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74号 米国感染症学会「感染性下痢症の診断と管理のための実践ガイドライン」
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最近、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)を取り巻く環境に変化がみられている。まず、菌種名が変わったことが挙げられる。2016年、表現型、化学分類学、系統発生学による分類に基づいて、新しい属としてクロストリディオイデス属(Clostridioides spp.)が提案され、そこに属することになった1)。暫くは、「クロストリジウム・ディフィシル」の菌種名が用いられるであろうが、今後は「クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)」と呼ばれることになるであろう。同様に、クロストリジウム・マンゲノティ(Clostridium mangenotii)もクロストリディオイデス属に含まれることとなり、クロストリディオイデス・マンゲノティ(Clostridioides mangenotii)と命名された。破傷風菌(Clostridium tetani)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)には変更はなく、クロストリジウム属のままである。クロストリジウム・ディフィシルは「CD」と略されて表現されていたが、クロストリディオイデス・ディフィシルも「CD」を用いることができる。そのため、感染症の略名はCDI(Clostridium [Clostridioides]difficile infection)のままである。治療薬についても変化があり、抗C.difficileトキシンB ヒトモノクローナル抗体であるベズロトクスマブ(ジーンプラバ®)が利用できるようになった。また、マクロライド系抗菌薬であるフィダキソマイシンも利用可能になりつつある。
 2017年、米国感染症学会が「感染性下痢症の診断と管理のための実践ガイドライン」を公開した2)。このガイドラインは感染性下痢の小児および成人をケアする医療従事者が用いることを目的としている。このなかで、C.difficileについての記述があったので、抜粋して紹介する。

C.difficile検査

抗菌薬が使用されたあとに下痢となった2歳を越える人々、および医療関連下痢のある人々においては、C.difficileの検査を実施することを考慮する。病因がなかったり、リスクファクターが認識されないような患者に持続性の下痢のある場合にもC.difficileの検査を実施することを考慮しても良い。毒素もしくは毒素産生性C.difficile株の検出(核酸増幅検査など)では、単回の下痢便の検体が推奨される。検体を複数回採取しても、収穫を増やすことはないからである。下痢便を検査することが重要であり、これは検査室が有形便の検査を拒否することによって可能となる。
C.difficile細胞毒性試験(C.difficile cytotoxicity assay)や毒素産生性培養(toxigenic culture)に比べて、毒素AおよびBを検査するキットの感度は乏しいが、C.difficile細胞毒性試験の結果が陰性の患者よりも、C.difficile細胞毒性試験および毒素産生性培養が陽性の患者の方がアウトカムは不良であるとするエビデンスがある。現在、数多くの異なる検査法および、異なる検査の組み合わせによるアルゴリズムが利用されている。

抗菌薬とC.difficile

C.difficileを持つ患者の最大85%が、過去28日以内の抗菌薬への曝露歴がある。抗菌薬の範囲は広いが、C.difficile感染症の発症に最も強く関連するのは、セファロスポリン系、βラクタム系/βラクタマーゼ阻害剤、クリンダマイシン、キノロン系である。但し、抗菌薬のクラスとC.difficile感染症の発症の間の関連性の強さは「入院」「複数の抗菌薬クラスの使用」「曝露の期間」の影響を受けて、明確に言い切ることが困難になっている。市中感染C.difficile(一部の株は病院株とは遺伝子的に異なっている)の検出も増加している。

小児とC.difficile

小児でときどき、重症C.difficile感染症が発症することがあるが、これは稀なことであり、その殆どが年長小児で発生している。成人と同様に、入院小児においてもC.difficile感染症の頻度は増加しており、強毒性株による市中感染型も発生しているが、成人のようには重症度は増加していない。無症候保菌の頻度を検討している比較試験がないため、これらの新しい疫学的パターンが「疾患による新規の負荷を示しているのか?」「『合併症のある小児での無症状保菌』および『腸管の微生物叢を変化させる因子(入院、抗菌薬、免疫抑制など)への曝露』の増加率を表しているのか?」は不明である。
健康な新生児における無症候保菌の高い頻度(最大70%)は、小児におけるC.difficile感染症の疫学の理解を難しくしている因子の1つである。下部腸管の細菌叢が2歳頃までに確立してゆくに従って、無症候保菌の頻度は成人レベルに向かって次第に低下してゆくが、2歳未満の幼児において病原体や毒素を同定することの重要性は不確かなままである。

入院とC.difficile

C.difficileは病院で発生した下痢の患者において考慮されるべきである。様々な研究によって、入院してから72時間を超えて得られた下痢便ではC.difficileはよくみられることが判明した。入院患者や長期ケア施設の居住者では保菌は通常みられることである。無症状保菌者を検出してしまうので、下痢のない患者には検査も治療も実施すべきではない。

C.difficile感染症の治療薬

第一推奨はバンコマイシン内服であり、代替薬としてフィダキソマイシンが使用される(註釈:日本では軽症~中等症ではメトロニダゾール、重症ではバンコマイシン内服が用いられている)。フィダキソマイシンは18歳未満の患者には推奨されない。メトロニダゾールについては小児の非重症例に使用し、成人(適正な価格であってもバンコマイシンやフィダキソマイシンを購入できない人など)でも非重症例であれば第二選択薬として利用できる。

文献

  1. Lawson PA, et al. Reclassification of Clostridium difficile as Clo stridioides difficile (Hall and O’Toole 1935) Prévot 1938. Anaerobe. 2016 Aug ; 40 : 95-99.
  2. Shane AL, et al. 2017 Infectious Diseases Society of America Clinical practice guidel ines for the diagnosis and management of infectious diarrhea. CID 2017 : 65,e45-e80

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長