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31号 ノロウイルスのアウトブレイクの防止
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日本ではノロウイルス胃腸炎は12月から3月をピークにして流行しているが、1年を通じて発症の報告があるので油断できない。特に、浜松市では2014年1月に小学校の給食によって1,000人以上が感染したため慎重になっている。このようなノロウイルスのアウトブレイクをいかにして防ぐかについてCDCの「ノロウイルスのアウトブレイクの防止」1)から重要ポイントを紹介する。
毎年、米国では約2,000万人の人々がノロウイルス胃腸炎に罹患している。ノロウイルス胃腸炎に罹患した人々は嘔吐や下痢を呈することが普通である。入院を要する人もいるし、死亡することもある。ノロウイルスは極めて感染力が強く、人々が集まるところ、もしくは食物が提供されるところであればどこにでもアウトブレイクが発生しうる。感染者は「ヒトと濃厚接触する」もしくは「食物および環境表面を汚染する」ことによって他の人々にノロウイルスを伝播する。特に、ノロウイルスに感染している食品取扱者は食物を汚染させるので、多くの人々に感染させることがある。実際、ノロウイルスの感染源調査によると、アウトブレイクの70%がノロウイルスに感染した食品取扱者によって引き起こされていた[図1]。食品取扱者での問題点を下記に列挙する。
  • 食品取扱者の5人に1人が嘔吐や下痢があっても業務したことがあると報告している。職を失うことの恐怖や同僚に負担をかけてしまう心配がそのような判断の重要な要因となっている。
  • 感染した食品取扱者によって引き起こされたアウトブレイクのうち、54%が「食べられる状態(Ready-to-eat)になっている食べ物」を素手で触れたことが原因となっている。「食べられる状態になっている食べ物」とは追加の処理をせずに提供できる食物のことをいう。それにはサラダやサンドイッチに用いられる洗浄後の生の果物や野菜、焼成製品、すでに調理された物などが含まれる。
  • 食品取扱者を観察すると、彼らは実施すべき手洗い機会のうち4回に1回しか適切に手洗いしていなかった。
  • ノロウイルスは殺滅することが難しく、食べ物、厨房の環境表面、調理用具などに生息している。このウイルスは冷凍しても食物において感染性を保っており、60℃以上に熱するまで感染性がある。
  • ノロウイルスはカウンターの上や調理器具の表面に2週間は生息している。また、一般的な消毒薬や手指消毒薬には抵抗性がある。

図1

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このようなアウトブレイクを防ぐためには食品取扱者は下記のような対応をすべきである[図2]。

  • 食品取扱者は手指衛生を適切におこなう。そして、「食べられる状態になっている食べ物」(生のフルーツや野菜など)を素手で触れないようにする。
  • 食物の安全取扱い手順について厨房責任者を任命しておき、食品取扱者を訓練する。
  • 食品取扱者がノロウイルス胃腸炎に罹患した場合は有給で自宅待機してもらう。
  • ノロウイルス胃腸炎に罹患したら、症状が消失してから少なくとも48時間経過するまで自宅待機する。
  • 食品取扱者は嘔吐や下痢があれば上司に伝える。
  • 少なくとも20秒は石鹸と流水によって十分かつ頻回に手洗いする。20秒とは「ハッピバースデイ」を2回歌う程度である。これは特にトイレを利用した後に実施すべきである。
  • 「食べられる状態になっている食べ物」を素手で触れないように器具を用いるか、単回使用の使い捨て手袋を用いる。
  • ノロウイルスに対して、塩素系製剤を用いて厨房の表面や頻回に触れるものを定期的に洗浄・消毒する。
  • 嘔吐や下痢の出来事があった区域を封鎖し、洗浄・消毒を迅速におこなう。
  • 果物や野菜は注意深く洗浄する。牡蠣や他の貝については不十分な調理(60℃以下)をしない。

図2

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文献

  1. CDC. Preventing norovirus outbreaks
    http://www.cdc.gov/vitalsigns/norovirus/index.html

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長