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86号 リステリア症のアウトブレイク
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米国にてカラメルアップル(キャンディのような物質でおおわれているリンゴ)が関連したリステリア症のアウトブレイクが発生した。その調査の詳細がCDCの週報に掲載されているので、紹介する1)

パルスネットでの検出

2017年12月1日、パルスネット(PulseNet)(食品媒介疾患のサーベイランスのためのCDCの分子サブタイピングネットワーク)はパルスフィールド電気泳動法(PFGE : pulsed-field gel electrophoresis)[訳者註1]のパターンが同一の3件のListeria monocytogenes[訳者註2]の臨床分離株のクラスター[訳者註3]を検出した。これらの分離株は全ゲノムMLST(multilocus sequence typing)[訳者註4]においてもアレルの相違が3つ以内であり、お互いに濃厚に関連していた。そのため、これらは同じ感染源からのものであろうと推測され、CDC、米国品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)、州および地域の保健所は複数の州での調査を開始した。アウトブレイク症例の定義は「2017年10月~12月の期間に同定されたアウトブレイク株において、PFGEパターンが同一であり、全ゲノムMLSTにて濃厚に関連しているL. monocytogenesの分離株に感染した患者」とした。

分離株に該当した症例

3件の分離株に該当した症例がイリノイ州、アイオワ州、ミシガン州にて同定された。分離された日は2017年10月15日~2017年10月29日であった。患者の年齢は55歳~71歳(中央値=69歳)であり、3人の患者全員が男性であった。全ての患者がリステリア症にて入院したが、死亡は報告されていない。調査期間中は新規の分離菌についてPulseNetにルチーンに問い合わせしたが、追加症例は同定されなかった。
3人の患者全員もしくはその代理人がインタビューされ、そこでは標準的なリステリア初期問診票が用いられた。この問診票は発症前の月に消費された様々な種類の食べ物について質問している。また、ミシガン州では食料雑貨店のレシートが患者から集められた。報告された曝露をレビューすると、3人の患者の全員が発症の前月に小売店から購入した包装済のカラメルアップルを消費していた。

過去の事例との比較

「3件のアウトブレイク関連症例」と「2006年以降にCDCに報告された同じ州からの186件のリステリア症の散発症例」を比較するために、症例解析が実施され、すべての食べ物(リステリア初期問診票に含まれている)についての曝露の頻度が比較された。アウトブレイク関連症例では、カラメルアップルの消費が散発症例に比較して有意に高かった(オッズ比=21.7 ; 95%信頼区間=2.3‒無限大)。インタビューされた患者のなかで、カラメルアップルを自宅に残していた患者はなかった。

小売りの状況

州および地域の調査スタッフはカラメルアップルが販売された3ヶ所の小売りのうち2か所で記録を収集した。3件の小売りのすべてが同じブランドのカラメルアップル(ブランドA)を販売していた。商品はプラスチック製貝殻のなかにパックされ、それには3つのカラメルアップルが入っていた。それらには棒がつけられていた。カラメルアップルは季節性の商品であり、2か所の小売りにて秋の短期間のみに購入できた。しかし、イリノイ州の患者がカラメルアップルを購入した小売りは調査時点で製品を保存していた。カラメルアップルの8パックがイリノイ州の保健所によって検査するために集められたが、どのサンプルからもL. monocytogenesは検出されなかった。しかし、検査されたカラメルアップルがこのアウトブレイクでの発病者によって消費されたものと同じロットのものかどうかはわからない。カラメルアップルの生産施設での調査期間中にFDAは記録および手技をレビューし、検査のために環境サンプルを収集したが、食物の安全を脅かすものはみられなかった。環境のスワブからもL. monocytogenesは検出されなかった。全てのリンゴの供給会社は1社であり、そこで収集された環境スワブからL. monocytogenesが検出されたが、アウトブレイク株ではなかった。遡及調査によってもブランドAのカラメルアップルの生産で用いられたリンゴで特定のロットや供給者をみつけることはできなかった。
調査中にアウトブレイク関連の追加症例は同定されなかった。製品の限定的な保存可能期間(生産施設は15日としている)の点から、このアウトブレイクで発症した患者が消費したカラメルアップルが調査の時点で、まだ購入できたり、家庭に保存されていることはありそうにない。公衆に対しての危険が続いていることを示唆するエビデンスがないので、連邦もしくは州からは公衆への警告は発行されなかった。

結論

L. monocytogenesのアウトブレイク株がカラメルアップルや生産環境から分離されなかったが、疫学的エビデンスはカラメルアップルがこのアウトブレイクの媒介物であることを示唆している。アウトブレイクに関連した発症者の全員が発症の前の月に比較的珍しい食品の特定のブランドを消費し、全員が同一のL. monocytogenes株に感染した。カラメルアップルは過去にも、2014~2015年にリステリア症の大規模の複数の州にわたるアウトブレイクを引き起こしており、それはリンゴをそのままの消費したことによるものである。

今後に向けて

非加熱喫食調理済み食品[訳者註5]の加工業者(カラメルアップルの加工業者を含む)は食品製造環境にL. monocytogenesを持ち込んだり、そこで生息させることは潜在的な危険性があることを認識し、適切な環境モニタリングや予防策によって危険性を減らすようにすべきである。
新鮮な生産物(フレッシュリンゴを含む)でのL. monocytogenesの制御のための更なる研究は非加熱喫食調理済み食品での病原体を減らしたり、排除するための予防策として役立つかもしれない。

文献

  1. Marus JR, et al. Outbreak of listeriosis likely associated with prepackaged caramel apples ̶ United States, 2017
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/67/wr/pdfs/mm6738a5-H.pdf

[訳者註1]パルスフィールド電気泳動法(PFGE : pulsed-field gel electrophoresis)
細菌のゲノムを制限酵素(遺伝子の特別な配列だけを認識してその部位で切断する酵素)で処理して、切断された断片の長さの違いを解析する方法である。
巨大DNA分子専用の電気泳動により切断断片を分離し、異なる分子量の断片の数の違いにより株の分別をする。

[訳者註2]Listeria monocytogenes(リステリア・モノサイトゲネス)
ヒトや動物の糞便、植物や牧草中に検出されるグラム陽性桿菌である。低温でも増殖できるので、サラダなどの生野菜から検出されることがある。
免疫不全患者や乳児において化膿性髄膜炎を引き起こすことがある。

[訳者註3]クラスター
(予測数よりも多い)症例集団

[訳者註4]MLST(multilocus sequencetyping)法
細菌の生存に必須の7種の遺伝子(ハウスキーピング遺伝子と呼ばれる)をDNA解析するものである。その解析データをMLST解析サイトへ送信して、データベースに登録されている情報と照らし合わせ、アレル番号(allele)を取得する。PFGE法以上の解像度で株の識別能を達成することができる。

[訳者註5]非加熱喫食調理済み食品
加熱しないでそのまま食べる食品であり、RTE(Ready-to-eat)食品と呼ばれている。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長