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44号 食中毒
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食中毒は様々な原因によって引き起こされる。細菌(サルモネラなど)、ウイルス(ノロウイルスなど)、寄生虫(クリプトスポリジウムなど)が原因となるが、フグ毒のような化学物質も食中毒を引き起こす。CDCが微生物もしくは化学物質による食中毒の特徴を表にして提示しているので、紹介する1)

食中毒における診断を確定するためのガイド

食中毒のアウトブレイクは共通食物を消費することによって、同様の疾患を2人以上の人が経験している出来事として定義される。下記の表は食中毒が同定されたときの「潜伏期間」「臨床症状」「原因を確定するための基準」についての情報を提供している[表1~4]。

表1 .食中毒のアウトブレイクを確認するためのガイドライン(細菌)
原因病原体 潜伏期間 臨床症状 原因を確定するための基準
バチルス・セレウス―嘔吐毒素
Bacillus cereus-Vomiting
toxin)
1~6時間 嘔吐;下痢を伴う患者もいる;発熱は稀
2人以上の患者の便から病原体が同定され、コントロール患者の便からは分離されない
疫学的に関連する食物から1g当たり105個の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
バチルス・セレウス―下痢毒素
Bacillus cereus-Diarrheal
toxin)
6~24時間 下痢、腹部痙攣、患者によっては嘔吐、発熱は稀
2人以上の患者の便から病原体が同定され、コントロール患者の便からは分離されない
疫学的に関連する食物から1g当たり105個の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
ブルセラ
Brucella
数日~数か月;
通常は> 30日
虚弱、発熱、頭痛、発汗、悪寒、関節痛、体重減少、脾臓腫大 2人以上の患者がいて、血液もしくは骨髄の培養にて病原体が分離される;数週間で標準凝集価が4 倍以上となる、もしくは、曝露歴のある人で臨床症状に矛盾がなく、凝集価1 : 160 が1回確認される
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ
Campylobacter jejuni/coli
2~10日;
通常は2~5日
下痢(血性のことが多い);腹痛、発熱
2人以上の患者の便から病原体が分離される
疫学的に関連する食物から病原体が分離される
ボツリヌス菌
Clostridium botulinum
2時間~8日;
通常は12~48時間
重症度は症例によって様々である;通常みられる症状は複視、霧視、延髄障害;麻痺(通常、下行性かつ両側性であり、急速に進行する)
血清、便、胃内容物、関連する食物からボツリヌストキシンが検出される
便もしくは小腸から病原体を分離する
ウェルシュ菌
Clostridium perfringens)
6~24時間 下痢、腹部痙攣;嘔吐および発熱は稀
2人以上の患者の便から1g当たり106個の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
2人以上の患者の便からエンテロトキシンが検出される
疫学的に関連する食物から1g当たり105個の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
大腸菌-腸管出血性
(O157:H7など)
Escherichia coli-Enterohemorrhagic(E.coli O157:H7 and others))
1~10 日;通常は3~4日 下痢(血性のことが多い)、腹部痙攣(重症のことが多い);発熱はみられないか、殆どない
大腸菌O157:H7もしくはその他のシゲラ様毒素産生大腸菌が2人以上の患者の臨床検体から分離される
大腸菌O157:H7もしくはその他のシゲラ様毒素産生大腸菌が疫学的に関連のある食物から分離される
大腸菌-腸管毒素原性
Escherichia coli-Enterotoxigenic(ETEC))
6~48時間 下痢、腹部痙攣、吐き気;嘔吐と発熱は余りみられない 2人以上の患者の糞便から同じ血清型の病原体が分離され、それは耐熱性(ST:heat-stable)や熱不安定(LT:heat-labile)エンテロトキシンを産生することが示される
大腸菌-腸管病原性
Escherichia coli-Enteropathogenic(EPEC))
様々 下痢、発熱、腹部痙攣 2人以上の患者の便から腸管病原性の同一血清型の病原体が同定される
大腸菌-腸管侵入性
Escherichia coli-Enteroinvasive(EIEC))
様々 下痢(血性のこともある)、発熱、腹部痙攣 2人以上の患者の便から腸管侵入性の同一血清型の病原体が分離される
リステリア・モノサイトゲネス-侵襲性疾患
Listeria monocytogenes-Invasive disease)
2~6週間 髄膜炎、新生児セプシス、発熱 通常は無菌状態の部位から病原体が分離される
リステリア・モノサイトゲネス
-下痢性疾患
