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90号 麻疹のアウトブレイク
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米国ワシントン州で麻疹のアウトブレイクが発生した。そのときの対応の状況がCDCの週報に記載されていたので紹介する1)

麻疹の発端症例と拡大の状況

2018年12月31日、ワシントン州のクラーク郡保健所(CCPH: Clark County Public Health)はウクライナから最近到着した10歳のワクチン未接種の小児で麻疹が疑われるとの連絡を受けた。患者は発熱、咳、斑状丘疹状皮疹にて救急医療外来に受診した。CCPHは症例調査に乗り出し、接触者追跡を実施し、検体採取とワシントン州保健所検査室への輸送を促した。2019年1月3日、麻疹ウイルスがRTPCRにて患者の尿および鼻咽頭の検体から検出された。
1月11日~14日の期間にCCPHに報告された麻疹疑いの12人の患者のうち、全員が1月16日までに、麻疹がRT-PCRにて検査確定した。これらの確定例および追加の疑い例に対応するために、1月15日にCCPHのインシデント管理チームが立ち上げられた。約200人が複数の機関での対応に参加し、それにはCCPH、ワシントン州保健所およびCDCが含まれた。2019年3月28日現在、クラーク郡の住民71人で麻疹が確定しており、発疹の発現は2018年12月30日~2019年3月13日であった。

調査の状況

麻疹が疑われる人は患者インタビュー、電子カルテのレビュー、医療従事者へのコンサルテーションを介して調査された。そして、推奨に従って検体が採取された。麻疹の流行を周知するために、地域のプロバイダー勧告が発行され、市民の大規模な曝露を知らせるために新聞発表がなされた。アウトブレイク制御には曝露者の同定および彼らの麻疹免疫の推定評価、免疫の推定エビデンスが欠如している人へのワクチン接種の推奨、麻疹・ムンプス・風しんワクチンの曝露後予防の実施、必要な人への免疫グロブリンの投与、社会的隔離戦略(患者の隔離、免疫の推定エビデンスのない曝露者の自宅クアランティンなど)が含まれる。

調査の結果

麻疹が確定した71人のうち、41人が検査での確定症例であり、30人が確定例に疫学的に関連した症例であった。年齢は1~39歳(中央値=8歳)であり、52人(73%)が10歳未満であった。61人(86%)はワクチン未接種であり、3人(4%)は麻疹・ムンプス・風しんワクチンの1回接種が麻疹曝露前に実施されていた。7人(10%)で接種歴が不明であった。18件の検体すべてから遺伝子型D8(現在、欧州東部で流行している)が同定された。2019年3月13日以降は新規の確定例は同定されていない。
クラーク郡の健康施設、職場、教会、学校、小児ケアセンター、懇親会や自宅における46件の曝露から、71人の患者の約3800人の接触者が同定された。これらの接触のうち、22%が麻疹免疫の受容可能な推定エビデンス[註釈]が欠如していた。

曝露した場所

自宅および教会が伝播の主な場所であり、それぞれ、71人の患者のうち36人(51%)と18人(25%)が発生している[図]。アウトブレイクの最初の4週間は、公衆曝露(教会、学校、小児ケアセンターなど)が最も多く発生し、CCPHが推奨したアウトブレイク制御法が市中に広く実施されてからは減少していった。2月1日以降に同定された30人の患者のうち、26人(87%)がクアランティンおよび積極的監視下の接触者である。このような効果的な社会隔離戦略の実施によって公衆曝露が減少した。

図 伝播の状況および発疹の発現日別の麻疹症例数(N=71)ーワシントン州クラーク郡、2018年12月~2019年3月

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ワクチン接種率

2011年以降、クラーク郡は麻疹アウトブレイクを経験していなかった(2011年は3人の確定症例がいた)。2013年以降のクラーク郡のワクチン接種率は州の平均(88%)よりも、10~14%低くなっている。

全米の麻疹アウトブレイクの状況

現在、米国では互いに関連しない麻疹アウトブレイクが同時に発生している。2019年5月10日までで、全米23州から839人の麻疹症例が報告されている。これは2000年(米国が麻疹排除を宣言した年)以降、同時期に毎年報告されている症例数を上回っている。現在の米国で発生しているアウトブレイクは「麻疹ワクチンの2回接種のカバー率を95%以上にする」「米国および世界の麻疹の曝露のリスクが増加している時代では迅速な公衆衛生対応が重要である」を強調している。

文献

  1. Carlson, et al. Community outbreak of measles ̶ Clark County, Washington, 2018‒2019
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/68/wr/pdfs/mm6819a5-H.pdf

[註釈]麻疹免疫の受容可能な推定エビデンスには年齢に応じた接種の文書記録、免疫の検査エビデンス、疾患の検査確定、1957年以前の誕生が含まれる。

矢野 邦夫

浜松医療センター 副院長
兼 感染症内科長
兼 衛生管理室長