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123号 オミクロン株とワクチンの有効性
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オミクロン株が流行しているが、最近の研究によると、デルタ株と比較して重症化することが少ないことが示唆されている。しかし、多数の人々が感染することにより、これまでの流行波よりも医療システムに負担がかかっている。米国ロサンゼルス郡において、2021年11月7日から2022年1月8日の期間におけるワクチンの有効性について調査され、その結果がCDCのMMWR(週報)に記載されているので、そのポイントを紹介する1)

 

調査

  • 2021年11月7日から2022年1月8日までの期間に、SARS-CoV-2感染(核酸増幅または抗原検査によってSARS-CoV-2陽性が確認された)の18歳以上のロサンゼルス郡居住者の横断研究(註釈:ある特定の対象に対して、疾患や障害における評価や介入効果などを、ある一時点において測定し、検討を行う研究)を実施した。
  • ファイザー、モデルナ、ヤンセン(ジョンソン&ジョンソン)の一次シリーズの最終接種後14日以上経過した人を「ワクチン完全接種者」とした。一次シリーズの初回接種から14日未満の人、もしくは、接種記録のない人は「ワクチン未接種者」とした。
  • ワクチン完全接種者がブースター接種してから14日以上経過すれば、「ワクチン完全接種者(ブースターあり)」とした。
  • 「ワクチン部分接種者」(2回接種シリーズの初回接種から14日を経過したものの、2回目が接種されていない人、もしくは、2回目接種からの経過日数が14日未満の人)での感染はサンプルサイズが小さいため除外された。
  • 「COVID-19関連入院」は、SARS-CoV-2検査結果の陽性から14日以内に発生した入院として定義された。

変異株の流行状況

  • 2021年8月中旬から2021年11月にオミクロン株が出現するまで、ロサンゼルス郡居住者のSARS-CoV-2感染のほぼ100%がデルタ株によって引き起こされた。
  • ロサンゼルス郡で最も早く知られたオミクロン株の感染は、2021年11月の最終週に採取された標本で確認された。
  • オミクロン株は12月18日までの週にはロサンゼルス郡のSARS-CoV-2の優勢変異株となり、シーケンスされたすべての検体の57%を占めるようになった。そして、オミクロン株は増加し続け、2022年1月8日までの週のすべてのシーケンスされた検体の99%を占めるようになった。

全調査期間の状況

  • 2021年11月7日から2022年1月8日までの18歳以上のロサンゼルス郡居住者で報告されたSARS-CoV-2感染422,966件のうち、141,928人(33.6%)がワクチン未接種者であり、56,185人(13.3%)がワクチン完全接種者(ブースター接種あり)、224,853人(53.2%)がワクチン完全接種者(ブースター接種なし)であった。
  • ワクチン未接種者は入院する可能性が最も高く(2.8%)、ICUに入院し(0.5%)、人工呼吸のために挿管が必要であった(0.2%)。この割合は、ワクチン完全接種者(ブースター接種あり)では、それぞれ0.7%、0.08%、0.03%と少なく、ワクチン完全接種者(ブースター接種なし)では1.0%、0.12%、0.05%であった(p<0.001)。
  • 死亡者の割合についても、ワクチン完全接種者(ブースター接種あり)では0.07%、ワクチン完全接種者(ブースター接種なし)では0.08%であったが、ワクチン未接種者では0.3%と高かった(p<0.001)。
  • オミクロン株が優勢になるにつれて、年齢調整された発生率と入院率は、デルタ株の優勢期間中の率と比較して、ワクチン接種の状態に関係なく、すべての集団で増加した[図1]。

デルタ株の流行期の状況

  • デルタ株が優勢であった最後の週(12月11日までの週)までの14日間では、ワクチン未接種者の発生率と入院率は、ワクチン完全接種者(ブースター接種あり)の12.3倍と83.0倍であり、ワクチン完全接種者(ブースター接種なし)の3.8倍と12.9倍であった[図2]。

オミクロン株の流行期の状況

  • 2022年1月8日の時点で、年齢調整後の14日間のワクチン未接種者の感染率と入院率はワクチン完全接種者(ブースター接種あり)の3.6倍と23.0倍、ワクチン完全接種者(ブースター接種なし)の2.0倍と5.3倍であった[図2]。
図1.ワクチン接種状況別の年齢調整済み14日間SARS-Co-V-2累積発生率*(A)および入院率(B)-カリフォルニア州ロサンゼルス郡、2021年11月7日~2022年1月8日 図2.ワクチン接種状況別の年齢調整済み14日間SAES-CoV-2関連発声比*(A)および入院率比(B)-カリフォルニア州ロサンゼルス郡、2021年11月7日~2022年1月8日

考察

  • オミクロン株の流行によって、ブースター接種の有無にかかわらずワクチン接種者に比較したワクチン未接種者の発生率と入院率の比率が低下した。
  • 発生率と入院率は、デルタ株が優勢であった週と比較して、オミクロン株が優勢な週の方が高かった。しかし、率比は特にワクチン完全接種者(ブースター接種あり)で、デルタ株と比較してオミクロン株では減少したものの、重症化に対するワクチンの継続的な効果を示した。
  • 優勢な変異株に関係なく、すべての発生率と入院率の率比は1を超えた。これは、ワクチン未接種者のリスクが一貫して最も高く、COVID-19ワクチンがワクチン完全接種者のSARS-CoV-2感染とCOVID-19関連入院を予防し、ワクチン完全接種者(ブースター接種あり)で最も保護的であることを示している。
  • オミクロン株の場合、病気の重症度は低いが、感染者が急速に増加すると、多数の入院が発生する。これは、人員不足と燃え尽き症候群を引き起こし、医療部門に負担をかける可能性がある。COVID-19ワクチン接種の状況を最新に保つことは、医療施設への負担を軽減するための重要な要素である。

文献

  1. Danza P, et al. SARS-CoV-2 Infection and Hospitalization Among Adults Aged ≧18 Years,
    by Vaccination Status, Before and During SARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Variant Predominance
    – Los Angeles County, California, November 7, 2021-January 8, 2022
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7105e1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問