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41号 免疫抑制治療におけるHBV再活性化の予防と治療のための米国消化器病学会ガイドライン
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B型肝炎患者やHBVキャリアでは当然のことながら、体内にB型肝炎ウイルス(HBV:hepatitisB virus)が存在しているが、既感染者(HBs抗原(-)かつHBc抗体(+)またはHBs抗体(+))もまたHBVが体内に潜在していることが明らかになっている。キャリアや既感染者に免疫抑制治療や化学療法を実施することによって、HBVが再増殖することがあるが、これを「HBV再活性化(HBVr:hepatitis B virus reactivation)」という。特に、既感染者での肝炎を「de novo B型肝炎」と呼んでいる。HBV再活性化による肝炎は重症化しやすく、肝炎治療の間は原疾患の治療が困難になるので、発症予防が大切である。この場合、「どのような患者(HBs抗原およびHBc抗体の有無)」に「どのような免疫抑制治療や化学療法」を行うと「どの程度の頻度」でHBV再活性化がみられるかを明らかにし、再活性化を防ぐために抗ウイルス薬(日本では核酸アナログのエンテカビルが推奨されている)を投与するかどうかを見極めなければならない。
免疫抑制作用のあるすべての薬剤について、再活性化を心配するとなると臨床現場が混乱する。例えば、救急外来に受診した重症喘息の患者に1回のみのコルチコステロイド治療をする場合にもHBV再活性化を気にしなければならなくなる。そうなると、HBV関連検査を多忙な救急外来でも実施し、検査結果を得てから治療することになり、実践的ではない。米国消化器病学会(AGA:American Gastroenterological Association)が、免疫抑制作用のある薬剤とHBs抗原/HBc抗体の有無に基づいて、HBV再活性化の可能性を低、中等度、高リスクグループに分類し、抗ウイルス薬の予防投与の必要性について記述しているので紹介する1)

高リスクグループ

高リスクグループは、症例の10%を越える頻度でHBV再活性化が予測されることによって定義されるが、これには下記が含まれる[表]。

  1. B細胞傷害薬(リツキシマブ、オファツムマブなど)で治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  2. アントラサイクリン誘導体(ドキソルビシン、エピルビシンなど)で治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)の患者
  3. コルチコステロイドの中等度量(プレドニゾン10~20 mg/日もしくは同等量)もしくは高用量(プレドニゾン > 20mg/日もしくは同等量)の4週間以上の連日の治療がなされたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)の患者
推 奨:
免疫抑制治療を受けているハイリスクの患者には抗ウイルス薬の予防を推奨する。
コメント:
免疫抑制治療を終了しても、少なくとも6 カ月間は抗ウイルス治療を継続する(B細胞傷害薬では少なくとも12カ月間継続する)

中等度リスクグループ

中等度リスクグループは、症例の1~10%の頻度でHBV再活性化が予測されることによって定義されるが、これには下記が含まれる[表]。

  1. 腫瘍壊死因子α阻害薬(エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブ、インフリキシマブなど)で治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  2. その他のサイトカインもしくはインテグリン阻害薬(アバタセプト、ウステキヌマブ、ナタリズマブ、ベドリズマブなど)で治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  3. チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ニロチニブなど)で治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  4. コルチコステロイドの低用量(プレドニゾン<10mg/日もしくは同等量)の4週間以上の治療がなされたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)の患者
  5. コルチコステロイドの中等度量(プレドニゾン10~20mg/日もしくは同等量)もしくは高用量(プレドニゾン> 20mg/日もしくは同等量)の4週間以上の連日の治療がなされたHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  6. アントラサイクリン誘導体(ドキソルビシン、エピルビシンなど)で治療されたHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
推 奨:
免疫抑制治療を受けている中等度リスクの患者には抗ウイルス薬の予防を推奨する。
コメント:
免疫抑制治療を終了しても、少なくとも6カ月間は抗ウイルス治療を継続する。長期の抗ウイルス薬の使用や費用を回避したい患者および小さな再活性のリスクまでは回避の必要がない患者(特に、HBs抗原(-)の患者)は抗ウイルス薬の予防投与をしないのが理に適っているかもしれない。

低リスクグループ

低リスクグループは、症例の1%未満の頻度でHBV再活性化が予測されることによって定義されるが、これには下記が含まれる[表]。

  1. 伝統的な免疫抑制薬(アザチオプリン、6 – メルカプトプリン、メソトレキセートなど)にて治療されたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  2. 関節内コルチコステロイドの治療がなされたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  3. 如何なる投与量であっても、1週間以下の経口コルチコステロイドの連日治療がなされたHBs抗原(+)/HBc抗体(+)もしくはHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
  4. コルチコステロイドの低用量(プレドニゾン<10 mg/日もしくは同等量)の4週間以上の治療がなされたHBs抗原(-)/HBc抗体(+)の患者
推 奨:
免疫抑制治療を受けているHBV再活性化について低リスクの患者での抗ウイルス薬の予防は日常的に実施しないことを支持する。

表.免疫抑制作用のある薬剤とHBs抗原/HBc抗体の状況とHBV再活性化のリスク

  HBs抗原(+)/
HBc抗体(+)
HBs抗原(-)/
HBc抗体(+)
B細胞傷害薬
アントラサイクリン誘導体
伝統的な免疫抑制薬
腫瘍壊死因子α阻害薬
その他のサイトカインもしくはインテグリン阻害薬
チロシンキナーゼ阻害薬
コルチコステロイドを中・高用量の4週間以上
コルチコステロイドを低用量の4週間以上
経口コルチコステロイドを1週間以下
(いかなる投与量でも)
関節内コルチコステロイド

HBV再活性化の頻度:高リスク > 10%、中等度リスク1~10%、低リスク< 1%

Reddy KR. et al. Gastroenterology 2015;148:215-219より作成

文献

  1. Reddy KR. et al. American gastroenterological association institute guideline on the prevention and treatment of hepatitis B virus reactivation during immunosuppressive drug therapy. Gastroenterology 2015;148:215-219

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長