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39号 消化管内視鏡検査における抗菌薬の予防投与
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消化管内視鏡検査をしているときに粘膜が損傷し、内因性細菌叢が血管内に流れ込むバクテリアル・トランスロケーションが発生することがある。このような内視鏡関連の菌血症によって遠隔組織に感染(感染性心内膜炎など)が発生する危険性は少ないものの完全に除外することはできない。内視鏡検査では局所の注射などを実施することがあり、そこでは無菌の体腔や組織が破綻・汚染して感染症が発生することがある。このような感染を回避するために内視鏡検査において抗菌薬の予防投与が検討されることがある。ここでは米国消化器内視鏡学会のガイドライン「消化管内視鏡検査のための抗菌薬の予防投与」1 )の重要ポイントを紹介する。

消化管内視鏡検査に関連する菌血症

消化管内視鏡検査のあとに菌血症が発生することがある。そのため、感染性心内膜炎の危険性が指摘されてきたが、臨床的に重大な感染は極めて稀である。毎年、米国では推定1,420万件の大腸内視鏡検査、280万件の軟性S状結腸鏡検査、そして、おそらく同程度の上部消化管検査が実施されているが、約25件の感染性心内膜炎が内視鏡検査に時間的に関連して報告されているに過ぎない。「内視鏡検査」と「心内膜炎、もしくは、感染性心内膜炎を防ぐための内視鏡検査前の抗菌薬の予防投与」の間の因果関係を示したデータはない。

日常生活に関連する菌血症

日常生活において、一過性の菌血症は頻回に発生している。これは内視鏡検査による菌血症の頻度を越えることもある。歯磨きやデンタルフロスで菌血症が発生する頻度は20~68%であり、爪楊枝を用いた場合は20~40%となる。食物を噛むなどの生理的な活動でさえ7~51%である。内視鏡検査が実施されている人の殆どにおいて、菌血症が比較的稀であるならば、内視鏡検査に関連する菌血症の頻度や危険性を日常生活で遭遇する菌血症と比較すると取るに足りないものとなる。このようなことが、感染性心内膜炎の予防を目的として、内視鏡検査の前に抗菌薬を日常的に投与することを推奨しない強い理論的根拠となっている。

菌血症のリスクの高い処置

菌血症が最も高頻度にみられるのは、食道拡張術、食道静脈瘤の硬化療法、胆管閉塞の医療器具である。食道ブジーの挿入に引き続く菌血症の頻度は12~22%であることが示されている。この場合の原因菌は口腔内常在菌であるのが一般的であり、症例の79%でストレプトコッカス・ビリダンスが分離されたとする研究がある。

菌血症は良性疾患による狭窄よりも悪性疾患による狭窄での拡張術で多くみられた。菌血症 は単回の拡張と比較して、複数回の拡張で頻度が高かった。食道静脈瘤の硬化療法に関連す る菌血症の頻度は0~52%であることが報告されている(中央値14.6%)。内視鏡的静脈 瘤結紮は硬化療法にとって代わってきているが、菌血症を呈するのは1~25%(中央値8.8%) であった。胆管が閉塞していない患者でのERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影:Endoscopic Retrograde Cholangiopancreatography)において菌血症となる頻度は6.4% と低いが、結石や狭窄による胆管閉塞がみられると18%まで増加する。

菌血症のリスクが低い処置

生検の有無にかかわらず、内視鏡検査での菌血症の頻度は最大8%(中央値4.4%)である。この場合、菌血症は短時間(30分以内)であることが一般的であり、感染性の有害事象には関連しない。大腸内視鏡検査に関連する菌血症の頻度は最大25%(中央値4.4%)と報告されている。大腸ステント挿入のような治療的大腸処置がおこなわれても、菌血症はあまり発生しない(6.3%)。

軟性S状結腸鏡検査での菌血症の頻度は1%未満である。補助器具付き小腸内視鏡(シングルおよびダブル・バルーン小腸鏡、スパイラル小腸内視鏡など)での菌血症の危険性についてのデータはないが、日常的な上部および下部内視鏡検査での頻度よりも小さいか同程度と推定される。

FNA(穿刺吸引術:fine needle aspiration)の有無に関係なく、EUS(診断的超音波内視鏡:Endoscopic ultrasonography)の後の菌血症の頻度は診断的上部内視鏡での頻度の範囲内である。上部消化管の嚢胞性もしくは実質性病変のEUS-FNA(超音波内視鏡下穿刺吸引術:EUS-guided fine needle aspiration)が実施されている患者での菌血症の頻度は低く、4.0~5.8%である。同様に、直腸および直腸周囲病変のEUS-FNAでの菌血症の頻度も低く、2%程度である。

推奨

註釈:強い推奨は「推奨する」、弱い推奨は「提案する」と記載されている

  1. 感染性心内膜炎の予防のみを対象として、日常的に抗菌薬を投与することは推奨しない
  2. ハイリスクの心臓疾患のある患者および消化管感染がある患者(腸球菌が感染性細菌叢の一部となっている)では抗菌薬の予防投与を提案する
  3. 閉塞性胆道疾患が疑われていないか、もしくは、完全な胆道ドレナージがおこなわれているならば、ERCPの前の抗菌薬の予防投与は推奨しない
  4. 肝臓移植の既往のある患者、もしくは、胆管閉塞があるか疑われている患者(胆道ドレナージが不十分の可能性がある場合)にはERCPの前の抗菌薬の予防投与を推奨する。この場合、腸管のグラム陰性菌および腸球菌などの胆道細菌叢をカバーする抗菌薬を用い、胆道ドレナージが不十分ならば、処置が完了するまで継続すべきである。
  5. 消化管での実質性病変のEUSもしくはEUS-FNAの前の抗菌薬の予防投与は推奨しない
  6. 縦隔嚢胞のEUS-FNAの前の抗菌薬の予防投与を提案する
  7. 膵臓もしくは膵周囲嚢胞のEUS-FNAの前の抗菌薬の予防投与を提案する
  8. PEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術:Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)/PEJ(経皮内視鏡的空腸瘻造設術:Percutaneous Endoscopic Jejunostomy)チューブの留置前の全ての患者には注射用セファゾリン(もしくは同等の抗菌カバーのある抗菌薬)の投与を推奨する
  9. 消化管出血にて入院している肝硬変の患者すべてに、注射用セフトリアキソンを入院時に投与することを推奨する。セフトリアキソンにアレルギーもしくは不耐性の患者には同等の抗菌スペクトルのある抗菌薬(経口ノルフロキサシンなど)を投与する。
  10. 代用血管もしくはその他の非弁膜性心臓血管器具(埋め込み式電子器具など)のある患者の消化管内視鏡検査の前の抗菌薬の予防投与は推奨しない
  11. 整形外科的人工物のある患者の消化管内視鏡検査での抗菌薬の予防投与は推奨しない
  12. CAPD(持続的携行型腹膜透析:Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis)を実施している患者での下部消化管内視鏡検査の前の抗菌薬の予防投与を提案する

文献

  1. ASGE guideline. Antibiotic prophylaxis for GI endoscopy. Gastro intest Endosc. 2015 ;81 (1):81-9

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長