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77号 クロストリディウム・ディフィシル感染症 ガイドライン
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米国感染症学会(IDSA:Infectious Diseases Society of America)および米国医療疫学学会(SHEA:Society for Healthcare Epidemiology of America)が「成人および小児におけるクロストリディウム・ディフィシル感染症の臨床実践ガイドライン」1)を公開した。その中から重要な勧告をQ&A方式で紹介する。

診断

クロストリディウム・ディフィシル(CD:Clostridium difficile)[註1]検査が必要とされる集団とはどのような人々か?
24時間で3回以上の無形便が新規にみられ、かつ、その原因が不明の患者がCD検査の ターゲットとなる。
臨床的に重要なクロストリディウム・ディフィシル感染症(CDI:Clostridium difficile Infection)の患者を見つけ出すためのベストな方法は何か?
臨床検査室で受け取ったすべての便検体において、核酸増幅検査(NAAT:nucleic acid amplification test)単独よりも、多段階アルゴリズム[註2]の一部として便 トキシン検査を行う[図]。

[図] 患者の便の提出のために施設内で前もって合意された基準に基づくCDI検査の推奨

患者の便の提出のために施設内で前もって合意された基準に基づくCDI検査の推奨

臨床症状からCDIが疑われる患者の便検体において、CDIの診断に最も高感度の方法は何か?
トキシン検査単独よりも、NAAT単独もしくは多段階アルゴリズム[註2]を用いる。
CD検査を繰り返すことは有用か?無症状患者に再検査(治癒検査を含む)してもよいか?
同じエピソード期間の下痢ではCD検査を繰り返さない(7日以内の再検査はしない)。無症状の患者の便は検査しない(例外:疫学調査)。

診断(小児患者)

新生児や幼児にCD検査をすべきか?
幼児においては毒素産生CDの無症状保菌者の割合が高いので、新生児および生後12ヶ月以下の幼児は下痢があってもCD検査をルチーンに実施しない。
歩き始めの小児や年長小児にCD検査をしてもよいか?
1~2歳の小児は下痢があっても、CD検査をルチーンに実施しない。
2歳以上の小児では、下痢の持続や増悪がみられ、リスク因子(基礎疾患として、炎症性腸疾患や免疫不全状態がある)もしくは妥当な曝露(医療システムや抗菌薬への最近の曝露)があればCD検査が推奨される。

感染予防策

CDI患者は個室や専用トイレを用いるべきか?
他の患者への伝播を減らすために、専用トイレ付の個室にCDI患者を収容する。個室の数が不足しているならば、便失禁のある患者に個室の使用を優先する。
コホーティングが必要ならば、同じ病原体を発症もしくは保菌している患者をコホートする。MRSAやバンコマイシン耐性腸球菌(VRE:vancomycin-resistant Enterococcus)などの他の多剤耐性菌のあるCDI患者と一緒にコホートしない。
隔離中のCDI患者をケアするときには手袋とガウンを装着すべきか?
CDI患者の病室に入室する時およびCDI患者をケアする時には手袋とガウンを装着する。
隔離はいつ開始すべきか?
CDIが疑われる患者のCD検査の結果が同日に得られないのであれば、結果を待ちなが ら先制的に接触予防策を行う。
隔離はいつまで継続するか?
下痢が改善してから少なくとも48時間経過するまで接触予防策を継続する。
標準的なCDI感染対策にも拘わらず、CDIの割合が高いままならば、退院するまで接触予防策を延長する。
隔離中のCDI患者をケアする時、(手袋を使用している前提で)推奨される手指衛生は何か?
日常的もしくはエンデミック[註3]な状況では、CDI患者への接触の前後および手袋を取り外したあとには、石鹸と流水もしくはアルコール手指消毒薬を用いて手指衛生をする。
CDIのアウトブレイク[註3]もしくはハイパーエンデミック[註3]の状況では、CDI患者のケアの前後にはアルコール手指消毒薬の代わりに、石鹸と流水による手指衛生を優先的におこなう。石鹸と流水の方が芽胞の除去率が高いからである。
糞便に直接接触したり、糞便汚染がありそうな区域に接触するならば石鹸と流水による手指衛生を優先する。
ノンクリティカルの器具や器材は隔離中のCDI患者の専用にすべきか?もしくは、使用後は特別に洗浄すべきか?
可能であれば、使い捨ての患者器具を用いる。器具を再利用するときは十分に洗浄し、器具に適合した殺芽 胞消毒薬を用いて確実に消毒する。