Listeria monocytogenes-Diarrheal disease)
不明 下痢、腹部痙攣、発熱 疫学的に関連している食物に曝露した2人以上の患者の便から同一血清型の病原体が分離される。もしくは疫学的に関連している食物から同一血清型の病原体が分離される
非チフス性サルモネラ
(Nontyphoidal Salmonella)
6時間~10日;通常は6~48時間 下痢、しばしば発熱と腹部痙攣を伴う
2人以上の患者の臨床検体から同一血清型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物から病原体が分離される
非チフス性サルモネラ
(Nontyphoidal Salmonella)
6時間~10日;通常は6~48時間 下痢、しばしば発熱と腹部痙攣を伴う
2人以上の患者の臨床検体から同一血清型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物から病原体が分離される
チフス菌
Salmonella Typhi)
3~60日;通常は7~14日 発熱、食欲不振、倦怠感、頭痛、筋肉痛;下痢もしくは便秘を伴うことがある
2人以上の患者の臨床検体から同一血清型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物から病原体が分離される
赤痢菌属
Shigella spp)
12時間~6日;通常は2~4日 下痢(血清のことが多い)、発熱および腹部痙攣を伴うことが多い
2人以上の患者の臨床検体から同一血清型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物から病原体が分離される
黄色ブドウ球菌
Staphylococcus aureus
30分~8時間;通常は2~4時間 嘔吐、下痢
2人以上の患者の便もしくは嘔吐物から同一ファージ型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物からエンテロトキシンが検出される
疫学的に関連する食物から1g当たり105個の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
連鎖球菌、A群
Streptococcus, group A)
1~4日 発熱、咽頭炎、猩紅熱、上気道感染症
2人以上の患者の咽頭から同一のMもしくはT型の病原体が分離される
疫学的に関連している食物から同一のMもしくはT型の病原体が分離される
コレラ菌-O1もしくはO139
Vibrio cholerae-O1 or O139)
1~5日 水溶性下痢;嘔吐を伴うことが多い
2人以上の患者の便もしくは嘔吐物から毒素産生性の病原体が分離される
最近免疫されていない人において、急性期および早期回復期の血清で抗ビブリオ性、細菌凝集性、抗毒素性抗体が有意に増加している
疫学的に関連する食物から毒素原生の病原体が分離される
コレラ菌-非O1および非O139
Vibrio cholerae-non-O1 and non-O139)
1~5日 水溶性下痢 2人以上の患者の便から同一血清型の病原体が分離される
腸炎ビブリオ菌
Vibrio parahaemolyticus)
4~30時間 下痢
2人以上の患者の便から神奈川現象陽性の病原体が分離される
疫学的に関連する食物から1g当たり105個の神奈川現象陽性の病原体が分離される(検体が適切に取り扱われた場合)
エルシニア・エンテロコリチカ
Yersinia enterocolitica)
1~10日;通常は4~6日 下痢、腹痛
(重症のことが多い)
2人以上の人からの臨床検体から病原体が分離される
疫学的に関連する食物から病原性株の病原体が分離される
表2.食中毒のアウトブレイクを確認するためのガイドライン(ウイルス)
原因病原体 潜伏期間 臨床症状 原因を確定するための基準
A型肝炎ウイルス
(Hepatitis A virus)
15~50日;中央値28日 黄疸、暗色尿、倦怠感、食欲不振、吐き気 疫学的に関連している食物を消費した 2人以上の人の血清において、A型肝炎ウイルスのIgM抗体が検出される
ノロウイルス
(norovirus)
12~48時間;中央値33時間 下痢、嘔吐、吐き気、腹部痙攣、微熱
少なくとも2回分の便もしくは嘔吐物の検体において、リアルタイムもしくは通常のRT-PCRにてウイルスRNAが検出される
少なくとも2回分の便もしくは嘔吐物の検体において、電子顕微鏡にて、ノロウイルスに特徴的な形態のウイルスがみられる
2 回以上の糞便で商業的酵素免疫アッセイ(EIA)にて陽性となる
アストロウイルス
(Astrovirus)
12~48時間 下痢、嘔吐、吐き気、腹部痙攣、微熱
少なくとも2回分の便もしくは嘔吐物の検体において、リアルタイムもしくは通常のRT-PCRにてウイルスRNAが検出される
少なくとも2回分の便もしくは嘔吐物の検体において、電子顕微鏡にて、特徴的な形態のウイルスがみられる
2 回以上の糞便で商業的酵素免疫アッセイ(EIA)にて陽性となる
表3.食中毒のアウトブレイクを確認するためのガイドライン(寄生虫)
原因病原体 潜伏期間 臨床症状 原因を確定するための基準
