新型コロナウイルスとアルコール手指消毒液

矢野 邦夫

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

はじめに

新型コロナウイルスは感染者が咳やくしゃみをしたときに口や鼻から飛び出す飛沫を直接吸い込んだり、ウイルスが付着している手指が眼、鼻、口の粘膜に触れることによって伝播します。そのため、「飛沫に曝露しない」および「手洗いをする」は新型コロナウイルスに対する重要な感染対策となります。ここでは適切な手洗いについて解説します。

手洗いについて

手洗いは目的によって「日常的手洗い」「衛生的手洗い」「手術時手洗い」の3つに分けられます。「日常的手洗い」は食事の前や排便排尿後など、社会生活などで行われる手洗いです。通常、水道水と石鹸または水道水のみにて行われています。「衛生的手洗い」は病院において診療の前後に行われており、「アルコール手指消毒」もしくは「石鹸と水道水による手洗い」が行われてます。「手術時手洗い」は手術前におこなわれる最も水準の高い手洗いであり、アルコール手指消毒液を用いた手洗いが行われています。

これまで社会生活では「日常的手洗い」が行われていました。これは健常人が行うものであり、手指に多少の病原体が残っていても重篤な感染症を引き起こすことがないという前提の手洗いでした。そのため、手洗いでは水道水のみが用いられていたり、手洗いの後にはハンカチを用いて手を拭っていたりしていました。ハンカチは1日一枚の使用頻度のことが多く、同じハンカチが何回も使用されるため、手洗いで微生物が洗い流されたとしても、ハンカチに付着している微生物で手指を再び汚染させてしまいます。また、ハンカチはハンドバックやポケットに保存されていることから、それらの内部の汚れや微生物がハンカチに付着している可能性もあります。そのため、手洗いのあとは、ペーパータオルやハンドドライヤーなどによって手指を乾燥させなければなりません。最近はハンドドライヤーがエアロゾルを作り出すということで、使用禁止としている施設もあります。しかし、濡れたままの手指には微生物が付着しやすいということから、ハンドドライヤーが使用できないということにも問題があります。

新型コロナウイルスに対する免疫を持っている人はいません。すなわち、健常人であっても、新型コロナウイルスに曝露すれば感染し、そのなかの一部の人々が重症化します。そのため、社会生活であっても、「日常的手洗い」ではなく、「衛生的手洗い」を導入する必要が出てきました。すなわち、病院で行われている手洗いを日常生活でも行うことが大切なのです。「衛生的手洗い」ではアルコール手指消毒が第一推奨です。ただし、手が肉眼的に汚れているときには石鹸と水道水による手洗いを行います。

アルコール手指消毒液が石鹸と流水の手洗いよりも有効な理由

2002年、米国疾病管理予防センター(CDC: Centers for Disease Control and Prevention)は「医療施設における手指衛生のためのガイドライン」を公開しました1)。これはエビデンスに基づいた優れたガイドラインであり、手指衛生を大きく進歩させるものでした。従来、殆どの診療に際しては「普通の石鹸での手洗い」を行い、侵襲性処置の前後やハイリスク患者の診療には「薬用石鹸での手洗い」が推奨され、アルコール手指消毒液は手洗い場が近くにない状況でのみ使用されてきました。しかし、CDCは手が肉眼的に汚れていなければ、アルコール手指消毒液を日常的に用い、手が肉眼的に汚れるか蛋白性物質で汚染された場合には石鹸と流水にて手洗いすることを推奨したのです。アルコール手指消毒液が石鹸と流水の手洗いよりも優先的に使用される主な理由には下記の4つがあります。

① 石鹸はかならずしも手に優しくない

看護師のおよそ25%が手に皮膚炎症状ないし徴候を訴え、85%が皮膚障害を経験しているという報告があります2)。石鹸を頻繁かつ繰り返して使用していると、慢性刺激性接触皮膚炎を引き起こすことがあります。このような皮膚炎によって、皮膚の細菌叢が変化し、それに伴ってブドウ球菌やグラム陰性桿菌が頻繁に付着するようになるのです。過去には、皮膚炎を最小限に食い止めるために、病院は非抗菌性石鹸を提供してきましたが、その種の製品を多用すると、皮膚損傷、乾燥、刺激を生じることがあります3)。このような状況に対応するための手段として、保湿剤を含むアルコール手指消毒液の使用が推奨されました。

② アルコールは石鹸と流水の手洗いよりも殺菌力が強い

ある研究によると総合病院に勤務する看護師の29%は手に約3,800個の黄色ブドウ球菌を保有しており、皮膚病患者の病棟に勤務する看護師の78%の手には約1,430万個もの微生物がみられました。また、看護師の17%~30%は手に約3,400~38,000個のグラム陰性桿菌を付着していたという報告もあります4)。集中治療室のスタッフの21%は手に黄色ブドウ球菌を保有し、医師保菌者の21%および看護師保菌者の5%がその手に1,000個以上の微生物を付着させていることを明らかにした研究もあります5)。このように医療従事者の手指には極めて多くの病原体が付着しているにも関わらず、普通石鹸と流水で手を15秒間洗っても皮膚の細菌数は1/4~1/12にしか減少しません。30秒間でも1/63~1/630の減少です。一方、アルコール手指消毒液は30秒後で手指の細菌数を約3,000分1に減少させ、1分後には10,000~100,000分の1まで減少させることができるのです6)。従って、手指に付着した病原体の減少といった点からも、アルコール手指消毒液が推奨されるのです。

