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82号 コンタクトレンズと角膜感染症
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コンタクトレンズを装着したまま眠ると、コンタクトレンズ関連角膜感染症に罹患するリスクが6~8倍増える。それにも拘わらず、コンタクトレンズの使用者の約1/3がレンズを装着したまま就寝したり、居眠りしている。角膜感染症は外科的介入を必要とすることがあり、角膜に障害を与え、永久的な視力損失となる可能性がある[図]。CDCが週報(MMWR: Morbidity and Mortality Weekly Report)において、コンタクトレンズが関係した角膜感染症の6例を示しているので紹介する1)

図 コンタクトレンズが関連した角膜感染症の特徴的な所見

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中等度の充血。潰瘍が覆いかぶさるような傍中心部の著しい白い不透明な部分、ぼやけた周辺部がみられる。

症例1

コンタクトレンズを17年間使用してきた34歳の男性が左眼の発赤と霧視にて受診した。彼は夜間にコンタクトレンズをしたまま眠ることが週に3~4回あり、装着したまま水泳することもあった。細菌性および真菌性角膜炎の治療を2ヶ月受けたが改善しなかったため、大学医療センターに受診した。そこで共焦点顕微鏡(角膜を通して、断片の連続イメージを撮影する技術)にて、アカントアメーバ角膜炎が疑われる所見がみられた。そのため、ポリヘキサメチレンビグアニドおよびクロルヘキシジンによる局所療法を1時間毎に実施し、6ヶ月かけて減量していった。感染症は改善し、最終的な眼鏡矯正視力は20/40[註釈1]となった。20/20に修正するためにはハードコンタクトレンズが必要となった。

症例2

59歳の男性が2日間の狩猟旅行中にソフトレンズを夜通し装着していたところ、3日目に眼痛がみられた。彼は心配もせず、店頭で購入した点眼薬を使用していた。当初は角膜上皮剥離と診断され、治癒を促進するために保護コンタクトレンズが用いられた。同時に、トブラマイシン/デキサメサゾンの点眼液(1日4回)の処方も受けた。しかし、症状が増悪したので、オフロキサシン点眼液(2時間毎)に治療が変更された。シャワーのときに、タオルで目を拭き取っていたところ、ポンという音が聞こえ、左目に痛みを感じた。
眼科に受診すると、穿孔した大きな角膜潰瘍と診断された。眼の健全性を再建するために緊急角膜移植が実施され、手術後は局所の広域抗菌薬にて治療された。角膜手術の1年後には視力は20/25まで回復した。

症例3

34歳の女性が3日間の突き刺すような右眼の疼痛にて受診した。彼女はソフトレンズを装着したまま日常的に眠っており、推奨されている毎月の交換スケジュールを越えて長期間もレンズを使用していた。また、専門家に何年も受診せず、少なくとも5年間はオンラインのコンタクトレンズの小売りを介してレンズを補充していた。右眼を検査したところ、中心傍に1.5mmの浸潤があり、周辺には浮腫と前房細胞の痕跡があった。モキシフロキサシンの局所治療の翌日に症状が改善した。彼女はモキシフロキサシンを継続するように指導されたが、1週間後の予約日には受診しなかった。

症例4

57歳の男性が両眼の視力低下と眼痛にて救急外来に受診した。彼は同じソフトコンタクトレンズを約2週間装着し続けていた。レンズを毎日消毒することもしなかった。それらを装着したまま眠るのが通常であり、定期的な交換もしなかった。検査したところ、裸眼視力は右眼は光覚弁[訳者註:明暗の弁別ができる]、左眼は手動弁[訳者註:眼前で手を動かすのが認識できる]であった。右眼には中心角膜浸潤および角膜の穿孔がみられ、左眼には2か所の中心周囲部浸潤を伴う中心部浸潤および前房蓄膿(前眼房の白血球)がみられた。両眼の細菌性角膜炎と診断され、トブラマイシンとバンコマイシンの点眼(1時間毎)による治療が必要となった。右眼を救うためには角膜移植が必要であった。左眼は局所治療に反応し、視力は20/40となり中心部実質瘢痕となった。

症例5

チェーン店で処方なしで購入したソフトレンズを装着して眠っていた17歳の女性が右眼の角膜潰瘍となった。培養にて緑膿菌が増殖した。トブラマイシンとバンコマイシンの強化点眼液にて治療を開始した。視力は右眼で光覚弁であり、角膜には中心部に白い密集した潰瘍および実質浸潤および0.5mmの前房蓄膿がみられた。フォローアップでは視力は20/100まで回復し、ピンホール視力は20/60となった。細線化を伴う実質瘢痕が残った。

症例6

18歳の男性が左眼の疼痛、発赤、光過敏、流涙が3日続くとのことで救急外来を受診した。彼は処方なしで地域の店で入手した装飾用ソフトコンタクトレンズ[註釈2]を1年間装着していた。また、レンズを装着したまま眠ることもあった。救急外来ではフルオロキノロン点眼液が投与された。その後、地域の眼科クリニックに受診し、細菌性角膜炎が疑われた。視力は右眼20/25、左眼20/50であった。左眼には中心部潰瘍、浮腫、中等度の炎症反応を伴う中等度の充血があった。セファロスポリンとアミノグリコシドの点眼液(1時間毎)が処方された。眼、レンズ、レンズケースの培養では肺炎桿菌および緑膿菌の増殖がみられた。10日後に症状は改善し、左眼の視力は20/25にまで回復した。しかし、実質瘢痕は残ったままである。

文献

  1. Cope JR, et al. Corneal Infections Associated with Sleeping in Contact Lenses̶ Six Cases, United States, 2016‒2018
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6732a2-H.pdf

[註釈1]日米の視力換算表

米国 日本
20/200 0.1
20/100 0.2
20/60 0.33
20/50 0.4
20/40 0.5
20/25 0.8
20/20 1.0
20/10 2.0

米国では分数表示、日本では少数表示である。
分数を割り算すれば少数表示となる。

[註釈2]装飾用もしくは美顔用レンズは眼の外観を変えるコンタクトレンズであり、視力を矯正するものではない。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長