治療

CDIの重要な治療は何か?
引き金となった抗菌薬を迅速に中止する。これはCDIの再発リスクに影響するからである。
CDIの検査確認がかなり遅れそうな場合や劇症型CDIの場合はCDIの抗菌薬治療をエンピリックに開始する。
CDIの初回エピソードのベストな治療は何か?
CDIの初回エピソードにはメトロニダゾールよりもバンコマイシンもしくはフィダキソマイシンが推奨される。投与量はバンコマイシン内服125mg×1日4回、もしくはフィダキソマイシン内服200mg×1日2回の10日間である。
バンコマイシンやフィダキソマイシンが入手できなければ、CDIが重症でない場合に限って、初回エピソードの治療にメトロニダゾールを推奨する。投与量はメトロニダゾール内服500mg×1日3回の10日間である。メトロニダゾールには蓄積性および非可逆性の神経毒性があるので、治療を繰り返したり、延長したりしない。
劇症型CDI[註4]のベストな治療は何か?
劇症型CDIの推奨レジメンはバンコマイシン内服である。イレウスを合併している場合はバンコマイシンを直腸から投与する。投与量はバンコマイシン500mg×1日4回であり、約100mLの生食で500mgを溶解して、6時間毎に直腸から停留浣腸として投与する。バンコマイシン内服もしくは(イレウスがあれば)浣腸に加えて、メトロニダゾールの経静脈投与も行う。投与量はメトロニダゾール注射500mg×8時間毎である。
重症患者に外科手術が必要ならば、直腸を温存した結腸亜全摘術を実施する。便流変更結腸瘻造設術に加えて、バンコマイシンの順行性浣腸(註:腸蠕動と同一方向へ薬液を注入する)を行うことも、予後を改善するかもしれない。
再発性CDIのベストな治療は何か?
CDIの初回再発では「バンコマイシン内服の10日標準コース」の2回目を実施するよりも、「バンコマイシン内服の漸減&パルスレジメン」もしくは「フィダキソマイシン内服の10日コース」で治療する。
CDIの初回エピソードにメトロニダゾールが用いられていたら、初回再発はメトロニダゾールの2回目コースよりも「バンコマイシン内服の10日標準コース」で治療する。
2回目以上の再発では「バンコマイシン内服の漸減&パルスレジメン」もしくは「バンコマイシン内服の10日標準コース+リファキシミンもしくはフィダキソマイシンの追加投与」を行う。
適切な抗菌薬治療が不成功となった複数回の再発の患者には糞便微生物移植が推奨される。

治療(小児患者)

小児の非重症CDIの初回エピソードもしくは初回再発のベストな治療は何か?
メトロニダゾールもしくはバンコマイシンが推奨される。
小児の重症CDIの初回エピソードのベストな治療は何か?
メトロニダゾールよりもバンコマイシン内服が推奨される。
小児における2回目以上の再発CDIのベストな治療は何か?
メトロニダゾールよりもバンコマイシンが推奨される。
再発CDIの小児に糞便微生物移植を実施するか?
標準的な抗菌薬治療にも拘わらず、CDIを複数回再発する小児患者には糞便微生物移植を考慮する。

