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26号 HBV曝露後対策
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医療従事者へのHBV対策は極めて重要であり、適切な対応がなされなければならない。ここではCDCが2013年12月に公開した「医療従事者のB型肝炎ウイルスの防御についての評価および曝露後対策のためのCDCガイダンス」から重要部分を抜粋して紹介する1)[表1]。HBVワクチンは3回接種(0-1-6カ月)することによって「1シリーズ」が完了したことになる。

ワクチン接種済の医療従事者への対応

  1. 1シリーズが完了しているという記録のある医療従事者のHBs抗体が10mIU/mL以上の場合には、曝露源の患者のHBs抗原を検査する必要はない。曝露源の患者のHBs抗原の有無に関係なく、曝露後のHBV対応の必要はない。
  2. 2シリーズが完了しているという記録がある医療従事者のHBs抗体が10mIU/mL未満の場合には、曝露源の患者のHBs抗原を曝露後すぐに検査する。曝露源の患者のHBs抗原が陽性もしくは不明であれば、医療従事者にはB型肝炎用免疫グロブリン(HBIG:hep-atitis B immune globulin)を2回投与する(1回目は曝露直後、2回目はその1カ月後)。曝露源の患者がHBs抗原陰性ならば、HBIGもHBVワクチンも必要ない。
  3. 1シリーズが完了しているという記録のある医療従事者でHBs抗体が実施されていなければ、医療従事者のHBs抗体および曝露源の患者のHBs抗原を曝露後すぐに実施する。

    • 医療従事者のHBs抗体が10mIU/mL未満であり、曝露源の患者がHBs抗原陽性もしくは不明であるならば、曝露後すぐに医療従事者にHBIGを1回投与し、HBVワクチンのシリーズを実施する(最初の3回接種を含めると合計6回の接種ということになる)。そして、最後の接種後1~2カ月後にHBs抗体を検査する。
    • 医療従事者のHBs抗体が10mIU/mL未満であり、曝露源の患者がHBs抗原陰性ならば、医療従事者にはHBVワクチンを1回接種し、1~2カ月後にHBs抗体を検査する。そこで、HBs抗体が10mIU/mL未満のままならば2回の追加接種をおこなう(最初の3回を含めると合計6回の接種ということになる)。そして、最後の接種後1~2カ月後にHBs抗体を再検査する。
    • 曝露の時点で医療従事者のHBs抗体が10mIU/mL以上ならば、曝露源の患者のHBs抗原の有無にかかわらず、曝露後のHBV対応の必要はない。

ワクチン接種の記録がない/未接種である/接種が未完了である医療従事者への対応

  1. HBVワクチンが未接種もしくは接種シリーズが未完了の医療従事者(接種拒否も含む)の場合、曝露後すぐに曝露源の患者のHBs抗原を検査する。未接種もしくは接種シリーズが未完了の医療従事者のHBs抗体の検査は必要ない。
  2. 曝露源の患者がHBs抗原陽性もしくは不明であるならば、曝露後すぐに医療従事者にHBIGを1回投与し、同時にHBVワクチンを1シリーズ実施する。そして、最後の接種後1~2カ月後にHBs抗体を検査する。HBIGを投与された医療従事者のHBs抗体の検査はHBIGからのHBs抗体がもはや検出されなくなってから実施する(投与6カ月後)。
  3. 曝露源の患者がHBs抗原陰性ならば、医療従事者はHBVワクチンの1シリーズを完了する。そして、最後の接種後1~2カ月後にHBs抗体を検査する。
  4. 初回シリーズを受けたあとにHBs抗体が10mIU/mL以上の医療従事者には免疫があると考える。正常免疫の人は長期間の防御があるので、HBs抗体価を評価するための定期的な検査の必要はない。
  5. 初回シリーズを受けたあとにHBs抗体10mIU/mL未満である医療従事者には再接種が必要である。そのような医療従事者には、2回目のシリーズ(3回接種)を実施し、最後の接種後1~2カ月後にHBs抗体を検査する。

HBs抗原が陽性もしくは不明の曝露源に曝露した医療従事者の検査について

  1. HBs抗体が10mIU/mL未満、もしくは未接種、もしくは接種シリーズが未完了の医療従事者がHBs抗原陽性もしくは不明の曝露源の患者に経皮的、粘膜的、非健常皮膚曝露を受けたら曝露後すぐにHBV感染症についてのベースライン検査を実施し、その後、約6カ月のフォローアップ検査をおこなう。
  2. 曝露後すぐに実施すべき検査には総HBc抗体を含める。そして、約6カ月のフォローアップ検査にはHBs抗原および総HBc抗体を含める。

HBs抗体産生がみられない者(nonresponder)について

  1. 再接種後(合計6回接種後)にもHBs抗体が10mIU/mL未満のままの医療従事者はHBV 感染の有無をみるためにHBs抗原およびHBc抗体を検査する。
  2. HBVに感染していないことが確認された医療従事者(nonresponderである)はHBVに感受性があると考える。この場合、特別な業務制限は推奨されない。
[表1]血液および体液の経皮および粘膜への職業上曝露後の対応
(医療従事者のワクチン接種および反応による)
医療従事者の状況 曝露後検査 曝露後予防 接種後の抗体検査
曝露源の患者
(HBs抗原)
医療従事者の検査結果
(HBs抗体)
HBIG ワクチン接種
接種シリーズ( 3 回以上)が完了し、HBs抗体獲得の記録がある 特にすべきことはない
6回接種後でHBs抗体獲得がないという記録がある 陽性/不明 HBIGx2
(1カ月の期間を空ける)
必要なし
陰性 特にすべきことはない
3回接種後でHBs抗体の有無が不明である 陽性/不明 <10mIU/mL HBIGx1 再度、
接種シリーズを開始する
必要
陰性 <10mIU/mL なし
結果に関係なし ≧10mIU/mL 特にすべきことはない
未接種である/接種シリーズを完了していない/接種を拒否している 陽性/不明 HBIGx1 接種シリーズを完了する 必要
陰性 なし 接種シリーズを完了する 必要
  • 経皮、粘膜、非健常皮膚への曝露後7日を越えてからのHBIGの有効性は不明である。
  • Responderとは3回以上のHBVワクチンの接種後にHBs抗体が10mIU/mL以上となった人のことである
  • Nonresponderとは6回以上のHBVワクチンの接種にもかかわらず、HBs抗体が10mIU/mL未満の人のことである

文献

  1. CDC.Guidance for evaluating health-care personnel for hepatitis B virus protection and for administering postex-posure management
    http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr6210.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長