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6号 心臓超音波検査における緑膿菌感染のアウトブレイク
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アウトブレイクはどの病院においても、いつ発生するかわからない。実際に、アウトブレイクが発生すると、病院は混乱し、マスコミが押しかけ、そして感染対策チームは疲弊する。アウトブレイクの対応は常にシミュレーションする必要があり、実際に発生した場合の対応を学んでいなければならない。ここでは、CDCの週報に記述されていた心臓超音波検査に関連した緑膿菌のアウトブレイクでの対応を紹介したい1)。実に見事に対応している。

アウトブレイクの感知

2011年12月、ミシガン州ロイアルオーク市の病院の疫学部が外科ICUで呼吸器培養の陽性数が増加していることを感知し、調査を開始した。この病院の院内感染サーベイランスは臨床微生物の培養結果から導かれている。培養が陽性になると、それが感染か保菌かを決定するために微生物報告書およびカルテを用いて再調査される。

最初の再調査では、12月に外科ICUにおいて10人の患者の気管内チューブから得られた呼吸器検体で緑膿菌を検出した。手術部位や血液の培養では緑膿菌は増殖しなかった。この病棟では過去11ヶ月間に、気道培養が緑膿菌陽性となったのは月平均3回以下であり、その期間での発症は1件のみであった。

アウトブレイクの調査

10件の緑膿菌培養の再調査によると、すべての患者は心臓血管手術を受けていた。手術室、外科医、手術室スタッフ、ICUの病室、看護スタッフに関連した集中的発生はなかった。すべての分離菌が気道からのものであったので、最初に焦点を合わせたのは、手術後看護および呼吸ケア手技、呼吸治療器具の管理、麻酔手技および器具の管理であった。処方された呼吸薬剤に関連した集中的発生も観察されなかった。手術室のスタッフとのディスカッションから、これらの患者は手術中に経食道心臓超音波検査が実施されていたことが明らかになった。超音波伝達先端のある探触子を患者の食道に挿入し、心臓の後部を見るために心臓血管手術中実施するというものである。探触子はゲルでコーティングされて、手術切開の前に麻酔医によって挿入された。留置時間は手術内容に左右された。探触子、保存チューブ、環境表面の培養が実施され、すべての探触子が調査された。すべての培養結果が陰性であり、1つの探触子が破損していた。この探触子の使用は中止された。

サーベイランスの強化

1月6日~20日、サーベイランスが強化され、この外科ICUのすべての人工呼吸患者の気道が培養された。培養した20人の患者のうち6人が緑膿菌を保菌していた。そして、これらの6人全員が心臓血管手術を受けていた。別の外科ICUにおいても気道の培養サーベイランスを実施した。培養した11人の患者のうち、緑膿菌を保菌していたのは僅か1人であった。この分離菌は既に検出されている16件の分離菌とは抗菌薬感受性パターンが異なっていた。

アウトブレイク症例の詳細

アウトブレイクの期間に同定された16人のうち、2人が肺炎、5人が気管気管支炎であり、9人が気道保菌のみであった。手術してから気道検体の培養陽性を同定するまでの時間は2~14日(中央値5日)であった。患者はさまざまな手術を受けていた。弁手術のみを受けた患者(13人)は冠動脈バイパス手術のみを受けている患者(32人)よりも、緑膿菌の感染または保菌となる危険性が有意に高かった(相対危険度=5.7)。弁手術を受けた患者は手術のほぼ全体において探触子を留置されていたが、冠動脈バイパス手術を受けた患者では短時間の留置であった。手術時間の再調査によると、5時間以上の手術(70件)は5時間未満の手術(30件)よりも緑膿菌感染または保菌が多い傾向にあった(相対危険度=6.4)。

更なる調査によると、超音波伝達ゲル「Other-Sonic(製造元:ニュージャージー州ニューアーク市のPharmaceutical Innovations, Inc.)」は滅菌製剤としての表示はなく、滅菌製剤として販売もされていないが、これが探触子に用いられていた。1月23日、複数回用のゲルが撤去され、単回用の滅菌製剤に置き換えられた。この変更後は、新規の緑膿菌陽性症例は発生していない。

分離菌と分子学的タイピング

1月26日、10件の分離菌の分子学的タイピングが実施され、すべてが99%を超える相同性を示した。手術室から撤去された開封済の4つのOther-Sonicが培養された。4つのうち1つで緑膿菌が増殖し、分子学的タイピングはアウトブレイク株に高い相同性(>99%)を示した。同時に、アウトブレイクの期間に病院全体で分離された緑膿菌5株も分析されたが、アウトブレイク株とは関連しなかった。

Other-Sonicのシールされた未開封の2つのボトルが引き続き培養され、そのうちの1つで緑膿菌が増殖した。この時点で、Other-Sonicのリコールが開始された。分子学的タイピングによると、シールされているボトルの緑膿菌はアウトブレイク株と99%超の相同性を示しており、それは製造、梱包、保管、搬出での製剤の汚染を示唆している。

過去のアウトブレイク事例

汚染した超音波ゲルは様々な状況で、クレブシェラ、バークホルデリア、アクロモバクター、黄色ブドウ球菌などによるアウトブレイクを引き起こしてきた。これらの殆どが製剤の不適切な使用によって発生しているが、1件は製造元での汚染であることが確定している。ゲルにはパラベンまたは安息香酸メチル(これらは静菌性であると思われている)を含んでいるが、一部のグラム陰性菌はこれらの成分を分解する。超音波ゲルはもともと抗菌特性を有していないし、ゲルは外部から容易に汚染する。シュードモナス属は黄色ブドウ球菌や大腸菌よりも時間は短いものの、超音波ゲルで生存できることが示唆されている。

文献

  1. CDC. Pseudomonas aeruginosa Respiratory Tract Infections Associated with Contaminated Ultrasound Gel Used for Transesophageal Echocardiography ̶ Michigan, December 2011‒January 2012
    http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/wk/mm6115.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長