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125号 COVID-19関連の侵襲的人工呼吸や死亡に対してのmRNAワクチンの有効性
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COVID-19患者の一部は重症化し、侵襲的人工呼吸が必要になったり、死亡することがある。そのような事態を避けるためにもワクチンを接種するのであるが、その有効性についてのデータは限定的である。CDCが週報(MMWR: Morbidity and Mortality Weekly Report )において興味深い報告を提示しているので紹介する1)

研究

  • COVID-19 mRNAワクチンは、COVID-19関連入院を防ぐのに効果的である。しかし、mRNAワクチンが最も深刻な結末(侵襲的人工呼吸や死亡を含む)をどの程度、防いでくれるかは不明である。
  • ケースコントロールデザインを使用して、2021年3月11日から2022年1月24日までの期間に、21の米国の医療センターに入院した18歳以上の成人を対象として、COVID-19関連の侵襲的人工呼吸および院内死亡に対するmRNAワクチン有効性(VE : vaccine effectiveness)を評価した。この期間中、最も多く流行していたSARS-CoV-2の変異株は、B.1.1.7(アルファ株)、B.1.617.2(デルタ株)、B.1.1.529(オミクロン株)であった。
  • 入院から28日以内に侵襲的人工呼吸または死亡したCOVID-19症例患者(前向きに登録された)におけるワクチン接種歴(発病前の2または3回接種 vs 未接種)を、COVID-19のない入院対照患者のワクチン接種歴と比較した。
  • 侵襲的人工呼吸または死亡した1,440人のCOVID-19症例患者のうち、307人(21%)が発病前に2回または3回のワクチン接種を受けていた。
  • 6,104人の対照患者のうち、4,020人(66%)が2回または3回のワクチン接種を受けていた。
  • 侵襲的人工呼吸または死亡した1,440人の症例患者のうち、ワクチン接種済の症例患者はワクチン未接種の症例患者と比較して、年齢が高く(年齢中央値= 69歳 vs 55歳)、免疫不全[註釈](40% vs 10%)である可能性が高く、慢性的な病状を示していた。
  • 侵襲的人工呼吸または院内死亡に対するVEは全体で90%(95%CI = 88%‒91%)であり、2回接種で88%(95%CI = 86%‒90%)、3回接種で94%(95%CI = 88%‒97%)、オミクロン株が優勢な期間中の3回接種では94%(95%CI = 91)であった[図]。

図. オミクロン株の流行期であっても、COVID-19 mRNAワクチンはCOVID-19の重症化の殆どを防ぐ

考察

  • 病院ネットワーク(複数の州)からの重症COVID-19に関するデータの分析では、COVID-19 mRNAワクチンを2回または3回接種すると、成人のCOVID-19関連の侵襲的人工呼吸または院内死亡に対する防御が90%得られることが判明した。
  • COVID-19関連の侵襲的人工呼吸または院内死亡した殆どのワクチン接種患者は、高齢であるか、複雑な基礎疾患があり、一般的には免疫抑制状態であった。
  • 侵襲的人工呼吸または死亡に対する防御は、デルタ株およびオミクロン株の流行期間を通じて一貫しており、3回目のワクチンを接種した成人でより高かった(オミクロン株の流行期間中の94%を含む)。
  • SARS-CoV-2感染は、他の呼吸器ウイルス感染と同様に、無症候性または軽度の感染から重大または致命的な合併症に至るまでの重症度の勾配がある。無症候性または軽度の感染に対する防御は、ワクチン接種後の中和抗体レベルの低下、または新たな変異株による免疫回避によって低下する可能性がある。しかし、ワクチン接種は、感染した成人の病気の重症化を抑える可能性のある長期的なメモリーBおよびT細胞応答を刺激する。この研究の結果は、COVID-19ワクチンが、呼吸不全または院内死亡をもたらす重度のCOVID-19に対する強力な防御を提供することを示している。

結語

  • 2022年2月までに、米国では主にワクチン未接種者で100万人近くのCOVID-19関連死亡が発生した。COVID-19ワクチン接種は、COVID-19関連死亡やその他の生命を脅かす結末の大部分を防ぐ可能性がある。CDCは、ワクチン接種の対象となるすべての人にワクチン接種を行い、COVID-19ワクチン接種を最新の状況にすることを推奨する。

[註釈]
免疫不全状態には、以下の状態の1つ以上が含まれる。「活動性固形臓器癌(活動性癌は、過去6か月間に癌の治療を受けた、もしくは新たに診断された癌として定義される)」「活動性の血液がん(白血病、リンパ腫、骨髄腫など)」「AIDSを伴わないHIV感染」「AIDS」「先天性免疫不全症候群」「脾臓摘出術の既往」「固形臓器移植、幹細胞移植、骨髄移植の既往」「免疫抑制薬」「全身性エリテマトーデス」「関節リウマチ」「乾癬」「強皮症」「クローン病や潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患」

 

文献

  1. Tenford MW, et al. Effectiveness of mRNA Vaccination in Preventing COVID-19‒Associated Invasive Mechanical Ventilation and Death ̶ United States, March 2021‒January 2022
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7112e1-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問