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117号 SARS-CoV-2感染既往のある人にもCOVID-19ワクチンを接種すべきである
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SARS-CoV-2に感染しても、再感染することがある。一方、COVID-19ワクチン接種後の抗体反応は自然感染よりも、変異株を中和できることを示している実験室でのエビデンスがある。そのため、感染既往のある人々にCOVID-19ワクチンを接種することによって、再感染を防ぐことができるかもしれない。これについて、CDCが興味深い報告をしているので紹介する1)

対象と定義

  • 2020年3月から12月にケンタッキー州の国立電子疾病監視システムに報告された、核酸増幅検査(NAAT :nucleic acid amplification test)または抗原検査が陽性であることによって確認されているSARS-CoV-2感染のケンタッキー州の居住者(18歳以上)が対象となった。
  • 症例患者は、2020年にSARS-CoV-2感染が検査確認され、その後、2021年5月1日から6月30日にNAATもしくは抗原検査が陽性となったケンタッキー州の住民と定義した。
  • 対照患者は、2020年にSARS-CoV-2感染が検査確認され、2021年6月30日まで再感染しなかったケンタッキー州の住民と定義した。
  • 対照患者については、マッチされた症例患者の再感染日を使用して、同じ定義が適用された。
  • Janssen(Johnson&Johnson)の単回接種もしくはmRNAワクチン(Pfizer-BioNTechまたはModerna)の2回目接種が、再感染日の14日以上前に行われた場合、症例患者は「ワクチン完全接種者」と見なされた。
  • 1回以上のワクチンが接種されたが、一連のワクチン接種が完了していないか、症例患者の再感染日の14日未満に最終接種を受けた場合、「ワクチン部分接種者」と定義された。

結果

    • 全体として、246人の症例患者が適格性要件を満たし、年齢、性別、最初の感染日によって、492人の対照患者が一致できた。解析に含まれる集団のうち、60.6%が女性であり、204人(82.9%)の症例患者が2020年10月から12月の期間に最初の感染を経験した。対照患者の34.3%と比較して、症例患者では20.3%がワクチン完全接種者であった(表)。
    • ワクチン完全接種者と比較して、ワクチン未接種者の再感染のオッズは2.34倍(オッズ比[OR] = 2.34; 95%信頼区間[CI] = 1.58‒3.47)であった。
SARS-CoV-2再感染*とCOVID-19ワクチン接種状況との関連―ケンタッキー州、2021年5月~6月

考察

  • この研究では、2020年にSARS-CoV-2に感染したことのあるケンタッキー州の住民の中で、COVID-19のワクチン接種を受けていない人は、2021年5月と6月に再感染する可能性が大幅に高いことが示された。
  • この研究結果は「過去のSARS-CoV-2感染の有無に関係なく、すべてのワクチン適格者にはCOVID-19ワクチンを接種する」というCDCの推奨を支持している。
  • 自然感染による免疫の持続時間は、殆どの人において90日以上持続すると推測されている。新しい変異株の出現は自然感染によって獲得された免疫の期間に影響を与える可能性がある。実験室での研究によると、感染既往のある人からの血清がいくつかの「懸念すべき変異株(VOC:variants of concern)」に対して、弱いもしくは一貫性のない反応を示す可能性が示されている。
  • 最近の実験室での研究では、ワクチン接種前に感染したことのある人から得られた血清は、初期の武漢株(Wuhan-Hu-1)と比較した場合、B.1.351(ベータ)変異株に対する中和反応が比較的弱く、場合によっては存在しないことが明らかになった。一方、ワクチン接種後の同じ人の血清は、ベータ変異株に対して高い中和反応を示しており、このことは、ワクチン接種が、感染既往のある人が過去に曝露していない変異株に対してさえ免疫応答を増強することを示唆している。
  • これらの実験室のエビデンスは、ワクチン接種がSARS-CoV-2変異株に対して、良好な中和能を提供することを示唆している。これまでのリアルワールドでのエビデンスもまた、ワクチン接種によって感染既往のある人を守ることができるという調査結果を裏付けている。
  • この研究の結果は、感染既往のある人々において、ワクチン完全接種者では再感染の可能性が低下しており、逆に、ワクチン接種を受けていないことは再感染の可能性が高いことを示唆している。
  • ワクチン未接種者と比較してワクチン部分接種者での再感染のオッズが低いことは、ワクチンの予防効果を示唆しており、感染既往のある人での初回のmRNAワクチン接種後の力価が高いことを示す過去の研究結果と一致している。

結語

これらの研究結果は、過去にSARS-CoV-2に感染した人々へのワクチン完全接種は再感染を防ぐことを示している。ワクチン未接種者は、ワクチン完全接種者と比較して、再感染する可能性が2倍以上であった。将来の感染のリスクを減らすために、過去にSARS-CoV-2に感染した人を含め、すべてのワクチン適格者には接種する必要がある。

文献

  1. Cavanaugh AM, et. Reduced risk of reinfection with SARS-CoV-2 after COVID-19 vaccination̶ Kentucky, May‒June 2021
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7032e1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問