬の充填は、カセット方式で行われる(図9)。
このため、内視鏡自動洗浄機での使用では、簡便に取り扱えて、かつ充填時での蒸気暴露の危険性がないといった利点がある。表3に、内視鏡用の消毒薬の概要をまとめた。

図9. 内視鏡自動洗浄機への過酢酸の充填

内視鏡自動洗浄機への過酢酸の充填

カセット方式のため簡便である。

表3.内視鏡用の消毒薬の概要

項目/消毒薬 消毒に要する時間 滅菌に要する時間 材質適合性 留意点
過酢酸 5分間 10分間 一部不可
  • 液の付着に注意!(化学熱傷を生じる)
  • 蒸気の吸入や曝露に注意!(粘膜を刺激する)
  • 消毒後の内視鏡に対して十分なすすぎ(リンス)が必要
グルタラール 10分間 6時間 良好
フタラール 10分間 96時間 良好

取り扱い上の留意点

過酢酸の希釈液(実用液;0.3%液)は経時的に分解するので、希釈後は9日間までの使用にとどめる。ただし、内視鏡自動洗浄機での使用期限は9日間もしくは25回である。

一方、過酢酸の蒸気は呼吸器系や眼の粘膜を刺激するので、本薬の使用に際しては換気に対する配慮が必要である11)
窓の開放や、強力な換気装置の使用で対応する。また、紙マスク(マスキー51®;興研)などの着用も勧められる(図10)。

なお、過酢酸の蒸気は空気より重いので、換気扇の設置は眼より下の位置が望ましい。また、本薬の皮膚への付着や、眼への飛入に対しても十分な注意が必要である。

図10. 過酢酸の吸入防止に用いるマスク

過酢酸の吸入防止に用いるマスク

引用文献

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  7. Rey J.F., Bjorkman D., Duforest-Rey D., et al: WGO-OMGE and OMED Practice Guideline Endoscope Disinfection, 2005.
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  9. BSG Endoscopy Committee Working Party: Cleaning and disinfection of equipment for gastrointestinal endoscopy. Report of a Working Party of the British Society of Gastroenterology Endoscopy Committee. Gut, 1998; 42, 585-593.
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  11. Koch S., Karamer A., Stein J. et al: Investigation of mutagenicity in sperm-head test/mouse and mutagenic potency of 2 disinfectants on the basis of peracetic acid and phenolics. Zbl. Hyg. 1989; 188, 391-403.