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126号 オミクロン株に対するワクチンの有効性
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 オミクロン株の流行によって、ワクチンの有効性(VE:vaccine effectiveness)が大きく低下した。これについての研究は数多くあり、様々な結果が示されている。それには「どの製剤(mRNAワクチン or ウイルスベクターワクチン or 不活化ワクチン)を接種したか?」、「接種後の期間はどの程度か(3か月未満 or 3か月以降)?」、「ブースター接種の予防効果はどうか?」などが含まれる。WHOがこれについて要約しているので紹介する1)

 

 現在までに、オミクロン株に対するVEについての17件の研究では、他の「懸念される変異株(VOC:variants of concern)」で観察されたVEに比較して、すべての結果(重症疾患、症候性疾患、感染)[註釈1]に対するプライマリーシリーズ[註釈2]の予防効果が低下していることが示されている。しかし重要なことは、オミクロン株に対するVEは殆どの研究で症候性疾患や感染よりも、重症疾患で高く維持されていることである(図)。そして、ブースター接種は、すべてのワクチン製剤のすべての結果(重症疾患、症候性疾患、感染)についてのVEを大幅に改善する。しかし、さらに長期間の予防効果を評価するための、ブースター接種から6か月以上を追跡した研究は殆どない。

図.オミクロン株に対するプライマリーシリーズおよびブースター接種のワクチン有効性(VE)

重症化予防

■プライマリーシリーズから3か月以内

  • mRNAワクチンの11件の研究のVEのうち6件(55%)が70%以上であった。
  • ベクターワクチン(AstraZeneca-VaxzevriaおよびJanssen-Ad26.COV2.S)に関する3件の研究および不活化ワクチン(Sinovac-CoronaVac)に関する2件の研究ではVEが50%未満であった。

■プライマリーシリーズから3か月以降

  • mRNAワクチンの25件の研究のVEのうち10件(40%)は70%以上であり、18件(70%)は50%以上であった。
  • ベクターワクチン(AstraZeneca-Vaxzevria およびJanssen-Ad26.COV2.S)の11件の研究のVEのうち1件(9%)が70%以上であり、7件(64%)が50%以上であった。
  • 不活化ワクチン(Sinovac-CoronaVac)の4件の研究のVEについては、70%以上を示した研究はなく、50%以上を示した研究が2件(50%)あった。

■ブースター接種後

  • ブースター接種後14日から3か月の期間では、重症疾患に対するVEはすべての研究で改善し、VEが70%未満であったのはJanssen-Ad26.COV2.Sのみであった(ブースター接種について評価した研究はmRNAワクチンで28件、Janssen-Ad26.COV2.Sで3件、AstraZeneca-Vaxzevriaで1件、Sinovac-CoronaVacで2件であった)。
  • mRNAワクチンのブースター接種後3~6か月で、15件の研究のうち12件(80%)でVEが70%以上であった。これらの研究にはプライマリーシリーズとして、mRNAワクチンが接種された11件の研究、AstraZeneca-Vaxzevriaが接種された3件の研究、Sinovac-CoronaVacが接種された1件の研究が含まれる。

症候性疾患および感染

■プライマリーシリーズから3か月以内

  • プライマリーシリーズから3か月以内の症候性疾患および感染に対するVEは重症疾患に対するVEよりも低い傾向があり、VEは時間の経過とともに大幅に低下した。
  • プライマリーシリーズから3か月以内の症候性疾患については、mRNAワクチンの12件の研究のVEのうち3件(25%)が70%以上であった。
  • AstraZeneca-VaxzevriaおよびSinovac(CoronaVac)のVEは50%未満であった。

■プライマリーシリーズから3か月以降

  • プライマリーシリーズから3か月以上が経過すると、26件の研究のVEのいずれもが50%以上にはならなかった。これらの研究には、mRNAワクチンを評価した18件、AstraZeneca-Vaxzevriaを評価した4件、Sinovac-CoronaVacを評価した4件の研究が含まれる。

■ブースター接種後

  • ブースター接種後14日から3か月の期間では、プライマリーシリーズとしてmRNAワクチン、AstraZeneca-Vaxzevria、Sinovac-CoronaVacを接種した後のmRNAワクチンによるブースター接種は、症候性疾患に対するVEを改善し、14件の研究のVEのうち4件(29%)が70%以上、12件(86%)が50%以上であった。
  • しかし、症候性疾患に対するブースター接種の予防効果はワクチン接種後の時間とともに低下し、mRNAワクチンを用いたブースター接種から3~6か月でVEが50%以上であることを示したのは、6件の研究のうち1件(17%)のみであった。
  • Sinovac-CoronaVac(2件の研究)またはAstraZeneca-Vaxzevria(1件の研究)を用いたブースター接種の症候性疾患に対するVEは50%未満であった。
  • 感染に対するVEは、症候性疾患に対するものと同様のパターンを示した。

[註釈1]
プライマリーシリーズとは、AstraZeneca-Vaxzevria、Moderna-Spikevax、Pfizer BioNTech-Comirnaty、Sinovac-CoronaVacの2回接種、もしくはJanssen-Ad26.COV2.Sの1回接種を指す。

[註釈2]
「重症疾患」には重症疾患、入院、肺炎が含まれる。「症候性疾患」には、あらゆる重症度の疾患が含まれる。「感染」には症候性および無症候性感染が含まれる可能性がある。

文献

  1. WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 – 27 April 2022 (Edition 89)
    https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19—27-april-2022

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問