ケンエーIC News 感染症トピックス
2012年03月

3号 クロストリジウム・ディフィシル感染症のためのSHEA/ IDSAガイドライン

殆どの病院がクロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium di-fficile infection)を経験している。CDIは集団発生することもあるし、重篤化することもある。そのため、適切な感染対策が求められる。ここでは、米国医療疫学学会(SHEA:Society for Healthcare Epidemiology of America)および米 国感染症学会(IDSA:Infectious Diseases Society of America)が公開した「成人におけるクロストリジウム・ディフィシル感染症のための臨床実践ガイドライン」1)から院内感染対策についての重要ポイントを紹介する。

CDIの診断

クロストリジウム・ディフィシル(CD:Clostridium difficile)は抗菌薬関連大腸炎の主な病原体として認識されており、院内感染の抗菌薬関連下痢症の15~25%を占めている。その臨床症状は無症状保菌者~中等度下痢~劇症型(時々は致死的な)偽膜性大腸炎である。CDIの診断は「臨床所見」と「検査所見」の組み合わせによって行われる。

臨床所見:「症状(普通は下痢)がみられる(24時間以内に3回以上の無形便)」

検査所見:「CD毒素または毒素産生性CDが陽性である」または「大腸ファイ バーまたは病理組織学的所見が偽膜性大腸炎を示す」

CDによるイレウスが疑われない限り、毒素やCDの検査は下痢便のみで実施すべきである。無症状の患者の糞便検査は臨床的に有用ではない。

無症状保菌者

CDを保菌している入院患者の50%以上が無症状保菌者であるが、これは自然免疫の影響でろうと推測されている。実際、急性期施設での成人入院患者の7~ 26%が無症状保菌者であり、長期医療施設の高齢者では5~7%であるという報告がある。CDIが蔓延している施設においては20~50%以上の患者が無症状保菌者であるという報告もある。患者が入院期間中にCDを保菌する割合は時間とともに直線的に増加し、入院後4週間で40%にもなる。一方、医療施設に最近曝露していない無症状の成人の便でCDが検出される割合は2%未満である(但し、健康な新生児および1歳未満の小児での保菌率は高い)。

CDIの潜伏期間

医療関連感染を引き起こしている他の多剤耐性菌とは異なり、CDを無症候性に長期間保菌しつづけている人ではCDIを発症する危険性は低くなっている。長期の保菌によってCD毒素に対する血清抗体がブーストされているのかもしれない。CDに曝露してからCDIが発症するまでの期間は短く、2~3日(中央値)であることが推定されている。

CDの伝播経路と感染対策

病院での患者へのCDの伝播経路には、「一過性に手指がCDに汚染した医療従事者による接触」「CDに汚染した環境表面への接触」「CDIの患者への直接接触」の3つがある。従って、CDへの曝露を最小にする有効な単一の方法はなく、様々なアプローチが必要である。

基本的には、医療従事者および面会者はCDIの患者の病室に入室するときには手袋とガウンを装着する。そして、石鹸と流水による手洗いを実施する。患者は接触予防策にて対応し、接触予防策は下痢がみられる期間は継続する。一方、感染対策を目的として、無症状保菌者(患者および医療従事者)を日常的に同定することは推奨されないし、そのような人々を治療する必要もない。

CD芽胞と環境

CD芽胞は何ヶ月も何年も環境に生存でき、医療施設のさまざまな環境にて検出される。CDの環境汚染の程度は患者の保菌や症状に従って増加する。培養陰性の患者の病室では環境汚染の割合が最も低く(病室の8%以下)、無症状のCD保菌の患者の病室では中等度(病室の8~30%)、CDIの患者の病室では最も高い(病室の9~50%)。

CDの環境での感染源を同定して除去すれば、CDIの発生を減らすことができる(電子直腸体温計を使い捨てのものに替えるなど)。また、CDIが増加している区域の環境汚染への対応として塩素を含んだ洗浄剤などを用いることも有用である。実際、次亜塩素酸溶液(5,000ppmの塩素)による清掃によって、感染率の高かった骨髄移植病棟でのCDIの発生率が減少したという報告がある。

1,000~5,000ppmの範囲内においては、高い塩素濃度の方が低い濃度よりも殺芽胞性がある。しかし、表面の腐食性、臭いに関する苦情、過敏性といった不利益とのバランスを考慮しなければならない。少なくとも1,000ppmの塩素濃度が必要であるが、理想的には5,000ppmが望ましい。

医療従事者におけるCDの保菌

病院内において、医療従事者がCDを保菌してしまうことがある。しかし、CDは医療従事者には危険性が殆どない。149人の患者がCDIとなったという状況において、68人のスタッフ(看護師54人、医師14人)から直腸スワブ検体を得たところ、CDを保菌していたのは僅か1人(1.5%)であった。医療スタッフでの保菌率は1.7%であるという報告もある。このように、医療従事者がCDを保菌することは稀であるが、日常ケアにおいて一過性に手指がCDに汚染するため、医療従事者の手指がCDの主な伝播経路となっている。

文献

  1. Clinical Practice Guidelines for Clostridium difficile Infection in Adults : 2010 Update by the Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA) and the Infectious Diseases Society of America (IDSA). Infect Control Hosp Epid-emiol 2010 ; 31, 431- 455.
    http://www.cdc.gov/HAI/pdfs/cdiff/Cohen-IDSA-SHEA-CDI-guidelines-2010.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長