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133号 汚染された超音波ジェルによるBurkholderia stabilis感染症のアウトブレイク
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 米国において、汚染された複数回使用の非滅菌超音波ジェルに起因するBurkholderia stabilis感染症のアウトブレイクが発生した。その詳細をCDCが報告しているので紹介する1)

調査と結果

[病院A]

  • 2021年7月21日、バージニア州保健局はCDCに、2021年5月18日から7月20日の期間に病院AでBurkholderia stabilis(セパシア菌群[Burkholderia cepacia complex]の1つ)による侵襲的感染症(主に血流感染症)の8 人の患者が特定されたことを通知した。8人の患者のうち少なくとも7人は、病院Aで超音波ガイド下の処置を受けていた。
  • 病院Aで使用された非滅菌超音波ジェル(商品:MediChoice M500812)を培養したところ、13本の未開封ボトルのうち8本でセパシア菌群が同定された。引き続いて、全ゲノム配列決定(WGS:whole genome sequencing)を実施したところ、 MediChoice M500812 の3つのロットのボトルからB. stabilisが特定された。
  • 病院Aで収集された8つの患者分離株(血液から7株、腹水から1株)および3つの製品分離株のB. stabilisの遺伝子配列は一致した。

[病院B]

  • 7月22日、フィラデルフィア公衆衛生局は、2021年7月7日から7月20日の期間にセパシア菌群の血流感染症が確認された救急病院(病院B)の7人の患者についてCDCに通知した。そのなかの4人で超音波ガイドの経皮的処置が実施されていた。
  • 病院Bは21のロットの超音波ジェルのボトルを培養し、これらのロットのうち2つのロットでセパシア菌群を特定した。これには、病院Aによって以前にセパシア菌群が特定された3つのロットのうちの1つと、未開封の超音波ジェル(MediChoice M500812)のロットが含まれた。
  • 病院Bは、WGSによって、分離株がB. stabilisであることを確認し、病院AとBの患者分離株と製品分離株が濃厚に関連していることを示した。 これによって、製造または流通中の超音波ジェルの汚染に関する懸念が高まった。

[超音波検査の手技]

  • 複数回使用の非滅菌超音波ジェルは体外式の非侵襲的超音波検査(経胸壁心エコー検査や診断用腹部超音波検査など)のみを対象としているが、医療従事者は経皮的処置(末梢血管内カテーテルの挿入をガイドするために静脈の位置を特定するなど)のときに解剖学的構造を視覚化するために、この超音波ジェルを頻用していた。このような慣行により、生菌を含むジェルが皮膚に残り、処置前に除去することが難しくなり、適切な皮膚消毒が妨げられ、セパシア菌群が無菌の身体部位に侵入した可能性がある。

症例定義と患者の状況

  • 症例定義は「2021年1月1日以降に体の任意の部位から採取された患者検体でB. stabilisが培養陽性となった症例」とした。10州で119人のB. stabilis感染症の患者が症例定義を満たした。分離株は、2021年5月1 5 日から9月14日に収集されており、患者の年齢の中央値は61歳(範囲=4日~92歳)であった。
  • 入院からB. stabilisの検出までの間隔(中央値)は1日(範囲=0~118日)であり、殆どが血流感染症(106人、89%)であった。
  • 臨床データが得られた87人の患者のうち、59人(68%)に感染症の症状(発熱や頻脈など)がみられた。生命情報のある102人の患者のうち、14人(14%)がB. stabilis感染症が確認された入院中に死亡していた。10人の死因が判明しており、そのうちの2人はB. stabilis感染症によるものであった。残りの8人の死因には、B. stabilisとは無関係の敗血症性ショック(3人)、心停止(2人)、低酸素性呼吸不全(1人)、COVID-19に続発する呼吸不全(1人)、鎌状赤血球症性発作(1人)であった。
  • 情報が得られた患者117人のうち104人(89%)は入院中に超音波検査を受けたことが判明しており、109人のうち103人(94%)は超音波関連の経皮的処置(末梢静脈カテーテル挿入または穿刺など)を受けていた。

公衆衛生対応

  • 2021年7月29日、米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)とCDCは患者の感染を製造業者(Eco-Med社)に通知した。2021年8月4日、病院AとBによって最初に特定された4つのロットを含む8つの製品ロットが自主的に回収された。
  • 製造プロトコルに関する FDA の追加調査により、リコールされた 8 つのロットを超えた潜在的な製品汚染の懸念が明らかになった。これは、根本的な原因や細菌汚染は確認されなかったものの、同社の最終製品の不適切なテスト、原材料の不適切なテスト、環境管理の欠如に照らしたものである。
  • 2021年8月18日、FDAは、Eco-Med社が製造したすべての超音波ジェルとローションの使用を直ちに中止し、廃棄するよう勧告した。そして、製造業者は操業を停止した。2021年10月12日以降、CDC に追加の症例は報告されていない。

考察

  • セパシア菌群は、水性医療製品に頻用される特定の防腐剤や抗菌剤に対して固有の耐性を持つ日和見病原体であり、汚染された医療製品や医療機器に曝露した健康な人に臨床感染症を引き起こすことがある。過去のセパシア菌群によるアウトブレイクでも、超音波ジェルが関連していた。
  • 今回のアウトブレイクでは、セパシア菌群で汚染された超音波ジェルが、侵襲的処置の実施前または実施中に適用された皮膚を通して針が進められたときに、無菌の身体部位に病原体が侵入した可能性がある。
  • 経皮的処置での超音波検査には、使い捨ての滅菌超音波ジェルのみを使用する必要がある。超音波プローブおよびその他の関連機器(コンソールやハンドルなど)も、患者への病原体の伝播を防ぐために、製造元の指示に従って完全に洗浄および消毒する必要がある。
  • 超音波検査の後は、超音波ジェルを皮膚から完全に取り除く。すべての超音波ジェルを除去したら、侵襲的処置を実施する前に、その部位の皮膚を消毒する。
  • セパシア菌群の汚染による医療関連アウトブレイクに関与しているその他の非滅菌の水性医療製品には、鼻スプレー、うがい薬、術前皮膚溶液、手指消毒剤などがある。
  • 医療従事者は、超音波関連処置における超音波ジェルの適切な使用について訓練を受ける必要がある。これには、「侵襲的な経皮的処置の実施前および実施中は使い捨ての滅菌超音波ジェルのみを使用する」などが含まれる。

文献

  1. Hudson MJ, et al. Outbreak of Burkholderia stabilis Infections Associated with Contaminated Nonsterile, Multiuse Ultrasound Gel ̶ 10 States, May‒September 2021
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/pdfs/mm7148a3-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問