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88号 医療従事者のためのCDCポケットガイド(梅毒)
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CDCが医療従事者向けに梅毒のポケットガイドを公開しているので紹介する1)

定義

梅毒は梅毒トリポネーマ(Treponema pallidum)によって引き起こされる全身の性感染症である。

伝播

梅毒の伝播経路には性的伝播および垂直伝播の2つがある。性的伝播では下疳などの病変に直接接触することによって、膣、肛門、口腔を介してヒトからヒトに伝播する。下疳は梅毒の第1期に発生し、外生殖器や肛門の周囲、膣や肛門の中、口の中や周囲にみられる。性的伝播は第2期でもみられ、これは扁平コンジロームや粘膜斑のような粘膜病変に直接触れることによる。垂直伝播は血流を介して、感染した母親から胎児に伝播するものである。

スクリーニング

下記の人々には梅毒検査をルチーンに実施する。また、梅毒を疑わせるような症状のある人も検査する。梅毒が最近診断されたパートナーと口、肛門、膣の性行為をした人も検査する。

  • 妊婦:出産前の最初の受診時に実施する(リスクが高ければ、第3トリメスターの初めと出産時に実施する)
  • 男性と性行為をする性的に活発な男性(少なくとも毎年実施する。リスクが高ければ、もっと頻回に実施する)
  • HIV感染者で性的に活発な人(毎年、実施する)
  • 梅毒のリスクが高いその他の状況の人

第1期梅毒

感染後3週間ほど(範囲10~90日)で、1カ所もしくは複数の下疳(硬く、丸く、小さく、無痛性であるが、非典型的な病変のこともある)が曝露部位(主に生殖器)にみられる[図1]。下疳は数日から数週間で治療せずとも、消失する。この時期の患者は感染性が高く、妊婦では子宮内伝播することがある。

[図1]第1期梅毒の下疳

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第2期梅毒

皮膚粘膜病変(通常は発疹)がみられ、感染後の約6週間(範囲3週間~6ヶ月)で消えてゆく。発疹は最初は手掌もしくは足裏にみられる。体幹やその他の部位にもみられるようになる[図2]。患者の約25%で扁平コンジローム(性器の湿潤した疣様の病変)や舌の粘膜斑がみられる。その他の所見としては、リンパ節腫大や全身症状がみられる。頻度は低くなるが、むらのある脱毛症(患者の約10%)や神経症状(患者の約1~2%)がみられる。症状は治療せずとも、2~6週間以内に消失するが、消失まで3ヶ月を要することもある。この時期の患者は感染性が強い(特に、湿潤した病変に直接触れたとき)。妊婦では子宮内伝播することがある。

[図2]第2期梅毒の皮膚粘膜病変

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第3期梅毒

皮膚および骨(ゴム腫)や心臓血管系の症状がみられる。患者には感染性はない。

無症候梅毒

無症候梅毒には初感染後全く症状を呈さない場合や第1期から第2期への移行期、第2期の発疹消褪期などで症状がみられない場合がある。感染後1年以内を早期潜伏期、それ以降を晩期潜伏期という。

[早期潜伏期]
患者は感染してから1年以内に非トリポネーマ検査およびトリポネーマ検査が陽性となるが、症状はみられない。子宮内伝播は梅毒の如何なるステージであっても発生しうるが、早期潜伏期で最も伝播しやすい。
[晩期潜伏期もしくは感染時期不明の潜伏期]
感染後1年以上経過するか、感染した時期が不明な患者で非トリポネーマ検査およびトリポネーマ検査が陽性である。症状はみられない。晩期潜伏期の患者には感染性はない。感染時期が不明の潜伏期であっても、1年以内に感染したならば、感染性がある。

神経梅毒

神経梅毒は梅毒のどのステージであっても発生しうる。T.pallidumは感染後数時間以内で神経系に感染するが、症状がみられるまで、数週間から数年間を要する。神経学的、眼科的、聴能学的な症状のある梅毒患者には神経学的検査を行って、髄液を評価する。梅毒についてハイリスクの患者が神経学的症状を呈していたら、梅毒およびHIVの検査をおこなう。

[早期神経梅毒]
早期神経梅毒は感染後数週間~数年間でみられる。典型的な症状は髄膜炎および髄膜血管梅毒であり、前者では脳神経(特に、VI, VII ,VIII)に影響し、後者では脳卒中様症状を呈する。
[晩期神経梅毒]
晩期神経梅毒は感染後10~30年でみられる。症状には進行性麻痺(慢性髄膜脳炎で痴呆、筋肉低下、麻痺となる)や脊髄癆(脊髄の後索の脱髄)がある。

眼梅毒

眼梅毒は梅毒のいかなるステージでも発生する。視覚的な訴えとしては、視力喪失、ぼんやりとした視覚、眼痛、眼の発赤などである。性感染症についてハイリスクの患者で眼症状がみられれば、梅毒およびHIVを検査する。眼症状のある梅毒患者には神経学的検査および眼科的評価をおこない、髄液を評価する。眼梅毒の治療は遅れてはならない。検査結果を待つことは重篤な結末となり、永久失明となることがある。

先天梅毒

すべての妊婦には出産前の最初の受診時に梅毒検査を実施する。梅毒のリスクが高ければ、もしくは、梅毒の割合の高いコミュニティーで生活しているならば、第3トリメスター(28週)の初めと出産時に追加検査する。
梅毒と診断された妊婦はペニシリンを用いて迅速に治療する。出産前に30日以上の治療をすれば、先天梅毒の殆どを防ぐことができる。しかし、治療開始の時点で超音波によって梅毒と診断された重症感染の胎児では死産や先天梅毒は防げない。死産児(20週以降)を出産した女性のすべてに梅毒検査をする。

診断

病変の浸出液や組織からT.pallidumを直接検出するためのDarkfield検査や他の検査(PCRなど)は早期梅毒および先天梅毒の診断のための絶対的標準法であるが、殆どの現場では実施できない。予測診断には非トリポネーマ検査(VDRL、RPRなど)およびトリポネーマ検査(FTA-ABS、TP-PA、EIA、化学発光免疫アッセイ、イムノブロットなど)の2つの血清学的検査がある。非トリポネーマ検査が陽性の人は梅毒の推定診断を確定するためにトリポネーマ検査を実施する。

注意:第1期梅毒では、非トリポネーマ検査の感度は僅か75%である。
注意:第1期および第2期梅毒では、前地帯効果(prozone effect)がありうる。これは高い抗体価が抗体/抗原の結合物の格子形成を阻害することによって、RPRが偽陰性となる現象である。

文献

  1. CDC. Syphilis. Pocket guide for providers
    https://www.cdc.gov/std/syphilis/Syphilis-Pocket-Guide-FINAL-508.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長