英国におけるHIV蔓延状態の終結にむけて

Vol. 12 / No. 43
Progress towards ending the HIV epidemic in the UK

Public Health England(PHE)は、「Progress Towards Ending the HIV Epidemic in the UK: 2018 Report」を発表し、最新の疫学データの分析及び公衆保健に関する解説を示している。このレポートではその主な所見及び問題をまとめている。

HIV陽性者の合計は10万人以上と推定される
2017年には英国で推定101,600人(95%CI 99,300-106,400)がHIVに感染しており、そのうち85%が自身の感染状況を認識していなった。推定4,200人(95%CI 2,300-8,700)のゲイ及びバイセクシャルの男性、3,200人(95%CI 2,500-4,900)のヘテロセクシャルの男女が未診断のHIV陽性者である。

英国ではUNAIDSの目標を達成
英国では初めてUNAIDSの90:90:90目標を達成した。英国では推定92%のHIV陽性者が診断を受けており、98%は治療を受け、治療を受けた者の97%はウイルスが抑制されている。全体として英国のHIV陽性者の87%はウイルス量が検出感度以下で、感染力はない。

ゲイ及びバイセクシャルの男性では感染拡大の縮小が続いている
ゲイ及びバイセクシャルの男性の新規感染の年間推定例数は、ピークであった2012年の約2,700人(95%CI 2,200-3,200)から2017年には1,200人(95%CI 600-2,100)と半分以下に減少した。この新規HIV診断例数の減少も継続してみられている(2015年の3,390人から2017年には2,330人へ31%の減少)。
この感染拡大の抑制を見ると、包括的なHIV対策が奏功していることが分かる。現在、包括的HIV対策の中心的な内容は、コンドーム配布、暴露前予防療法(PrEP)、HIV検査の拡大及び診断後の迅速な治療開始(感染対策としての治療)などである。ゲイ及びバイセクシャルの男性における定期的な検査を含むHIV検査は、未診断のHIV感染者数を減少させた。
セクシャルヘルスサービスでHIV検査を受けたゲイ及びバイセクシャルの男性は2013年から2017年にかけて、79,598人から116,071人へと増加した。2017年には専門的なセクシャルヘルスサービスでHIV検査を受けたゲイ及びバイセクシャルの男性の42%(108,548人のうち45,804人)が前年に同じサービスで1回以上HIV検査を受けていた。検査件数の増加に加え、2016年末までに推定3,000人のゲイ及びバイセクシャルの男性がPrEPを受けており、イングランドのPrEP Impact Trial、スコットランド及びウェールズのPrEP計画・研究の開始に伴い、2017年に再度増加すると考えられる。最後に、診断後91日以内に治療を開始した者は、2013年の30%から2017年には77%に増加しており、国の治療ガイドラインの変更を反映している。

ヘテロセクシャルの者の減少
初めて、アフリカ系黒人及びカリブ系黒人以外のヘテロセクシャルの男性で減少がみられた。もっとも大きく減少したのはヘテロセクシャルの白人男性(31%、429人から296人)、英国生まれの男性(33%、354人から237人)、65歳以上(55%、47人から21人)及び15~34歳(32%、148人から101人)の男性であった。

注射薬使用者では臨床的な転帰が悪い
全体としてHIVの臨床的な転帰は全ての集団で良好である。しかし、注射薬使用者(PWID)の多く(47%)はHIV感染の進行期(HIV診断後91日以内にCD4細胞数<350/mm3)に診断を受けており、感染後すぐに(CD4細胞数≧350/mm3)診断を受けた者でも診断後91日以内に治療を開始した者はわずか59%のみで、全体の75%と比べて少なかった。HIVケアを継続的に受けた者もPWIDで少なく、7%は2015年以降HIVケアを受けておらず、全体の35と比べて多かった。

HIV陽性者の健康関連QOL
HIV陽性者が良好な健康関連QOLを保つのを支援することは、今後、HIVの臨床的な転帰を良くするためにますます重要になってきている。HIV陽性者の健康関連QOLスコアは、イングランドの一般市民(0.86)と比べて有意に低い(0.60、0から1のスケールで0が考えうる最低のレベル、1が最高のレベル)ことが報告された。この差は大いにメンタルヘルスの悪さに起因するもので、HIV陽性者の半数はうつや不安の症状を抱えている(一般市民は24%)。

進行期の診断例数は減少
感染の進行期にHIVと診断された患者数は、2008年の3,895人から2017年には1,879人へと減少した。この減少にもかかわらず、進行期の診断例数はいまだ多く、2017年には特にアフリカ系黒人のヘテロセクシャルの男性及び女性(それぞれ69%及び52%)、50~64歳及び65歳以上(それぞれ55%及び61%)で多かった。
進行期のHIV診断例を減少させるため、NICEの基準はGP及び病院でのHIV検査の拡大、HIVの指標疾患を有する者の検査に注力している。2017年にはHIV検査の陽性率は救命救急部門(0.7%)及びその他の2次医療機関(0.6%)がセクシャルヘルスサービス(SHS)(0.1%)よりも高かった。GPでは高度蔓延地域におけるHIV陽性率(1万人当たり140人)は蔓延地域(1万人当たり80人)よりも高く、低蔓延地域(1万人あたり35人)の4倍以上高かった。

