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104号 外来のCOVID-19患者が通常の健康状態に戻るまで
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これまでのほとんどの研究は、重症のCOVID-19で入院した成人患者での症状の持続期間と臨床転帰に焦点を当ててきた。しかし、外来患者でさえ、症状が消失して通常の健康状態に戻るまでに数週間かかる可能性があることが示された。CDCがその詳細を週報(MMWR)に報告しているので紹介する1)

調査

2020年4月15日~6月25日に、SARS-CoV-2のPCRが初めて陽性となった18歳以上の成人を対象に無作為に電話インタビューが実施された。インタビューは検査日から14~21日後に行われた。質問内容は「人口統計学的特性」「慢性疾患の有無」「検査時の症状」「それらの症状がインタビューの日までに消失したか?」「インタビュー時に通常の健康状態に戻ったか?」であった。

回答者

  • インタビューは582人の患者(救急部で検査された175人[30%]および救急部以外で検査された407人[70%]を含む)に対して実施され、325人(56%)のインタビューが完了した(救急部89人[27%]および救急部以外236人[73%])。257人の非回答者のうち、178人は連絡が取れず、37人はコールバックを要求したが、それ以上電話をかけても連絡が取れなかった。28人はインタビューを拒否し、14人は言語の壁があった。
  • インタビューが完了した325人のうち、31人が除外された。それは、9人(3%)は代理人が回答したためであり、17人(5%)は過去に検査が陽性であったためである。そして、5人(2%)が回答しなかった。さらに、2人は7日目での時期尚早のインタビューであったため、除外された。
  • 残りの292人の回答者のうち、274人(94%)が検査時に1つ以上の症状を報告したため、このデータ分析に含まれた。利用可能なデータのある264人のうち141人(53%)は、1つ以上の慢性疾患を持っていた。
  • 検査日からインタビュー日までの日数の中央値は16日(四分位範囲[IQR]=14~19日)であった。回答者が検査前に気分が悪かったと報告した日数の中央値は3日(IQR=2~7日)であった。症候性回答者の年齢の中央値は42.5歳(IQR=31~54歳)であり、142人(52%)は女性であった。外来での検査後、7%(利用可能なデータを含む262人のうち19人)は後になって入院した。それは、検査日から中央値で3.5日目(中央値)であった。

調査結果

  • 通常の健康状態への回復に関する利用可能なデータのある274人中270人のインタビュー対象者のうち、175人(65%)は、検査日から中央値7日間(IQR=5~12日)で通常の健康状態に戻った。しかし、95人(35%)は、インタビュー時にも通常の健康状態に戻っていなかった。
  • 通常の健康状態に戻らなかった割合は年齢層によって異なった。18~34歳のインタビュー対象者の26%、35~49歳の32%、50歳以上の47%が、陽性の検査結果を受け取ってから14~21日以内に通常の状態に戻っていない。
  • 慢性疾患の存在も健康回復率に影響を及ぼした。慢性疾患がまったくないか1つある180人、慢性疾患が2つある39人、慢性疾患が3つ以上ある44人は、検査が陽性になった後14~21日以内に、それぞれ、28%、46%、57%が通常の健康状態に戻っていないと報告した。また、18~34歳の慢性疾患のない回答者のうち、19%(48人中9人)は、通常の健康状態に戻っていないと報告している。
  • 「年齢:50歳以上vs18‒34歳(調整オッズ比[aOR]=2.29)」および「慢性疾患:3つ以上vs無し(aOR=2.29)」は通常の健康状態に戻っていないことに関連した。肥満(ボディマスインデックス≥30kg/m2)(aOR=2.31)および精神状態(aOR=2.32)も通常の健康状態に戻らないオッズを2倍以上にしていた。

症状の消失と持続期間

  • 274人の症候性外来患者の症状では、倦怠感(71%)、咳(61%)、頭痛(61%)が最も多かった[図1]。検査日に発熱と悪寒を報告した回答者のそれぞれ97%と96%で症状が消失した。
  • 消失する可能性が最も少ない症状は、咳(43%[71人/166人]が消失しなかった)および倦怠感(35%[68人/192人]が消失しなかった)であった。検査時に息切れを報告した90人のうち26人(29%)で消失しなかった。。
  • 検査時には症状がみられたが、インタビュー時には消失した患者では、症状の消失までの日数(中央値)は、検査日から4~8日であった。日数が最も長かったのは嗅覚喪失(中央値=8日)および味覚喪失(中央値=8日)であった。

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考察

この調査では、回答者の約3分の1が、検査してから2~3週間以内には通常の健康状態に戻らなかった。18~34歳の慢性疾患のない若年成人でさえ、約5人に1人が検査日の14~21日後であっても通常の健康状態に戻っていなかった[図2]。これとは対照的に、インフルエンザの外来患者の90%以上は、陽性の検査結果が得られてから約2週間以内に回復している。
慢性疾患のない若年成人でも回復まで長期化する可能性があり、それは潜在的に仕事、研究、その他の活動を長期間、欠席する可能性がある。「COVID-19は重症化または長期化する可能性がある感染症である」ということを認識していない人々を対象として、公衆衛生のメッセージを流す必要がある。それには若年成人や慢性疾患のない人も含まれる。SARS-CoV-2の伝播を遅らせるために、社会的距離、頻回の手洗い、マスクを常時かつ適切に使用するなどの予防策を強く推奨する必要がある。

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文献

  1. Tenforde MW, et al. Symptom duration and risk factors for delayed return to usual health among outpatients with COVID-19 in a Multistate Health Care Systems Network ̶ United States, March‒June 2020
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6930e1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター院長補佐
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長