Vol. 62

淋菌感染症

最近、医療の現場では淋菌感染症の治療に困っています。淋菌が様々な抗菌薬に耐性となっているからです。現在、淋菌感染症の治療として安心して使用できる治療薬はセフトリアキソンという抗菌薬のみとなってしまいました。この抗菌薬に耐性の淋菌が流行すれば、もう手の施しようがなくなります。そのようなことから、淋菌感染症について解説します。

淋菌感染症は男性と女性では全く異なる症状を呈します。男性では尿道炎となり、排尿時の痛みや尿に膿が混ざるといった強い症状がみられます(一部の男性では無症状のこともあります)。そのため、後遺症を残す前に受診するので、男性では後遺症がみられることは殆どありません。しかし、他の人への伝播を防ぐほど、すぐには受診しないので、感染源にはなりえます。潜伏期は2~9日です。

女性では子宮頚管炎(子宮の入り口の頚管の粘膜の炎症)となりますが、症状が軽くて気づかれず、骨盤炎症性疾患(子宮、卵巣、卵管、骨盤腹膜などの骨盤内の臓器の感染症)にまで進展してしまうのです。その結果、卵管に障害を呈し、不妊・子宮外妊娠の原因となってしまいます。このようなことから、25歳未満の性的活動性のある女性には症状がなくても淋菌の検査をするスクリーニング検査をおすすめします。

淋菌感染は咽頭にみられることがあります。この場合、症状はみられませんが、泌尿生殖器の淋菌を駆除するよりも咽頭の淋菌の駆除の方が困難です。その理由としては、「咽頭から分離される淋菌は抗菌薬への感受性が生来低いのではないか?」「咽頭の粘膜表面では抗菌薬は効率的には機能しないのではないか?」「咽頭の粘膜表面の防御能は他部位の粘膜表面よりも弱いのではないか?」など様々なことが考えられています。

淋菌感染症を治療したら、7日は性交渉しないようにします。そして、すべてのセックスパートナーが治療されるまで性交渉しないことが大切です。淋菌感染症は何度も再感染することがあるからです。淋菌治療した男女はパートナーが感染している可能性があり、再び淋菌感染してしまう危険性が高いので、再感染の有無をみるために治療後3ヶ月で再検査するのがよいでしょう。

既に述べたように、淋菌は様々な抗菌薬に耐性となっています。そうであるからといって、消毒薬にも耐性ということはありません。消毒薬で容易に死滅します。また、淋菌は環境の変化に脆弱な細菌であり、患者の粘膜から離れると数時間で感染力を失います。日光、乾燥、温度の変化でも簡単に死滅します。したがって、公衆風呂、プール、サウナなどで感染することはありません。性行為以外で感染することは稀であると思ってください。