Vol. 67

髄膜炎

頭痛と発熱があり、診療所に受診したところ、「髄膜炎の疑いがあるので大きな病院に紹介しましょう」と言われたら、どう思いますか?「髄膜炎」と聞くと、何らかの病原体が頭の中に入り込み、意識がなくなったり、手足が動かなくなったりするのではと心配になることでしょう。ここでは「髄膜炎」について解説します。

髄膜炎の原因にはウイルス、細菌、結核菌、真菌などがありますが、最も頻度が高いのがウイルス性髄膜炎です。さまざまなウイルスが髄膜炎を引き起こすことができますが、それらの70~80%程度を占めているのがエンテロウイルス属と呼ばれるウイルスです。これにはエコーウイルスとコクサッキーウイルスが含まれています。「エンテロ」というのは「腸管」という意味です。エンテロウイルスに感染している人からの糞口感染が感染経路ですが、飛沫感染もあります。小児では1歳未満の幼児および5~10歳でみられ、夏から初秋に流行します。潜伏期は4 ~6日で、症状は発熱、頭痛、吐き気などです。エンテロウイルスによる髄膜炎の予後は良好であり、完全に回復することが殆どです。おたふくかぜの原因ウイルスであるムンプスウイルスもまた髄膜炎を引き起こすことがあります。この髄膜炎はワクチンにより予防可能な疾患といえます。

細菌性髄膜炎については適切な抗菌薬が使用されなければ致死的となったり、後遺症を残したりします。原因菌は患者の年齢によって異なり、生後1か月未満ではB群溶血性連鎖球菌と大腸菌、生後1ヶ月から50歳までは肺炎球菌と髄膜炎菌、50歳以上では肺炎球菌、リステリア、グラム陰性桿菌という具合です。小児ではインフルエンザ菌による髄膜炎が問題となっていましたが、ワクチンの接種によって激減しました。肺炎球菌による髄膜炎についてもワクチンの予防効果が期待されています。

ウイルス性や細菌性髄膜炎の他には、結核菌や真菌による髄膜炎があります。結核性髄膜炎では結核菌が肺結核の病巣から血流にのって中枢神経系に到達することによって引き起こされます。真菌性髄膜炎では真菌が吸い込まれることによって肺に侵入し、血流に乗って中枢神経系に到達しますが、副鼻腔から直接浸潤することもあります。これらはゆっくりと発症し、微熱や食欲不振といった症状から始まり、徐々に進行してゆきます。真菌性髄膜炎は悪性腫瘍や膠原病などの基礎疾患、抗がん剤や副腎ステロイドホルモンなどの治療などによって抵抗力が低下している人で発症することが殆どです。これらの髄膜炎は適切な治療がなされなければ予後は不良です。