ケンエーIC News 感染症トピックス
2014年05月

29号 ソフトチーズとリステリア症

ソフトチーズを食べたことによって、リステリア症のアウトブレイクが発生したので紹介する。リステリア症の原因菌はリステリア・モノサイトゲネス( Listeria monocytogenes)である[図]。この病原体はグラム陽性桿菌であり、ヒトや動物の糞便中や植物などでみられる。低温でも増殖できるので、サラダなどの生野菜から検出されることがある。乳児や免疫不全の患者において化膿性髄膜炎を引き起こすことがあり、注意を要する。

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リステリア・モノサイトゲネスの電子顕微鏡写真。リステリア・モノサイトゲネスは食物媒介疾患であるリステリア症の原因菌である。米国では毎年、2,500人がリステリア症に罹患している。そのうち、500人が死亡している。

出典:CDC. Public Health Image Library
http://phil.cdc.gov/phil/details.asp ID#10828

リステリア症のアウトブレイク1)

2013年6月27日、ミネソタ州保健所からCDCに、リステリア症の2症例の報告があった。これらの症例の臨床分離株がパルスフィールドゲル電気泳動法(註:大きなDNA断片を分離するためのゲル電気泳動法)のパターンが同一であったため、アウトブレイク調査がなされた。その結果、6月28日の時点で、米国の4州において、リステリア症の5症例が確認された。

5人の患者の年齢中央値は58歳(31~67歳)であった。4人が女性であり、その中の1人は感染時に妊娠中であった。全員が入院し、そのうち1人が死亡、1人が流産した。5人全員が発症前の1か月間に同じ会社の熟成ソフトチーズを食べていた。3人は異なるレストランで、2人は異なる食料品店にてチーズを購入していた。その後、1症例が追加確認されたため、合計6人となった。チーズ製造施設を調査してみると、ミルクの加熱殺菌のあとのチーズ製造工程がかなり不衛生であった。

リステリア症の危険が高い人々(高齢者、妊婦、免疫抑制の人)は加熱殺菌されていないミルクを用いたソフトチーズ、もしくはミルクが加熱滅菌されているか否かにかかわらず、非衛生状態で製造されたソフトチーズは重篤な感染症を引き起こすことを知っておくべきである。

リステリア症について2)

リステリア症はリステリア・モノサイトゲネスで汚染した食物を食べることによって引き起こされる重篤な感染症である。この感染症は主に、高齢者、妊婦、新生児、免疫不全の人で問題となる。しかし、稀にこのようなリスク因子を持たない人で発生することがある。このような危険性は食物の準備、消費、保存を安全におこなうことによって減らすことができる。

症状

リステリア症の人では発熱や筋肉痛がみられ、下痢や胃腸症状が先行することもある。リステリア症と診断された患者の殆どが「侵襲性」感染症となっている。これは細菌が消化管を超えて広がっている状況である。症状は感染者によって異なる。

  • 妊婦:
    妊婦では発熱と非特異的症状(倦怠感、筋肉痛)を経験するのが一般的である。しかし、妊娠中に感染すると、流産、早産、胎児死亡、新生児の菌血症と髄膜炎を引き起こすことがある。
  • 妊婦以外の人:
    症状には発熱と筋肉痛に加えて、頭痛、項部硬直、混乱、平衡異常、痙攣がみられることがある。高齢者および免疫不全の人では、敗血症と髄膜炎が最も多い合併症である。正常免疫の人では急性発熱性胃腸炎もしくは無症状のことが多い。

診断

リステリアは環境に生息しており、すべての人々は日常的に曝露している。それ故、無症状の患者に(例え、ハイリスクの人であっても)、検査を実施することは臨床的には意味がない。症状のある患者において、血液、髄液(中枢神経系が巻き込まれている場合)、羊水/胎盤(妊娠している場合)のような正常では無菌的な部位からリステリア・モノサイトゲネスが分離されたときのみにリステリア症と診断される。便検体は限定的にしか使用できず、推奨されない。

リステリア・モノサイトゲネスは日常的に用いられている培地で容易に分離できるが、他のグラム陽性桿菌(特に、類ジフテリア菌)との鑑別は必要である。選択増菌培地は汚染した検体からの分離率を向上することができる。培養結果を得るには1~2日を要する。大切なことは、臨床的にリステリア症を強く疑う場合には、培養が陰性であってもリステリア症を除外できないことである。血清学的検査の信頼度はなく、現時点では推奨されない。

治療

ハイリスクの人(妊婦、高齢者、免疫不全の人)が汚染した食物を食べてから2か月以内に、倦怠感や筋肉痛のような非特異的な症状に加えて発熱がみられたら、受診すべきである。しかし、リステリアに汚染された食物を食べたけれども何ら症状がみられない人では、検査も治療も必要ない。これはリステリア症のハイリスクの人であっても同様である。

リステリア症の治療は抗菌薬[註:アンピシリン]にておこなう。しかし、迅速に治療したとしても、リステリア症の患者の一部は死亡する。特に、高齢者や重篤な医学的問題のある人が死亡しやすい。

予防

リステリア症の予防はサルモネラ症などの他の食中毒の予防と同じであるが、リステリア症のハイリスクの人では特別な対策が推奨される。この場合、ソフトチーズや加熱が不十分な肉や魚などを避けることが大切である。フェタチーズ、ケソ・ブランコチーズ、ブリーチーズ、カマンベール、ブルーチーズ、パネラチーズ(ケソ・パネラチーズ)のようなソフトチーズは加熱ミルクで製造されていることが明記されていない限り食べてはならない。「加熱ミルクにて製造した」というラベルを確認すべきである。ケソ・フレスコチーズのような、加熱ミルクで製造されたメキシカンチーズはチーズ製造の間に汚染されていることがあり、リステリア症を引き起こすことがあることを知っておくべきである。

文献

  1. CDC. Multistate outbreak of Listeriosis linked to soft-ripened cheese―United States, 2013
    http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6313a5.htm
  2. CDC. Listeria (Listeriosis)
    http://www.cdc.gov/listeria/index.html

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長