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132号 二価COVID-19ワクチンのブースター接種に関するACIPの暫定勧告
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 日本においても、二価COVID-19ワクチンのブースター接種が実施されている。予防接種の実施に関する諮問委員会(ACIP:Advisory Committee on Immunization Practices)が二価ワクチンのブースター接種に関する暫定勧告を公開しているので紹介する1)

はじめに

 SARS-CoV-2のオミクロン株(B.1.1.529)の流行期間に、COVID-19ワクチンの有効性の低下が実証された。そのため、ブースター接種による予防効果を改善するという目的のために、二価ワクチンを用いた接種が検討された。

一価ワクチンの有効性の低下

  • 一価ワクチンの有効性は、2020年後半にワクチンが導入された後は高かったが、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19関連入院に対するワクチン有効性(VE:vaccine effectiveness)の低下が観察されている。2021年11月に出現したオミクロン株は、以前の変異株と比較して免疫回避能が強い。オミクロン株の流行期では、SARS-CoV-2感染および COVID-19関連入院に対する一価ワクチンのプライマリーシリーズ[註釈1]のVEは大幅に低く、さらに、VEはワクチン接種以降の時間の経過とともに低下した。
  • 一価ワクチンの3回目接種(ブースター接種)は、オミクロン株の流行期間でも感染および重症化の予防効果を強化した。しかし、ブースター接種からの時間の経過とともに、COVID-19関連入院に対するVEは低下した。特に、最近のBA.2/BA.2.12.1および BA.4/BA.5の流行期間で低下した。
  • 18歳以上の正常免疫成人におけるBA.4/BA.5流行期間でのCOVID-19関連入院に対する一価ワクチンのVEは3回目の接種後14~149日で49%(95%CI=20%‒68%)、3回接種後150日以降では34%(95%CI=25%‒42%)であった。
  • 5~11歳の小児では、COVID-19による救急部門および緊急治療の受診に対する一価ワクチンのVEは、2回目の接種後14~59日で51%(95%CI=34%~64%)、2回目接種後150日以降では18%(95%CI=-4%~35%)であった。
  • 12~17 歳の青年では、3回目の接種から7日以上経過した時点で、救急外来および緊急治療の受診に対するVEは 63%(95%CI=48%‒73%)であった。
  • このように、VEは時間の経過とともに低下しているが、これは「最初のワクチンが設計されたウイルス」と「現在流行している変異株」との違いによるものである。

二価ワクチン

  • 二価ワクチンによるブースター接種の目的は、現在流行しているオミクロン株に対する免疫応答を強化して重症化予防を改善することである。
  • 二価ワクチンには、Wuhan-hu-1株(祖先株)およびBA.4/BA.5のスパイク糖タンパク質をコードするmRNAが含まれている。
  • 二価ワクチンのブースター接種に関するACIPの推奨事項は、祖先株およびBA.1で構成されたModernaおよびPfizer-BioNTechの二価ワクチンの臨床試験からの免疫原性および安全性に関するデータに基づいている。ModernaとPfizer-BioNTechの臨床試験には437人および315人の参加者が含まれ、それぞれ50μgおよび30μgのBA.1を含む二価ワクチンがブースター接種された。
  • 18歳以上の成人では、Modernaの二価ワクチン(祖先株およびBA.1)のブースター接種の28日後の中和力価の幾何平均比[註釈2]は一価ワクチンをブースター接種された人の中和力価と比較して、祖先株の抗体で1.2倍、オミクロン株の抗体で1.8倍高かった。
  • 55歳を超える成人では、Pfizer-BioNTechの二価ワクチン(祖先株およびBA.1)のブースター接種から1か月後の中和力価の幾何平均比は、一価ワクチンをブースター接種された人の中和力価と比較して、祖先株の抗体は同等であり、オミクロン株の抗体は1.6倍高かった。
  • ModernaとPfizer-BioNTechの二価ワクチン(祖先株およびBA.1)のブースター接種の臨床試験では、局所または全身の有害事象の発生率は、二価ワクチンのブースター接種では、プライマリシリーズの同一ワクチンによる2回目の接種後と同程度またはそれよりも低かった。ワクチンに関連する重篤な有害事象は、二価ワクチンのブースター接種では報告されていない。
  • 心筋炎および心膜炎の稀なリスクが、mRNA COVID-19ワクチン接種後に、主に思春期および若年成人男性で確認されているが、二価ワクチンのブースター接種後のリスクは不明である。しかし、一価ワクチンのブースター接種後に観察された心筋炎および心膜炎のリスクは、プライマリーシリーズの2回目接種後のリスクと同等またはそれよりも低い。

サマリー

 米国では、一価ワクチンのブースター接種が推奨されていたが、オミクロン株の出現後、その有効性が低下した。2022年秋、CDCは5歳以上に対して、二価ワクチンによるブースター接種を「プライマリーシリーズの完了」または「一価ワクチンのブースター接種」から2か月以上経過してから実施することを推奨した。二価ワクチンのブースター接種は、オミクロン株に対するVEを改善する可能性がある。特に、重症化や死亡の危険性の高い人々では、ワクチン未接種者でのプライマリーシリーズの完了とともに、COVID-19から保護するために重要である。

[註釈1]
プライマリーシリーズ
1回目と2回目のCOVID-19ワクチンの接種。Pfizer-BioNTechワクチンでは3週間、Modernaワクチンでは4週間の間隔で接種する。

[註釈2]
幾何平均比(GMR: geometric mean ratio)
幾何平均(相乗平均)は各データの値を全てかけ合わせて、データ数の累乗根をとって得られたものである。比率や割合で変化するものに対してその平均を求めるときに使う。

文献

  1. Rosenblum HG, et al. Interim Recommendations from the Advisory Committee on Immunization Practices for the Use of Bivalent Booster Doses of COVID-19 Vaccine s ̶ United States, October 2022
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7145a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問