HIV検査の受診機会を逃す人が多い
SHSでの検査活動は2017年にも増加し続けており、2017年には110万人以上がHIV検査を受けたにもかかわらず、いまだに多くのヒトがSHSで検査を受ける機会を逃している。2017年にはSHS受診者約35万人が、検査の適応があると記録されていたにも関わらずHIV検査を受けなかった。このなかには1万人以上のゲイ及びバイセクシャルの男性、1万人以上のアフリカ系黒人のヘテロセクシャルの男女が含まれていた。しかし、前年に医療機関を受診したPWIDの3分の1はHIV検査を受けていた。
HIVパートナー通知は全てのHIV検査活動のなかで最も陽性率が高いものの一つである(4.3%)。しかし、パートナー通知の結果、SHSで検査を受けたことが知られている人の数は依然として少ない(1,603人)。

尿路感染症:プライマリケアにおけるクイックレファランスガイド

Vol. 12 / No. 43
Urinary tract infections: quick reference guide for primary care

尿路感染症(UTI)はコモンディズィーズで、年間で女性の11%が罹患し、グラム陰性菌の血流感染(BSI)の主な危険因子である。そのため、適切な診断及び管理は、罹患率、BSIや敗血症の発症を抑制し、薬剤耐性化を制御するうえで不可欠である。
PHEは多彩なステークホルダーと協力して活動しており、PHE UTI診断クイックリファランスツールの見直し及び改良を行っている。その活動として、広範な文献レビューや外科系GP及びケアホームのスタッフのUTI管理について調査したニーズ評価等が含まれる。市民メンバーは懸念事項やUTI疑い例の管理・予防に対する要望について面接を受け、所見やリソース作成について議論するためにステークホルダーのワークショップが開催された。
以下に主な所見やその結果による改訂事項を示す。

  • 若年患者及び高齢患者のUTI疑い例の管理は異なるべきで、そのため65歳未満の女性、65歳以上の成人及び16歳未満の小児など年齢別に異なるフローチャートを作成した。
  • 65歳以上のUTI疑い例では、あらゆる医療機関の多くのスタッフがウロペーパーの結果を治療方針の判断に誤って使用していた。この新たな65歳以上のフローチャートではこの年齢層ではウロペーパーを用いてはならないということ、無症候の細菌尿は多くの場合治療対象にならないことを非常に明確に示している。
  • 薬剤耐性は進んできているので、このフローチャートはTARGET UTIリーフレットを用いてセーフティネットとなるアドバイスを積極的に行うのに有用である。抗菌薬が勧められる、または薬剤耐性のリスクが高い全ての高齢患者で尿培養を行う。
  • 現在、若年患者のUTI診断に関する英国での大規模な研究がいくつかあり、それによると3つのクライテリア、すなわち排尿障害、最近の夜間頻尿、及び尿混濁が明らかなUTIの識別に有用である。そのため、65歳未満の女性向けのフローチャート及びリーフレットは、この新たなエビデンスを反映させるために改訂された。
  • 敗血症及び腎盂腎炎を考慮することの重要性は、これまではPHEのUTI診断フローチャートでは強調されておらず、これらの疾患はいずれもスタッフや患者がニーズの評価をするうえで重要と考えられる。新しいフローチャートでは、これらは診断過程に組み込まれている。敗血症の診断において有用なリソースは、フローチャートの基となるエビデンスで詳細に記載されている(NICE、NEWS2及びRCGP)。

患者は、高齢者向けのUTIリーフレットの作成を歓迎している。65歳未満の女性及び高齢者向けのTARGET treating your infection(TYI) UTIリーフレットは、UTIの予防、典型的な兆候または症状、UTIの治療、管理、及びUTIが疑われる成人に対する安全確保について大事な事項を話し合うのに用いられる。
新たに改訂された高齢者向けの診断フローチャート及びリーフレットはNICEの推奨を得ており、これは新たに発表されたNICE/PHEの再発性下部・上部UTI及び前立腺炎の抗菌薬処方ガイドラインが推奨している治療選択肢に一致している。

E型肝炎ウイルス感染症のスクリーニング及びモニタリングに関するSMI

Vol. 12 / No. 43
SMI on screening and monitoring for hepatitis E infection

1995年に最初に確認されたE型肝炎ウイルス(HEV)は英国ではよく見られるようになってきており、イングランドでは年間10万例の感染例が発生していると推定されていて、そのうちの一部(1%未満)が臨床的に明らかな感染症である。HEVはしばしば自然軽快傾向を示す急性感染症を引き起こすが、免疫抑制状態にある者においては慢性感染症に発展する可能性がある。
急性の症候性E型肝炎の臨床症状はその他のウイルス性肝炎と区別できない。疫学的な特徴からなかにはHEV感染が疑われるケースがあるが、臨床診断を確認するためには必ず検査を行わなければならない。
英国Standards for Microbiology Investigations(UK SMI)は、新たなウイルス学的基準、Screening and Monitoring for Hepatitis E Infectionを発表し、EIA法によるHEV抗体スクリーニングによる血液、血漿、血清検体のHEVスクリーニングを含む診断ツールとして用いている。また、HEVの血清学的検査結果の確認、免疫抑制状態にある患者のスクリーニング、及び治療効果のモニタリングのため、血漿、血清及び便検体のHEV RNA検出を目的とした核酸増幅法(NAAT)も行っている。
新しい英国のSMI文書ではHEV感染症の臨床的重要性を認識しており、検査によるスクリーニング、モニタリングを支援し、検査所見を解釈及び報告するための包括的アルゴリズムと詳細なレポート表を掲載している。患者の診察の際、E型肝炎をウイルス性肝炎の起炎ウイルスの一つとして早い段階で考慮する(例えば、初期の急性ウイルス性肝炎のスクリーニングの含める、免疫抑制状態にある患者のトランスアミナーゼ高値の原因として考慮する)ことは重要である。