Vol. 39

ジカ熱

「ジカ熱」という聞きなれない感染症があります。この感染症は症状が軽いので、入院したり、死亡することは殆どありません。しかし、妊娠中もしくは妊娠予定の女性には是非とも知っていただきたい感染症です。

病原体はジカウイルスです。ジカウイルスは1947年にウガンダ(アフリカ)のエンテベ市のジカ森で捕獲されたアカゲザルでみつかったウイルスです。このウイルスはデング熱、黄熱病、日本脳炎、ウエストナイル熱の仲間で、蚊を媒介して伝播します。流行地域はブラジル、チリ、コロンビア、エルサルバドル、グアテマラ、メキシコ、ベネズエラなどの中南米ですが、アフリカ、東南アジア、太平洋諸島でも集団感染がみられることがあります。日本人旅行者がポリネシア・ボラボラ島でジカ熱に罹患したという報告がありますので、旅行や出張で流行地域に訪れる人は十分に気を付けてほしいと思います。

ジカ熱の症状は発熱、発疹、関節痛、結膜炎などです。このような症状が数日~1週間程度持続しますが、軽度であることが殆どです。感染しても症状がみられない人が多く、感染者の5人に1人程度で症状がみられるに過ぎません。従って、入院を必要とするようなことは殆どありません。しかし、妊婦では大変問題となる感染症なのです。このウイルスは早産、先天性障害、小頭症を引き起こすからです。2015年12月の時点でジカウイルスに感染した母親からの新生児で1,000件以上の小頭症状がブラジルで報告されています。これは前年度に比較して20倍の増加でした。このようなことから、妊婦は流行地域には渡航しないことがよろしいでしょう。

ジカウイルス感染症への有効な治療法はありません。ワクチンもありません。そのため、蚊に刺されないことがとても大切です。ジカウイルスを媒介する蚊は昼間に活動するので、流行地域で昼間に活動する人は蚊よけスプレー、長そでの衣類、長ズボンなどを用いて蚊にさされることをさけるようにします。ただし、日本から持ち込む蚊よけスプレーは薬剤濃度が低いので有効時間に注意してください。窓や扉を閉めて蚊が室内に入り込まないようにすることも大切です。ジカウイルスに感染してから1週間は血液中にウイルスが流れているので、その時期に蚊に刺されると、蚊がジカウイルスに感染し、家族や他の人々に感染させてしまいます。そのため、ジカウイルスに感染した可能性のある人も蚊に刺されないようにします。感染してしまった場合には、症状に合わせた対症療法のみとなります。