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87号 小児科クリニックの玩具について
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小児科クリニックには感染症に罹患した小児が受診している。そして、呼吸器分泌物を適切に取り扱うことができない幼児、オムツや失禁のある下痢の小児、皮膚病変のある小児は感染源になりうる。医療器具、環境表面、玩具に生存できる病原体は患者に伝播する可能性が高く、厳しく汚染された環境表面は伝播の可能性を強める。
呼吸器ウイルスやロタウイルスは少数の病原体で感染症を引き起こすことができ、環境表面や玩具などに長期間生存している。MRSAやRSウイルスは聴診器の膜に生息しており、RSウイルスが環境表面から伝播することが示されている。また、汚染された電子体温計や血圧計のカフはクロストリディオイデス・ディフィシルやバンコマイシン耐性腸球菌の伝播に関連している。
クリニックでの病原体の患者間での伝播は病棟の入院患者よりも少ない。クリニックでは患者同士が接触する時間は短く、健康状態も入院患者より良好だからである。侵襲性処置が行われることも殆どない。しかし、混雑した待合区域に長時間滞在することがあり、感染症に罹患していることが即座に認識されることもないので、やはり、クリニックにおいても感染対策を強化する必要がある。
小児科クリニックには玩具が置かれているという特徴がある。玩具が小児患者の間で共有されれば、玩具を介した病原体の伝播が発生する。ここではカナダ小児科学会が2018年11月に公開した「小児クリニックにおける感染予防と制御」1)から玩具についての記述を抜粋して紹介する。

玩具と病原体の伝播

幼児が一緒に遊んで玩具を共有することは社会能力を発達させるが、一方、玩具を共有することは彼らの健康を脅かすことになる。実際、玩具の細菌汚染が病院やクリニック、小児ケアセンターなどで報告されており、糞便性大腸菌群やロタウイルスが病院の玩具で検出されている。クリニックにおける1件の研究によると、待合室の玩具を洗浄してから1週間以上経過してから検査したところ、大腸菌群がソフト玩具[註釈1]の90%から検出され、ハード玩具[註釈2]の13.5%から見つかった。1~2週間毎に定期的に洗浄されているハード玩具は定期的な洗浄をしていない玩具よりも細菌数は少なかったが、ソフト玩具については1~2週間前に洗浄されても、洗浄されない玩具と同程度の細菌数であった。ハード玩具は洗浄および漂白剤溶液に1時間の浸漬をすることによって、効果的に除染されたが、ソフト玩具は洗濯機で洗っても汚染が残った(但し、洗濯前に30分間の漂白剤の浸漬をすることは効果的であった)。1週間使用しても、ハード玩具は大腸菌群に汚染されることはなかったが、ソフト玩具は汚染していた。従って、ソフト玩具はクリニックの待合室では不適切であるという結論となる。
2000年に公開されたガイドラインで、米国小児科学会はクリニックでは玩具を洗浄することを推奨した2)。しかし、玩具を監視/洗浄することは極めて困難であることから、待合室から玩具を駆逐した小児科医もいた。小児科医はクリニックに玩具を持つことのリスクと有益性を比較しなければならない。玩具の製造元はプラスチック製の抗菌性玩具を販売しているが、これが玩具の微生物汚染や感染症の伝播を減少させるというエビデンスはない。また、そのような効果を支持するような理論的根拠もない。

推奨

幼児が玩具を共有することは最小限にすべきである。選択肢には下記のものがある。

  • 玩具の使用を監視して、適切に洗浄することができないならば、待合室から玩具を取り除く。
  • 小児の個人持ちの玩具を自宅からいくつか持ってくる。そして、それらを他の小児と共有しないように指導する。
  • 乳児および幼児には容易かつ頻回に洗浄できる玩具を提供する。平滑で硬い表面の玩具を選び、小片や割れ目のある玩具、縫いぐるみ、布やビロードで作られた玩具は避ける。
  • 小児がクリニックの玩具を使用することを監督し、使い終えたら指定された使用済み玩具容器に戻すように親に依頼する。使用済み玩具は洗浄するまで、他の小児が使用しないようにする。
  • 小型本、小冊子、玩具は個々に遊ぶためにデザインしたものがよい。それらは自宅に持ち帰るため、もしくは使用後に廃棄するために与えられる。

手指衛生ができ、呼吸分泌物を適切に取り扱うことができる年長小児は玩具、本、パズル、コンピューターゲームを共有してもよい。

玩具の洗浄

  • 幼児が使用した玩具は別の小児が使用する前に洗浄する。これができないならば、毎日の最後に洗浄する。体液(唾液など)に接触した玩具は洗浄されるまでは使用区域から取り除かれるべきである。1:100に希釈した漂白液での消毒、石鹸と水での洗浄を行い、空気乾燥する。食器を清潔にする食器洗浄機で玩具を洗浄してもよい。
  • 年長小児が使用した玩具、パズル、コンピューターゲームは洗浄し、汚染したら廃棄する。手指の高頻度接触面(ノブ、ボタン、ハンドル、操縦桿など)は毎日洗浄する。
  • クリニックの設備として組み込まれている玩具や頻回に触れられる大型玩具は毎日もしくは汚れたときに洗浄する。

文献

  1. Canadian Paediatric Society. Infection prevention and control in paediatric office settings.
    Paediatrics & Child Health, 2018, e176‒e190. doi: 10.1093/pch/pxy117
  2. American Academy of Pediatrics, Committee on Infectious Diseases, Committee on Practice and Ambulatory Medicine.
    Infection control in physicians’ offices. Pediatrics 2000;105:1361‒9.

[注釈1]ソフト玩具:軟らかい材料を満たした布地の玩具であり、動物などの形をしている

[注釈2]ハード玩具:プラスチックなどで作られた玩具であり、表面を洗浄剤や消毒剤でふき取ることができる。車や飛行機などの形をしている。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長