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127号 サル痘
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 現在、サル痘が世界中で報告されている。中央アフリカと西アフリカでの風土病であるが、非風土病国での症例が数多く報告されている。世界保健機関(WHO)および米国疾病管理予防センター(CDC)のホームページから重要ポイントを抜粋して紹介する1 )2 )3 )

サル痘

  • サル痘は、サル痘ウイルスの感染によって引き起こされる稀な疾患である3)。ウイルス性人獣共通感染症(動物からヒトに伝染するウイルス感染症)であり、臨床的にはそれほど深刻な状況とはならない1)
  • サル痘の宿主はまだ不明であるが、アフリカの齧歯動物が伝播に関与している疑いがある[訳者註1]3)
  • サル痘ウイルスは、ポックスウイルス科のオルソポックスウイルス属に属している[図1]。オルソポックスウイルス属には、天然痘ウイルス、ワクシニアウイルス(天然痘ワクチンで使用される)、牛痘ウイルスも含まれる3)
  • サル痘という名前は、1958年にデンマークのコペンハーゲンにあるスタテンズ血清研究所でサルにウイルスが最初に発見されたことに由来する。最初のヒト感染は、1970年にコンゴ民主共和国の幼児で確認された1)図1.サル痘ウイルスの 透過型電子顕微鏡(ネガティブ染色法) の画像

非風土病国での症例

  • 風土病国への直接の旅行歴のないサル痘の確定例および疑い例の同定は非典型的である。非風土病国におけるサル痘の1つの症例は、アウトブレイクとみなされる1)
  • 各国からWHOに通知された初期の患者の疫学は、サル痘が主にMSM(men who have sex with men)で報告されていることを示している1)
  • いくつかの非風土病国で同時にサル痘が突然出現したことは、最近の患者の増加に加えて、しばらくの期間検出されない感染があった可能性があることを示唆している1)
  • 2022年5月26日現在、確定例(検査室で確認)は累積で257人、疑い例は約120人がWHOに報告されている。死亡者は報告されていない1)

臨床経過

  • サル痘の患者は通常、曝露後5~13日(範囲=4~17日)に発熱を伴う前駆症状を経験する。前駆症状ではリンパ節腫脹、倦怠感、頭痛、筋肉痛がみられる2)
  • 前駆症状に引き続いて、遠心性分布の特徴的な皮疹を発症する。皮疹は周囲が明確であり、しばしば皺が寄ったり、癒合し、時間の経過とともに痂疲に進行する[図2]2)
  • 皮疹はすべての患部にわたって同じ発達段階で進行する1)。病変はいくつかの段階を経て進行する[図3]3)
  • 現在のアウトブレイクでは、多くの患者は限局性発疹(口腔、生殖器周囲、肛門周囲分布)を呈しており、痛みを伴う局所リンパ節腫脹、時には二次感染を伴うことがある1)。このような患者では、水痘・帯状疱疹や性感染症(性器ヘルペスや梅毒など)のような感染症と混同される可能性がある2)
  • 天然痘患者と非常によく似た症状を呈する1)。リンパ節腫脹は、サル痘を天然痘から区別する際立った特徴であり、通常は発熱を伴い、発疹の発症の1~2日前、または稀に発疹の発症と同時にみられる[図4]3)。リンパ節は、顎下部および頸部、腋窩、鼠径部で腫れ、体の両側または片側だけに発生することがある3)図2.サル痘の特徴的な病変* ̶米国、2 0 2 2 年5 月図3.粘膜疹から痂疲までのステージ

致死率

  • サル痘ウイルスには、西アフリカのクレード[訳者註2]とコンゴ盆地(中央アフリカ)のクレードの2つのクレードがある1)
  • コンゴ盆地のクレードは重篤な疾患を頻繁に引き起こし、過去に報告された致死率は約10%である。現在、コンゴ民主共和国は、疑い例の致死率が約3%であると報告している1)
  • 西アフリカのクレードは、過去にアフリカの若年層において、約1%の低い致死率を示していた。2017年以来、西アフリカにおけるサル痘患者の死亡が少数みられ、これは若年または未治療のHIV感染に関連している1)

感染経路

  • サル痘ウイルスは、病変、体液、呼吸飛沫、汚染された物質(寝具など)との濃厚な接触によって、ヒトからヒトに伝播する1)。これらは通常、長時間の接触を必要とする2)
  • 発症からすべての病変が痂疲で覆われ、それらの痂疲が剥がれ落ちて、その下に健康な皮膚の新鮮な層が形成されるまで、感染性があると見なされる2)
  • ウイルスは、破綻した皮膚(肉眼的に見えなくても)、気道、粘膜(目、鼻、口)から体内に侵入する3)
  • 動物からヒトへの伝播は、咬傷または引っかき傷、ブッシュミート(野生動物から得る食肉)の処理、体液または病変物質(汚染された寝わらなど)への直接接触、または病変物質への間接接触によっても発生する3)

感染対策

  • サル痘の感染を防ぐために、以下の対策を講じることができる2)

   ①感染者を隔離する。

   ②適切な手指衛生を実践し、適切な個人用防護具を使用する。

   ③環境表面の消毒については、適切な消毒薬を使用する。

 

  • 一部の哺乳動物はサル痘に罹患しやすい可能性があるので、患者はペットや他の動物との接触を避ける必要がある2)

天然痘ワクチンとサル痘

  • 歴史的に、天然痘ワクチンは、サル痘に対する交差防御があることが示されていた。しかし、世界の40歳または50歳未満の人々が天然痘ワクチンを接種していないため、天然痘ワクチン接種による免疫の恩恵は高齢者に限定される。さらに、ワクチン接種以来、保護は時間の経過とともに低下している可能性がある1)

[訳者註1]
サルやヒトは偶生宿主(incidental host)であって、自然宿主(reservoir)ではない。そのため、基本的には他の宿主に感染を広げられない。

[訳者註2]
クレード(clade):分岐群とも言われる。ある共通の祖先から進化した生物すべてを含む生物群のことを言う。

 

文献

  1. WHO. Multi-country monkeypox outbreak in non-endemic countries: Update[29 May 2022]
    https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON388
  2. Minhaj FS, et al. Monkeypox Outbreak ̶ Nine States, May 2022
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7123e1-H.pdf
  3. CDC. Monkeypox.
    https://www.cdc.gov/poxvirus/monkeypox/index.html

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問