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108号 結婚披露宴とCOVID-19アウトブレイク
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2020年8月7日~9月14日、メイン州疾病管理予防センターはメイン州の農村部で55人が参加した結婚披露宴に関連したCOVID-19のアウトブレイクを調査した1)。地域社会でのアウトブレイクに加えて、二次および三次感染により、100マイル(160km)離れた介護施設と約200マイル(320km)離れた矯正施設でアウトブレイクが発生した[図1]。全体として、177人のCOVID-19症例が疫学的に結婚披露宴に関連しており、それには入院7人と死亡7人が含まれた[図2]。調査により、CDCが推奨する感染対策の非遵守が明らかになった。
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発端

2020年8月12日、メイン州疾病管理予防センターは、鼻咽頭スワブ検体でPCR陽性となった2人の報告を受け取った。2人とも8月7日に結婚披露宴に出席していた。さらに、3人が同じ結婚披露宴に出席しており、翌日PCRが陽性となった。これによって8月14日にアウトブレイク調査が開始となった。

定義

確定例は「PCR陽性の症例」と定義され、可能性例は「臨床検査は実施していないが、COVID-19に一致した症状みられ、かつ、確定例に疫学的に関連する症例」と定義された。濃厚接触者は「COVID-19患者から少なくとも15分間6フィート(1.8m)以内にいた人」と定義された。また、アウトブレイクは「単一の施設またはイベントに疫学的に関連し、異なる世帯で14日以内に3件以上の確定例が発生した場合」と定義した。一次症例は「結婚披露宴の出席者での確定例または可能性例」と定義された。接触者調査を通じて、二次症例と三次症例(それぞれ一次症例と二次症例の濃厚接触者)が特定された。

結婚披露宴

8月7日にメイン州農村部の町で結婚披露宴が開催され、55人が出席した。この町の総人口は約4,500人で、これまでにCOVID-19患者の報告はなかった。発端患者はメイン州在住の結婚披露宴のゲストで、8月8日に発熱、鼻水、咳、倦怠感がみられ、8月13日にPCR陽性となった。8月8~14日、PCR陽性となった24人が結婚披露宴に参加していたと報告したため、施設の調査が実施された。
結婚披露宴は、レストランと、イベントルーム、朝食ルーム、バー、オープンデッキを含む4つのダイニングエリアのある宿泊施設で開催された。ゲストは10テーブルあるイベントルームに入り、各テーブルの周りに4~6人が着席した。施設のスタッフは、施設の入り口でゲストの体温チェックを実施したが、これらは正常として報告された。施設の入り口には、訪問者はマスクを着用するように指示する標識が貼られていたが、ゲストはこの指示を遵守せず、6フィート(1.8m)以上の身体的距離を保たなかった。ただし、スタッフ全員がマスクを着用していた。

結婚披露宴でのアウトブレイク

8月20日までに、30人の一次症例が特定された。結婚式のゲスト55人のうち27人(49.1%)で感染が確認された。その他の3人の一次症例は、会場のスタッフ、売り子、会場での常連客(結婚式のゲストではない)で発生した。
スタッフ30人のうち23人(76.7%)がPCR陰性であり、5人(16.7%)が検査なしで自己検疫し、2人(6.7%)がPCR陽性であった(一次症例1人、二次症例1人)。その後、さらに二次症例17人と三次症例10人が特定された。入院した4人のうち1人が死亡した。入院患者は全員が75歳以上であり、基礎疾患を持っていたが、結婚式のゲストではなかった。
結婚披露宴に出席したCOVID-19患者(患者A1)は、8月10日に咳がみられたが、同日に対面式の学校の会合に出席した。その後、2人の学校職員が8月14日と17日にCOVID-19の診断を受けた。

長期ケア施設でのアウトブレイク

結婚披露宴の後、8月8日および9日にゲストの1人(患者A2)は、長期ケア施設の医療従事者である患者B1(A2の親)と濃厚接触した。患者B1は、8月11日に発熱、寒気、咳、筋痛、鼻水、頭痛がみられたが、8月11日と12日に勤務した。患者B1は8月13日にPCR検査を受け、8月18日に陽性の結果を受け取った。8月19日、長期ケア施設のすべての居住者とスタッフにPCRが実施され、さらに5症例(居住者4人とスタッフ1人)が特定された。8月19日から9月11日に、この長期ケア施設で38人の追加症例が特定された。その内訳は、スタッフ76人のうち14人(18.4%)と居住者44人のうち24人(54.5%)であった。6人が死亡したが、すべての死亡者は60歳以上であり、基礎疾患を持っていた。

矯正施設でのアウトブレイク

1人の結婚式のゲスト(患者A3)は矯正施設のスタッフであり、8月14日に咳、筋肉痛、鼻水、咽頭痛、味覚喪失となった。8月15日~19日の期間、患者A3は、症状がみられているにもかかわらず、2つの異なる矯正施設の収容棟で毎日8時間交代で勤務した。8月19日、患者A3を含めた4人のスタッフがCOVID-19の確定診断を受けたため、この施設での調査が開始された。9月1日までに、さらに18人のスタッフと46人の収監者が、PCR陽性となった。
結局、患者A3に加えて、矯正施設で82人のCOVID-19症例が特定された。これには、スタッフ43人のうち18人(41.9%)、収監者116人のうち48人(41.4%)、およびスタッフの家庭内接触者16人が含まれた。ほとんどの患者は男性であり、30~59歳(76%)であった。

結語

大規模集会は、COVID-19を拡散する危険性があり、超拡散事例(superspreading event)が発生することがある。それによって、爆発的な感染拡大とそれに続く持続的な伝播が引き起こされる。大規模な集会を避け、身体的距離を保ち、手指衛生を実践し、公共の場所でマスクを着用し、発病時には外出を控えるによって、家族、友人、そして一般の人々を守る必要がある。

文献

  1. Mahale P, et al. Multiple COVID-19 outbreaks linked to a wedding reception in rural Maine ̶ August 7‒September 14, 2020
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6945a5-H.pdf

矢野 邦夫

浜松医療センター院長補佐
兼 感染症内科部長
兼 衛生管理室長