病原体ゲノム解析の実施:ケーススタディ

Vol. 12 / No. 31
Implementing pathogen genomics: a case study

Public Health England(PHE)は2012年から全ゲノム解析法を実施すべく活動しており、PHEのNational Infection Service(NIS)は全国的に伝染性疾患の制御を強化するため、またPHEが担う地域、全国、及び国際的なレベルでの感染症制御に対する責務を果たすのを支援するため、全ゲノム解析法(WGS)を適用している。
「病原体ゲノム解析の実施:ケーススタディ」は、NISのリファランス・ラボラトリの一つであるGastrointestinal Bacteria Reference Unit(GBRU)がいかにしてWGSを適用したかを記載した、30ページの新たな文書である。特に、近年GBRUが行った(未滅菌の牛乳由来の)大腸菌及び(汚染された卵及び爬虫類の餌であるネズミ由来の)Salmonella Enteritidisアウトブレークの調査がこの解析によって促進されたことについて述べられている。
GBRUは、2012~2013年にPHE Colindaleで構築された中央WGSサービスをいち早く取り入れたラボラトリであり、現在は5種類の主要な消化管感染症の病原体(サルモネラ、赤痢、リステリア、カンピロバクター及び大腸菌)に対する日常的なタイピング法としてWGSを用いている。
NISの中央WGSサービスは、細菌及びウイルスに関するWGSサービスとして認定された、英国で初めてのサービスのひとつである。現在は英国で重要な様々な病原体に対してこのサービスを提供している。
GBRUのケーススタディは、中央WGSサービスを構築するためにPHEが行った様々な作業過程、及び国立の細菌検査リファランス・ラボラトリからゲノム解析サービスへの移行について概説している。そのなかには、サービスにおける病原体のタイピング、サーベイランス及びアウトブレーク調査にWGSを用いるようになったために生じた作業工程や実務の変化、解析手技の変更などが含まれる。

イングランドにおけるMERSコロナウイルス感染例

Vol. 12 / No. 31
MERS-CoV case in England

PHEはNHS Englandと共同で、最近、中東から英国に飛行機で帰国してきた中東呼吸器症候群(MERS)患者の管理を行っている。その活動の一環として、感染リスクを有する接触者の追跡を行っている。
この患者は入院しており、この患者以外には、8月23日にサウジアラビアからフライトした同じ航空機の搭乗者に可能性例は認めていない。しかし、これから数日間でハッジに行った巡礼者が帰国してくることが予想されるため、PHE Centre Health Protection Teamは呼吸器症状を有する帰国者の追跡をサポートすべく準備するよう要請されている。このような状況において、Health Protection TeamはMERSコロナウイルス感染症可能性例の評価アルゴリズムを参照する。
MERSは2012年にサウジアラビアで最初に同定された新型のコロナウイルスによるウイルス性呼吸器疾患である。2012~2018年6月の期間に2,229例の確定診断例がWHOに報告されており、その多くはサウジアラビアからである。

今号のHPRの感染症レポート

Vol. 12 / No. 31
Infection reports in this issue of HPR

麻疹、おたふくかぜ及び風疹:2018年のイングランドにおける確定診断例
本年4~6月にはイングランドで421例の麻疹確定診断例が発生しており、2018年の第1,2四半期の合計が686例となった。PHEは5月に麻疹の全国的な流行を宣言した。WHO欧州Regional Officeは、英国は2017年に達成した麻疹・風疹排除状態を維持していると考えているが、最近のアウトブレークは油断に対する警告となっている。英国は以前から、MMRワクチン接種率が低いコミュニティや濃厚接触が多い年齢層での感染拡大につながる輸入感染がおこりやすい状態が続いている。
英国の排除状態を維持するためには、5歳未満の小児におけるMMRワクチン2回接種の接種率を改善することが不可欠である。また、適切な時期にワクチン接種を受ける機会を逃した年長の小児及び若年成人にキャッチアップ接種を行うことも必要である。
イングランドにおける最新の(暫定)麻疹患者数は、PHEの「Measles outbreaks across England」ウェブページで定期的に発表されている。
この四半期にはイングランドでおたふくかぜの患者数は確定診断例が139例と、例年の季節性変動と一致して、前四半期に報告された275例から減少を認めた。この四半期には風疹の報告はなかった。

A型及びC型肝炎確定診断例(イングランド及びウェールズ)、2018年1~3月

B型急性肝炎(イングランド):2017年の年次報告書