③ アルコールは手指衛生に必要な時間を短縮できる

手洗いを推進するために取り組まなければならない要因の一つに、手を清潔にするのに要する時間の短縮があります。手指衛生製剤へのアクセスが短時間でできれば、手洗いの遵守率を改善することができます。集中治療室を対象に行った研究によると、看護師が患者のベッドサイドを離れて手洗い場まで歩き、手を洗って患者の看護に戻るまでに、平均62秒を要しました7)。一方、各患者のベッドサイドに置かれたアルコール手指消毒液を使えば、時間は4分の1に短縮できます。このように、手指衛生製剤に簡単にアクセスできるようにすることは、手洗いを適正に実施するための重要な対応であり、それを可能にするのがアルコール手指消毒液と言えます。

④ アルコールは手指を迅速に乾燥させる

「人為的に汚染させた布」から「清潔な布」に手を触れて微生物を伝播させるといった研究が行われました8)。この研究では「人為的に汚染させた布」または手が接触時に湿っていた場合には伝播する微生物数が多くなることが示されました。完全に乾いた手よりも湿った手の方が微生物を容易に移動させることが明らかになったのです。すなわち、濡れたままの手や水分のふき取りが不十分な手には病原体が付着しやすいといえます。アルコール手指消毒液を使用すれば、アルコールは迅速に手を乾燥させるので、手指が濡れたままとはなりません。この点からもアルコール手指消毒液が推奨されるのです。

外出時にはアルコール手指消毒液を携帯することが奨められる

新型コロナウイルスは眼、鼻、口の粘膜から体内に侵入します。人間は無意識に眼、鼻、口に触れるのですが、その頻度は多く、1時間に23回も触れるというデータがあります9)。すなわち、3分に1回の頻度で手指が顔に触れているのです。そのため、手指が粘膜に触れる前に手洗いすることが大切であり、手洗いの頻度は多くなります。しかし、石鹸と水道水での手洗いを頻回に行うことは不可能です。手洗いするためには、毎回、手洗い場まで移動しなくてはならないからです。しかし、携帯のアルコール手指消毒液を持っていれば、常に手指消毒することができます。従って、外出時にはアルコール手指消毒液を携帯することが奨められます。

一般家庭や職場におけるアルコール手指消毒液の必要性

外出後に帰宅するとき、外勤から職場に戻るときには手指消毒が必要です。新型コロナウイルスが手指に付着したまま、自宅や職場に入り込むと、ドアノブや手すりなどにウイルスを付着させてしまうからです。新型コロナウイルスはボール紙の上では24時間以内、プラスティックの上では最大3日、感染性を保っています10)。そのため、環境表面にウイルスが付着すると感染源となる可能性があります。そのような「手指の高頻度接触表面」をウイルスで汚染させないためにも、CDCは家庭や職場では玄関や入口で手を清潔にすることを推奨しています11)。アルコール手指消毒液を玄関や入口に設置しておいて、帰宅したときや職場に戻ってきたときに、必ず手指消毒をすることが大切です。

まとめ

新型コロナウイルスの流行によって、手指消毒の重要性が強調されるようになりました。これまで「日常的手洗い」でも充分であった社会生活であっても、すべての人々が免疫を持たない新型コロナウイルスの出現によって、病院で実施されている「衛生的手洗い」が求められるようになりました。「衛生的手洗い」ではアルコール手指消毒が第一推奨となっています。これは、どこにでも持ち運びができ、即効性かつ強力な殺菌力があることと、頻回に使用できることが挙げられます。アルコール手指消毒液を適切に使用することによって、新型コロナウイルスのみならず、感冒ウイルスやインフルエンザウイルスなど多くの病原体の感染も防ぐことができます。

[文献]

  1. CDC. Guideline for hand hygiene in health-care settings. MMWR 51(RR-16): 1-47, 2002.
    https://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5116.pdf
  2. Larson E, et al. Prevalence and correlates of skin damage on the hands of nurses. Heart Lung 26:404-412, 1997.
  3. Boyce JM, et al. Skin irritation and dryness associated with two hand-hygiene regimens: soap-and-water handwashing versus hand antisepsis with an alcoholic hand gel. Infect Control Hosp Epidemiol 21:442-448, 2000.
  4. Ayliffe GA, et al. A. Hand disinfection: a comparison of various agents in laboratory and ward studies. J Hosp Infect 1988;11:226-243.
  5. Daschner F. D. How cost-effective is the present use of antiseptics?. J Hosp Infect 1988;11(Suppl A):227-235.
  6. Rotter M. Hand washing and hand disinfection. In: Mayhall, C. G., eds. Hospital epidemiology and Infection control. Philadelphia: Lippincott Williams & Wilkins, 1999:1339-1355.
  7. Voss A, Widmer AF. No time for handwashing!? Handwashing versus alcoholic rub: can we afford 100% compliance? Infect Control Hosp Epidemiol 18:205-8, 1997.
  8. Patrick DR, et al. Residual moisture determines the level of touch-contact-associated bacterial transfer following hand washing. Epidemiol Infect 119:319-25,1997.
  9. Kwok YL, et al. Face touching: a frequent habit that has implications for hand hygiene. Am J Infect Control. 2015 Feb;43(2):112-4.
  10. Doremalen NW, et al. Aerosol and surface stability of HCoV-19 (SARS-CoV-2) compared to SARS-CoV-1
    https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.09.20033217v2.full.pdf
  11. CDC. Keeping workplaces, homes, schools, or commercial establishments safe
    https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/workplace-school-and-home-guidance.pdf