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25号 外科における抗菌薬予防のための臨床実践ガイドライン
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米国保険制度薬剤師学会(ASHP : American Society of Health - System Pharmacists)、米国感染症学会(IDSA : Infectious Diseases Society of America)、米国外科感染症学会(SIS : Surgical Infection Society)、米国医療疫学学会(SHEA : Society for Healthcare Epidemiology of America)が共同で「 外科 における抗菌薬予防のための臨床実践ガイドライン 」1)を作成し、公開している。その要点を列挙する。

抗菌薬予防とは

  • 抗菌薬予防とは感染の防止を意味しており、「 一次予防(primary prophylaxis)」「 二次予防(secondary prophylaxis)」「 根絶(eradication)」がある。
  • 一次予防は初感染の防止を意味し、二次予防は既に存在している感染の再発または再活性の防止を意味している。そして、根絶は感染の発症を防止するために保菌微生物を駆逐することをいう。このガイドラインは一次予防に焦点を置いている。

抗菌薬の選択

  • 殆どの手術において、セファゾリンが抗菌薬予防の第一選択薬である。最も多く研究されており、効果が証明されているからである。
  • MRSA症例(心臓手術後の縦隔炎など)やメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の手術部位感染が施設内で多発しているならば バンコマイシンを選択肢に含めてもよい。この場合、MRSA の保菌が確認されている患者や保菌の危険性が高い患者でバンコマイシンを考慮すべきである。
  • バンコマイシンはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌による手術部位感染を防ぐにはセファゾリンほどの効果はない。従って、MSSA と MRSA の両方の手術部位感染がみられる施設ではセファゾリンとバンコマイシンを併用している。
  • ニューキノロンは小児においては毒性の可能性があるので、小児患者での手術の予防として日常的に使用することは推奨しない。
  • 広域抗菌薬が狭域抗菌薬と比較して、手術後の手術部位感染を減らすことを示唆するエビデンスは殆どない。

術前投与のタイミング

  • 抗菌薬の術前投与の適切なタイミングは切開の60分以内である。最近のデータは切開の30分以内に抗菌薬を投与しても感染の危険性が低くなることを示しているが、切開前の1~30分に投与を開始するように時間枠を狭める勧告を提示するほどのデータはない。しかし、これらデータは、切開に極めて近いタイミングで抗菌薬を投与できることを示唆している。一方、これらの研究のすべてが、切開の60分以上前に抗菌薬を投与すると手術部位感染の割合が増加することを確認している。
  • ニューキノロンおよびバンコマイシンのような薬剤は1~2時間以上かけて投与する必要があるので、これらの薬剤は切開の120分以内に開始すべきである。これらは半減期が長いので、早期に投与したとしても手術中に薬剤の血清レベルが不十分になることはない。
  • ターニケットを膨らませる前や手術部位への血流を阻害するような処置をする前に抗菌薬の投与を完了すべきである。しかし、抗菌薬の投与をターニケットを膨らませる10分前と10~30分で比較した膝関節形成術における研究では手術部位感染の割合に有意な差はみられなかった。

追加投与

  • すべての患者において、手術が抗菌薬の半減期の2倍を超えた場合や手術中に相当量の出血(1500mL以上)がみられた場合には抗菌薬の血清および組織の濃度が十分になるように手術中に追加投与をおこなう必要がある。
  • 広範囲熱傷のように抗菌薬の半減期が短くなる状況でも追加投与をおこなう。
  • 追加投与の間隔は手術開始からではなく、術前投与のタイミングから測定すべきである。

投与期間

  • 手術後も抗菌薬予防を継続するならば、血管内カテーテルやドレーン留置に関係なく、投与期間を24時間以内に限定すべきである。
  • エビデンスはないものの、心臓手術では48時間までの予防投与は受け入れることができる。

肥満患者

  • 肥満は手術部位感染の危険性を増加させる。肥満患者では薬剤の薬物動態が変化しているので、投与量は体重に基づいて調節する。これは薬剤の親油性および他の要因に基づいた薬物動態変化によるものである。
  • 実際、セファゾリン1gを術前に投与すると、正常体重患者よりも異常肥満の患者では一貫して血液および組織でのセファゾリン濃度が低かった。従って、体重が80kg以上の患者にはセファゾリンを2gに増量し、120kg以上では3gにするのが適切である。単純化するために、すべての成人患者に2gのセファゾリン投与を標準的に行っている病院もある。

その他

  • 切開前の単回投与ならば、腎機能障害や肝機能障害の患者においても抗菌薬の投与量を変更する必要はない。
  • 抗菌薬予防すると、患者はクロストリジウム・ディフィシル関連大腸炎に罹患しやすくなる。発症の危険因子には予防投与もしくは治療投与が長期間であることと、複数の抗菌薬を使用することが含まれる。抗菌薬予防の期間を1回の術前投与に制限すれば、クロストリジウム・ディフィシル関連大腸炎の危険性を減らすことができる。
  • 小児は黄色ブドウ球菌を保菌していることがあるが、保菌率は年齢によって左右されている。5歳以下の小児は最も保菌率が高く、それは60歳以上の患者と同様である。保菌率は5~14歳の間で、年齢とともに低下するが、成人になると次第に増加してゆく。

文献

  1. Bratzler DW , et al. Clinical practice guidelines for antimicrobial prophylaxis in surgery. Am J Health-Syst Pharm 70, 195-283 ,2013

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長