クリプトスポリジウム属(Cryptosporidium spp.) 2~28日;中央値7日 下痢、吐き気、嘔吐、発熱
2人以上の人の便もしくは小腸生検にてオーシストがみられる
疫学的に関連している食物のなかに病原体がみられる
サイクロスポーラ・カエタネンシス
Cyclospora cayetanensis
1~14日;中央値7日 下痢、吐き気、食欲不振、体重減少、痙攣、ガス、倦怠感、微熱;再燃したり長期化することがある
2人以上の人の便もしくは小腸吸引液や生検検体において、顕微鏡や分子生物学的方法にて寄生虫がみられる
疫学的に疑われる食物に寄生虫がみられる
ランブル鞭毛虫
Giardia intestinalis
3~25日;中央値7日 下痢、ガス、痙攣、吐き気、倦怠感 2人以上の人の便もしくは小腸生検検体において寄生虫がみられる
旋毛虫
Trichinella spp.)
小腸期では1~2日;全身期では2~4週間 発熱、筋肉痛、眼窩周囲浮腫、好酸球増加
2人以上の人で血清学的検査陽性もしくは筋肉生検検体において幼虫がみられる
疫学的に関連している肉に幼虫がみられる
表4.食中毒のアウトブレイクを確認するためのガイドライン(化学物質)
原因物質 潜伏期間 臨床症状 原因を確定するための基準
海産物毒素-シガトキシン
(Marine toxins-Ciguatoxin)
1~48時間:通常は 2~8時間 通常、消化管症状の後に神経学的症状(口唇、舌、咽頭、四肢の感覚異常を含む)および温冷感覚の逆転が続く
疫学的に関連している魚にシガトキシンがみられる
これまでシガテラ中毒を引き起こしたことのある魚類(フエダイ、ハタ、バラクーダなど)を食べた人にて臨床症状がみられる
海産物毒素-魚のヒスタミン中毒
(Marine toxins-Scombroid toxin(histamine))
1分~3時間;通常は1時間 潮紅、めまい、口および咽頭の灼熱感、頭痛、消化管症状、蕁麻疹、全身の心因性掻痒症
疫学的に関連している魚からヒスタミンが検出される
ヒスタミン魚中毒を引き起こしたことのある魚類(マヒマヒやサバ類)を食べた人での臨床症状がみられる
海産物毒素-麻痺性もしくは神経毒性の甲殻類中毒(Marine toxins-Paralytic or neurotoxic shellfish poison) 30分~3時間 口唇、口もしくは顔面、四肢の感覚異常 ;消化管症状や虚弱、呼吸苦も含む
疫学的に関連している食物にトキシンが検出される
疫学的に関連している軟体動物が集まっている水のなかで甲殻類中毒に関連する渦鞭藻類が大量に検出される
海産物毒素-フグ、テトロドトキシン
(Marine toxins-Pufferfish, tetrodotoxin)
10分~3時間;通常は10~45分 口唇、舌、顔面、四肢の感覚異常(痺れに引き続くことが多い);自己受容消失、浮遊感
疫学的に関連している魚にテトロドトキシンがみられる
フグを食べた人において臨床症状がみられる
重金属(アンチモン、カドミウム、銅、鉄、スズ、亜鉛)(Heavy metals
(Antimony,Cadmium,Copper,Iron,Tin,Zinc))
5分~8時間;通常は1時間未満 嘔吐、金属味のことが多い 疫学的に関連している食物のなかに高濃度の金属が示された
グルタミン酸ソーダ
(Monosodium glutamate (MSG))
3分~2時間;通常は1時間未満 胸、首、腹部、四肢の灼熱感;明度感覚および顔面への重圧もしくは胸部への重い感じ MSGを含んだ食物(通常 1.5 gMSG)を食べた人において臨床症状がみられる
マッシュルーム毒素-短時間作動性毒素(ムシモール、ムスカリン、シロシビン、ヒトヨタケ、イボテン酸)
(Mushroom toxins-Shorter-acting toxins(Muscimol, Muscarine,Psilocybin, Coprinus artrementaris, Ibotenic acid))
2時間 通常は嘔吐と下痢、その他の症状は毒素によって異なる。
●混乱、視力障害
●流涎症、発汗
●幻覚
●ジスルフィラム様反応
毒素型として同定されているマシュルームを食べた人において臨床症状がみられる
疫学的に関連したマシュルームもしくはマシュルームを含んだ食物に毒素がみられる
マッシュルーム毒素-長時作動性毒素(テングタケ属)
(Mushroom toxins-Longer-acting toxins(e.g.,Amanita spp.))
6~24時間 下痢および腹部痙攣が24時間みられ、その後、肝不全および腎不全となる
毒素型として同定されているマシュルームを食べた人において臨床症状がみられる
疫学的に関連したマシュルームもしくはマシュルームを含んだ食物に毒素がみられる

文献

  1. CDC. Foodborne Outbreaks: Guide to Confirming a Diagnosis in Foodborne Disease
    http://www.cdc.gov/foodsafety/outbreaks/investigating-outbreaks/confirming_diagnosis.html

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 臨床研修管理室長
兼 衛生管理室長