ケンエーIC News

120号 COVID-19による12歳以上の感染、救急外来受診、入院に対するワクチンの影響
PDFファイルで見る
デルタ株の流行期間において、COVID-19ワクチンが12歳以上の感染、救急外来受診、入院に対して、どの程度の有効性があったかをCDCが調査した1 )。その要点を紹介する。

調査

  • オレゴン州とワシントン州でSARS-CoV-2感染のサーベイランスが実施された。サーベイランス期間は2021年7月4日から9月25日であり、保険登録されている12歳以上が含まれた。
  • SARS-CoV-2感染は、症候性または無症候性の人への核酸増幅検査(NAAT)の結果から特定された。
  • 「ワクチン完全接種者」はNAATの14日以上前にmRNAワクチン(Pfizer-BioNTechもしくはModerna)の2回以上の接種者、もしくはJanssen(Johnson&Johnson)ワクチンの1回の接種者と定義された。
  • 「ワクチン部分接種者」はPfizer-BioNTechまたはModernaワクチンの1回接種のみ、または2回目の接種から14日未満、またはJanssenワクチンの接種から14日未満の人と定義された。これらの人々は調査から除外された。
  • 「ワクチン未接種者」は、2021年9月25日までにCOVID-19ワクチン接種の記録がなかった人とした。
  • 「SARS-CoV-2感染の発生率」は、検査結果が陽性の人の数を、ワクチン完全接種者とワクチン未接種者の数で割ることによって計算された。
  • 「粗死亡率」は、SARS-CoV-2感染者の死亡数をワクチン完全接種者とワクチン未接種者の数で割ることによって計算された。

結果

  • サーベイランス期間中に特定された482,464人の適格者のうち、137,616人(28.5%)がワクチン未接種者であり、344,848人(71.5%)がワクチン完全接種者であった。
  • ワクチン製剤の内訳は、Pfizer-BioNTechが66.5%、Modernaが27.8%、Janssenが5.8%であった。
  • サーベイランス期間中に、SARS-CoV-2感染がみられたのは、ワクチン未接種者137,616人のうち4,146人(1,000人あたり30.1人)、ワクチン完全接種者344,848人のうち3,009人(1,000人あたり8.7人)であった。ワクチン未接種者での発生率はワクチン接種者の少なくとも3倍であった(図)。
  • SARS-CoV-2感染の発生率はワクチン製剤によって異なった。発生率が最も高かったのはJanssen(1,000人あたり15.3人)であり、次にPfizer-BioNTech(1,000人あたり9.1人)が続いた。最も低い発生率はModernaであった。
  • SARS-CoV-2に感染したワクチン未接種者の18.5%が救急外来を受診し、9.0%が入院したが、それはワクチン接種患者(それぞれ8.1%と3.9%)の2倍以上であった。
  • ワクチン未接種者の粗死亡率(1,000人あたり0.43)は、ワクチン完全接種者の粗死亡率(1,000人あたり0.06)の7倍であった。
  • COVID-19による入院は、ワクチン完全接種された青年および若年成人では稀であった。
  • ワクチン完全接種者の入院の72%が65歳以上(年齢中央値=72歳)であり、入院したワクチン接種者の89%が医学的状態の基礎疾患を少なくとも1つ有していた。そして、15%はICU入院を必要とし、21人(21%)が死亡した。
  • これとは対照的に、ワクチン未接種者での入院は均等に年齢層間に分散され、33%が65歳以上(年齢中央値=57歳)であった。そして、63%は少なくとも1つの基礎疾患を持っており、27%はICU入院を必要とし、58人(17%)が死亡した。
  • 死亡年齢の中央値は、ワクチン完全接種の患者では78歳(範囲=54~94歳)、ワクチン未接種の患者では68歳(範囲=37~100歳)であった。
COVID-19ワクチンは感染と重症疾患を防ぐ 大規模な医療システムでの12歳以上の患者での研究

考察

  • デルタ株の流行前は、ワクチン完全接種者では救急医療や入院を必要とする症候性COVID-19は稀であった。
  • デルタ株の流行期間中のワクチン完全接種者でのSARS-CoV-2感染の発生率は、ワクチン未接種者の約3分の1であった。救急外来受診または入院についても、ワクチン完全接種者はワクチン未接種者の半分であった。
  • 入院患者では、ワクチンを接種した患者はワクチン未接種の患者よりも高齢であり、高い割合で少なくとも1つの基礎疾患があった。
  • ワクチン完全接種者のCOVID-19関連の粗死亡率は、ワクチン未接種者よりも7倍低かった。

まとめ

デルタ株の流行期間では、SARS-CoV-2感染の発生率は、ワクチン未接種者と比較して、ワクチン完全接種者の方が低く、救急外来受診、入院、死亡につながる可能性が低かった。これらのデータは、デルタ株によって引き起こされる病気や入院を含む重度のCOVID-19から身を守るために、COVID-19ワクチン接種(追加接種およびブースター接種を含む)に関するCDCの推奨事項を支持している。CDCは現在、COVID-19を防ぎ、伝播を減らすために、5歳以上の接種を推奨している。

文献

  1. Naleway AL, et al. Incidence of SARS-CoV-2 Infection, Emergency Department Visits, and Hospitalizations Because of COVID-19 Among Persons Aged ≥ 12 Years, by COVID-19 Vaccination Status̶Oregon and Washington, July 4‒September 25, 2021
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7046a4-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問