[表1]成人におけるCDIの推奨治療

臨床的定義 臨床的支持データ 推奨治療
初回エピソード(非重症) 白血球増加
(白血球数≦15,000/mL)
および血清クレアチニン値<1.5mg/dL
  • バンコマイシン内服125mg×1日4回×10日間
  • フィダキソマイシン内服200mg×1日2回×10日間
  • 上記の薬剤が入手できなければ、メトロニダゾール内服500mg×1日3回×10日間
初回エピソード(重症) 白血球増加
(白血球数≧15,000/mL)
および血清クレアチニン値>1.5mg/dL
  • バンコマイシン内服125mg×1日4回×10日間
  • フィダキソマイシン内服200mg×1日2回×10日間
初回エピソード (劇症) 血圧低下もしくはショック、イレウス、巨大結腸
  • バンコマイシン内服or胃管投与500mg×1日4回。
    イレウスがあれば、バンコマイシンの直腸投与を考慮する。
    特に、イレウスがあれば、バンコマイシン内服もしくは浣腸に加えて、メトロニダゾール注射(500mg×8時間毎)を投与する。
初回再発
  • 初回エピソードでメトロニダゾールが投与されていたら、バンコマイシン内服125mg×1日4回×10日間
  • 初回エピソードに標準レジメンが用いられていたら、バンコマイシン内服の漸減&パルスレジメン(バンコマイシン内服125mg×1日4回×10~14日間⇒1日2回×1週間⇒1日1回×1週間⇒2~3日毎×2~8週間)の延長を行う。
  • 初回エピソードでバンコマイシンが投与されていたら、フィダキソマイシン内服200mg×1日2回×10日間
2回目以降再発
  • バンコマイシン内服の漸減&パルスレジメン
  • バンコマイシン内服125mg×1日4回×10日間、其の後にリファキシミン400mg×1日3回×20日
  • フィダキソマイシン内服200mg×1日2回×10日間
  • 糞便微生物移植

[表2]小児におけるCDIの推奨治療

臨床的定義 推奨治療 小児投与量 最大投与量
初回エピソード(非重症)
  • メトロニダゾール内服×10日間
  • バンコマイシン内服×10日間
  • 7.5mg/kg/回×1日3回or4回
  • 10mg/kg/回×1日4回
  • 500mg×1日3回or4回
  • 125mg×1日4回
初回エピソード(重症/劇症)
  • バンコマイシン内服or浣腸125mg×10日間±メトロニダゾール注射×10日間
  • 10mg/kg/回×1日4回
  • 10mg/kg/回×1日3回
  • 500mg×1日4回
  • 500mg×1日3回
初回再発(非重症) メトロニダゾール内服×10日間・バンコマイシン内服×10日間
  • 7.5mg/kg/回×1日3回or4回
  • 10mg/kg/回×1日4回
  • 500mg×1日3回or4回
  • 125mg×1日4回
2回目以降再発
  • バンコマイシン内服の漸減&パルスレジメン
  • バンコマイシン内服×10日間、其の後にリファキシミン×20日
  • 糞便微生物移植
  • 10mg/kg/回×1日4回
  • バンコマイシン10mg/kg/回×1日4回
  • 125mg×1日4回
  • バンコマイシン500mg×1日4回、リファキシミン400mg×1日3回

[註1]
クロストリディウム・ディフィシル(Clostridium difficile)を取り巻く環境に変化がみられ、菌種名が変わった。2016年、表現型、化学分類学、系統発生学による分類に基づいて、新しい属としてクロストリディオイデス属(Clostridioides spp.)が提案され、そこに属することになった2)。暫くは、「クロストリディウム・ディフィシル」の菌種名が用いられるであろうが、今後は「クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)」と呼ばれることになるであろう。

[註2]
多段階アルゴリズム=「グルタミン酸脱水素酵素[GDH:glutamate dehydrogenase]+トキシン」or「GDH+トキシン⇒核酸増幅検査(NAAT:nucleic acid amplification test)で決着をつける」or「NAAT+トキシン」

[註3]
各単語の邦訳の一例
エンデミック(endemic):地方特有の(予測できる)流行
ハイパーエンデミック(hyperendemic):地方特有の(予測できる)高度な流行
エピデミック(epidemic):(予測できない)流行
アウトブレイク(outbreak):(予測できない)限定流行

[註4]
劇症型CDIは過去には重症複雑性CDIと呼ばれていた。これは血圧低下、ショック、イレウス、巨大結腸が特徴である。

文献

  1. IDSA&SHEA. Clinical Practice Guidelines for Clostridium difficile Infection in Adults and Children:2017 Update by the Infectious Diseases Society of America(IDSA)and Society for Healthcare Epidemiology of America(SHEA).Clin Infect Dis.2018 19;66(7):987-994.
  2. Lawson PA,et al.Reclassification of Clostridium difficile as Clostridioides difficile(Hall and O’Toole 1935)Prévot 1938.Anaerobe.2016 Aug;40:95-99.

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長