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18号 トリインフルエンザA(H7N9)ウイルス
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2013年3月末以降、中国東部においてトリインフルエンザA(H7N9)ウイルス[以下、H7N9と略す]による重症患者が報告されるようになった。ここではCDCの週報(MMWR:Morbidityand Mortality Weekly Report)から「ヒトにおいて重症疾患を引き起こすトリインフルエンザA(H7N9)ウイルスの発生」1)を紹介する。

H7N9のヒトでの発生状況

2013年3月29日、中国疾病管理予防センターはこれまでヒトで報告されたことのない3件のH7N9のヒト感染を確認し、3月31日に世界保健機関(WHO:World Health Organization)に報告した。症例は上海の2人と安徽省の1人であるが、全例が重症肺炎、急性呼吸促迫症候群(ARDS:acute respiratory distress syndrome)となって、死亡している。

4月29日の時点で、中国において126人のヒトでのH7N9感染および24人(19%)の死亡が報告されている。これらは中国東部の隣接する8省、2市、台湾で確認された[図1、2]。症例は散発的に発症しており、疫学的な関連はなく、感染したトリへの曝露によるものと思われる。曝露の情報が入手できた82人の確定例のなかで、63人(77%)に生きた動物(主にニワトリ(76%)、カモ(20%))への曝露が報告された。しかし、3件の家族内集団発生(2~3人)が報告されているので、ヒトからヒトへの限定的な伝播は発生している。

確定例の年齢中央値は61歳であり、17人(21%)が75歳以上であった。58人(71%)が男性である。小児については4症例のみが確定されているが、無症状の小児1人がH7N9陽性であった。完全なデータが入手できた71人のなかで、54人(76%)に少なくとも1つの基礎疾患があり、確定例の殆どが重症呼吸器疾患となっている。4月17日の時点でデータが入手できた82人の確定例のなかで、81人(99%)が入院を要した。入院した患者のうち、17人(21%)がARDSまたは多臓器不全にて死亡し、60人(74%)が現在も入院している。退院したのは僅か4人(5%)に過ぎない。82人の確定例の接触者1,689人(患者をケアした医療従事者も含まれている)をフォローアップしているが、濃厚接触者への伝播は確認されていない。

図1-2

H7N9の動物調査

4月26日の時点で、中国農林水産省は68,060件のトリおよび環境の検体を調査しており、46件(0.07%)でH7N9が検出された。4月17日の時点で、農場および食肉処理場の約4,150のブタおよび環境が調査されたが、ブタは全て陰性であった。ニワトリとウズラについては、症状がなくても、H7N9を排出しているという研究結果がある。

H7N9の遺伝子検査

遺伝子配列の研究によると、H7N9の8遺伝子の全てがトリ(アヒルのH7N3、野鳥のH7N9、東アジアに広くみられるトリのH9N2)に由来しているようである。さらに、哺乳類の呼吸器細胞に結合して増殖するのを促し、感染を重症化させるという遺伝子変異もみられている。H7N9はオセルタミビルおよびザナミビルに感受性があることが示されているが、H7N9の1つ(A/Shanghai/1/2013)の遺伝子配列にノイラミニダーゼ阻害剤の耐性マーカーが含まれていたことから、遺伝子変異を介して、自然または抗ウイルス薬治療中に耐性ウイルスが発生する可能性はある。アマンタジンについては全てのウイルスの遺伝子配列にて耐性マーカーが示されているので、H7N9感染者にアマンタジンを処方してはならない。

H7N9とH5N1の比較

2003年~2013年に中国で報告されたH5N1[註釈]の45症例では、年齢中央値は26歳であった。このような年齢中央値の相違はH7N9の曝露または感受性および臨床症状が実際に異なっていることを示しているかもしれないが、H7N9症例の同定法が高齢者の症例を捕らえやすくしているのかもしれない。

H7N9と他のH7ウイルスの比較

H7N9は他のトリインフルエンザAウイルスと比較していくつかの遺伝子的な違いがあり、それは呼吸器飛沫伝播、哺乳類の気道細胞のレセプターへのウイルスの結合の増加、病原性の増強、ウイルス増殖の増大に関連していた。ヒトにおけるH7N9感染はARDSおよび多臓器不全に進展する下気道疾患が特徴であり、過去に報告されたことのある他のH7ウイルス感染より重症である。他のH7ウイルスのサブタイプによるヒトの死亡は過去に1例のみであるのに比較して、H7N9では2ヶ月で24人が死亡(症例の19%)している。

H7N9と患者対応

インフルエンザ様症状のある患者が下記の条件を満たせばH7N9の可能性を考える。

  1. 発症10日以内に、ヒトおよび動物にてH7N9が検出された国に旅行した
  2. 発症10日以内に、H7N9確定例に接触した

H7N9は重症化する可能性があるので、すべてのH7N9患者(確定例、可能性例、調査中の症例)には可能な限り迅速にオセルタミビルまたはザナミビルによる治療をおこなう。治療は発症後48時間以上経過していても開始する。

文献

  1. CDC. Emergence of avian influenza A(H7N9) virus causing severe human illness ̶ China, February‒April 2013
    http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/wk/mm62e0501.pdf

[註釈]
H7N9は現時点では低病原性であり、呼吸器細胞に感染するが、H5N1は高病原性であり、全身の細胞に感染できる

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長