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85号 無認可の臍帯血医療と感染症
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平成26年(2014年)11月25日、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が施行され、再生医療の安全性の確保に関する手続きや細胞培養加工の外部委託のルールなどが定められた。ここでは「臍帯血を用いた再生医療などを提供しようとする医療機関の管理者は、再生医療などの提供計画が再生医療等提供基準に適合しているかどうかについて、あらかじめ、認定再生医療等委員会の意見を聴いた上で、厚生労働大臣へ提出する必要がある」「臍帯血を加工する施設ごとに、特定細胞加工物製造の届出または許可を受ける必要がある」と記述されており、これに違反した場合には罰則がある。また、違反が疑われる医療機関や臍帯血あっせん事業者についての情報が得られた際には、厚生労働省医政局研究開発振興課に情報提供することが依頼されている。このように、日本においては臍帯血の安全かつ有効な活用が求められている。今回、米国において医療機関で臍帯血が無認可の状況で利用され、汚染した臍帯血による重篤な感染症が発生した。CDCがその詳細を報告しているので紹介する1)

事例

臍帯血に由来する幹細胞製剤は米国食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)のみが認可しており、造血および免疫学的再構築のみが唯一の認可されている使用目的である。2018年9月17日、テキサス州保健所はジェネテック社で処理されてリベヨン社が配給したFDA無認可の臍帯血由来幹細胞製剤を造血もしくは免疫学的再構築以外の目的で、9月12日に外来クリニックで注射された3人の患者においてEnterobacter cloacaeおよびCitrobacter freundiiの血流感染が発生したとの連絡を受けた。E. cloacaeの患者分離菌は同一のパルスフィールド・ゲル免疫電気泳動パターンであり、同一の感染源を示唆した。
9月22日、フロリダ州保健所は2018年2月15日~8月30日に整形外科クリニックにおいて同じ製剤を注射された4人の患者においてEscherichia coliEnterococcus faecalisProteus mirabilisによる関節感染が発生したとの連絡をうけた。これらの症例もまた、造血もしくは免疫学的再構築以外の使用であった。クリニックからの未開封の製剤をフロリダの病院が培養したところ、E. coliおよびE. faecalisの汚染が同定された。これに対応して、9月28日にリベヨン社は自発的にリコールし、ジェネテック社処理の幹細胞製剤の販売を迅速に中止した。10月4日、CDCはリベヨン社の製剤を注射された患者での培養確認感染症の報告を全国に呼び掛けた。12月14日の時点で、CDCは3州からの12人の患者での感染の報告を受け取った。その内訳はテキサス州(7人)、フロリダ州(4人)、アリゾナ州(1人)であり、これには最初のフロリダ州およびテキサス州の症例も含まれている。感染症は血流感染、関節感染、硬膜外膿瘍などであった。12人の患者の全員がリコール前にリベヨン社の製剤を注射もしくは点滴されていた。製剤投与のきっかけとなった状況が判明した11人の患者のうち、全員が疼痛もしくは整形外科的状態などの非造血性の状態であった。全員が入院し、9人が死亡した。

培養および調査

CDCは最初の患者が臍帯血製剤を注射されたテキサス州およびフロリダ州のクリニックから得られた未開封のバイアルを検査した。テキサス州からの6本のバイアルは感染患者に投与されたバイアルと同一臍帯血ドナーかつ同一の処理日であった。そして、6本のバイアルすべてからE. cloacaeが分離され、5本のバイアルからC. freundiiが分離された。フロリダ州からの4本のバイアルはテキサス州からのバイアルとは異なるドナーであり、処理日も異なっていた。そして、同一臍帯血ドナーかつ同一処理日からの2本のバイアルのうち1本からE. coliが分離され、2人の異なるドナーからの異なる処理日の2本のバイアルのうち1本からE. coliおよびE. faecalisが分離された。
継続中の調査には、積極的な症例検出、臨床分離株と製剤分離株を比較するための追加検査、医療施設の感染対策および安全な注射手技の現場検証、製造過程の調査(配給も含む)が含まれた。そして、初期の調査では配給前に細菌汚染が発生したことを示している。

今後の対策

臍帯血は採取後は除染できない。現時点では確証できる滅菌処理がないので、製造元は汚染製剤の配給を防ぐために高度に制御されていなければならない。ジェネティック社が処理してリベヨン社が配給した製剤はFDA認可のものではなく、合法的に販売されているものでもない。ジェネティック社およびリベヨン社はFDAに登録されているが、登録されていてもFDA認可ということではない。FDAに登録されただけでは会社もしくはその製剤が法律に遵守していることにはならない。汚染がいつ発生したかに拘わらず、この調査によって造血もしくは免疫再構築以外の未認可および未証明の目的のために幹細胞治療を患者に投与することには重大な危険性の可能性があることが浮き彫りにされた。造血もしくは免疫再構築以外の幹細胞の安全性と有効性が十分には確立されていないにも拘わらず、多くの会社、クリニック、医師がFDA未認可の整形外科的、神経学的、リウマチ学的な状況の治療として様々な製剤を販売しつづけている。そのような医師や供給者は外来を経営しており、しばしば、感染対策の確固たる監視が不足していることがある。それには安全な注射および薬物処理が含まれており、それが患者への危険性を増大している可能性がある。FDAは新規薬剤の出願のもとで実施される管理された臨床研究がなされた治療対象以外でそのような製剤を受けることを避けることを患者に推奨している。

文献

  1. Perkins KM, et al. Infections after receipt of bacterially contaminated umbilical cord blood‒derived stem cell products for other than hematopoietic or immunologic reconstitution̶United States, 2018
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6750a5-H.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長