ケンエーIC News

76号 遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン
PDFファイルで見る

これまで、米国では帯状疱疹の予防のために帯状疱疹ワクチンが用いられてきた。日本でも、水痘ワクチンが帯状疱疹予防を目的として、50歳以上の正常免疫成人に接種されている[註釈1]。最近、遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチンが米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)によって認可された1)。そして、このワクチンはワクチンよりも、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛に対する有効性が高いことが示された。「帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛」「帯状疱疹ワクチン」「遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン」の順で解説する。

帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹は局所の通常有痛性の皮膚発疹であり、潜在性水痘帯状疱疹ウイルス(VZV:varicella zoster virus)の再活性化によるものである。帯状疱疹は日常的にみられる疾患であり、米国では年間100万人が罹患している。発生率は年齢とともに増加し、50~59歳では1,000人当たり5症例であるが、80歳以上では1,000人当たり11症例になる。通常、帯状疱疹後神経痛は「帯状疱疹の発疹が治癒してから少なくとも90日間の持続的な疼痛がみられること」と定義され、帯状疱疹の最も頻度の高い合併症である。50歳を越える帯状疱疹症例の10~13%に帯状疱疹後神経痛がみられる。帯状疱疹後神経痛を合併する危険性は年齢とともに増加する。

帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹ワクチン(ZVL:Zoster Vaccine Live)はVZVの弱毒ワクチンで1回接種する。50歳以上の正常免疫の成人における帯状疱疹の予防のために認可されているが、予防接種諮問委員会(ACIP:Advisory Committeeon Immunization Practices)は60歳以上の正常免疫の成人への接種を推奨している[註釈2]。このワクチンの認可以降、その接種率は毎年増加し、2016年までに60歳以上の成人の33%が接種したと報告されている。

遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン

2017年10月20日、遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン(RZV:recombinant zoster vaccine)が、50歳以上の成人の帯状疱疹の予防を目的としてFDAによって認可された。このワクチンは2回接種が必要であり、2~6か月の間隔をあけて筋肉注射される。2017年10月25日、ACIPは50歳以上の正常免疫の成人にRZVを推奨した。

遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチンと帯状疱疹ワクチンの比較

複数の臨床研究において、帯状疱疹に対するRZVの有効性はすべての年齢層でZVLよりも高かった。帯状疱疹後神経痛に対する有効性もまた、RZVのほうがZVLよりも高い。これら2種のワクチンの有効性の相違は70歳以上の被接種者で最も著しい。ある研究によると、ZVLの有効性は接種後4年間で相当減弱するが、RZVは接種後4年経過しても有効性の減弱は中等度であった。すなわち、RZVはZVLに比較して、帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛をさらに予防すると推定される。

遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチンの利用法

  • RZVは水痘ワクチンやZVLの接種歴に関係なく、50歳以上の成人に接種してよい。水痘の既往の確認のためのスクリーニングは必要ない。
  • RZVの管理をZVLと混乱しないようにする。ZVLは冷凍庫保存であり、皮下注射する。RZVは冷蔵庫保存であり、筋肉注射する。
  • RZVの初回接種のあと、2~6カ月後に2回目を接種する。初回から6カ月以上経過したとしても、ワクチンシリーズをやり直しする必要はない。ただし、1回目と2回目の推奨間隔を越えている場合、1回目が接種されていたとしても、帯状疱疹のリスクは残っている。もし、1回目接種のあと4週間以内に2回目を接種したならば、2回目は再接種すべきである。帯状疱疹の既往やZVLの接種既往に関係なく、2回接種が必要である。
  • 帯状疱疹は再発しうる。帯状疱疹の既往のある成人であっても、RZVを接種すべきである。もし、患者が帯状疱疹を発症している最中であれば、接種は症状が治まるまで遅らせる。
  • 慢性疾患のある成人(慢性腎不全、糖尿病、関節リウマチ、慢性肺疾患など)はRZVを接種すべきである。
  • ZVLと同様に、ACIPは「少量の免疫抑制治療(例:プレドニン20mg/日相当もしくは、吸入や局所ステロイド)を受けている人」「免疫抑制が予定されている人」「免疫不 全疾患から回復した人」にRZVを接種することを推奨する。
  • RZVは50歳以上のすべての人々に認可される。しかし、免疫不全の人および免疫抑制治療が中等度~大量の人は有効性の研究から除外されているので、ACIPはこれらの患者でのRZVの使用に関する勧告は提示していない。
  • 文献

    1. CDC. Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices for use of herpes zoster
      vaccines
      https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6703a5-H.pdf
    2. CDC. Prevention of herpes zoster
      https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5705a1.htm
    3. CDC. Update on recommendations for use of herpes zoster vaccine
      http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6333a3.htm

    [註釈1]
    帯状疱疹の予防には細胞性免疫が必要である。抗体のみでは帯状疱疹を抑えこむことはできない。実際、水痘帯状疱疹ウイルス抗体が陽性の人で帯状疱疹が発生している。そのため、米国では帯状疱疹生ワクチンが用いられてきた。このワクチンは水痘ワクチンと同じウイルスを用いて製造されているが、ウイルス量が異なる。水痘ワクチンでは1,350PFU(Plaque Formation Unit:プラーク形成単位)以上であるが、帯状疱疹ワクチンは水痘ワクチンの14倍の19,400PFU以上となっている2)。すなわち、細胞性免疫を刺激するために大量のウイルスを投与するのである。
    日本での水痘生ワクチンの生物学的製剤基準は1,000PFU以上であるが、実際は製造後5年間の年平均が42,000~67,000PFUである。そのため、帯状疱疹の予防に使用されている。

    [註釈2]
    60歳以上の成人における帯状疱疹生ワクチンの短期効果を評価した研究は、帯状疱疹の予防効果は接種後1年の62.0%から5年の43.1%に減少することを示した。そして、5年以降の効果は示されなかった。帯状疱疹後神経痛の予防効果については接種後1年の83.4%から2年の69.8%に減少し、3~7年については統計学的には有効性は確認できなかった。すなわち、60歳以上で接種された成人においては、ワクチンの効果は最初の5年で減少し、5年以降の防御効果は明確ではない。それ故、60歳未満でワクチンを接種された成人は帯状疱疹および帯状疱疹後神経痛の危険性が最大となる時期には防御されないかもしれない3)

    矢野 邦夫

    浜松医療センター 副院長
    兼 感染症内科長
    兼 衛生管理室長