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136号 乳児用粉ミルクと搾乳器に関連したCronobacter sakazakii感染症
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CDCが2人の乳児におけるCronobacter sakazakii髄膜炎について記述している。粉ミルクの安全な準備と保管、搾乳器の適切な洗浄と消毒が極めて重要であることが示されているので紹介する1)。 2021年9月、州保健局はC.sakazakii [註釈1]に感染した乳児(患者A)をCDCに報告した。2022年2月、別の乳児(患者B)がCDCと別の州の保健部門に報告された。CDCは乳児2人に関する詳細な情報を入手した。そして、分離株と環境検体がCDC、州の公衆衛生研究所、その他の連邦機関に送られ、C.sakazakii の分離、同定、全ゲノム配列決定(WGS:whole genome sequencing)分析が行われた。

患者A

  • 患者Aは2021年9月に合併症のない妊娠と自然分娩にて健康な母親から生まれた正期産(妊娠40週1日)の男児である。
  • 生後14日目に、発熱、過敏症、過度の泣き声、口腔カンジダ症(鵞口瘡)、おむつ皮膚炎にて、A病院で診療された。発症前は、搾乳した母乳と粉ミルクの両方を与えられていた。
  • 腰椎穿刺が行われ、C.sakazakii が脳脊髄液から分離された。抗菌薬の静脈内投与で 21 日間の入院治療を受けた。患者Aは完全に回復し、明らかな後遺症はみられなかった。脳脊髄液から得られた.sakazakii分離株をWGSにて分析した。
  • 患者Aの自宅で調合乳を調製するために使用された「開封された粉ミルク」および「開封されたボトル水容器」からの検体を培養した。
  • 粉ミルクと容器の両方から.sakazakii分離株が検出された。WGSが実施され、C. sakazakiiの 2 つの異なる株が同定された(図)。患者からの分離株は粉ミルクからの分離株と遺伝的に濃厚に関連していた(0SNPの違い)[註釈2]。同じ粉ミルクの缶からの2番目の分離株は、容器からの分離株と遺伝的に濃厚に関連していた(4SNP以内の違い)。しかし、これらの 2菌株は互いには関連していなかった(>50,000 SNPの違い)。
  • 患者Aが消費した粉ミルクと同じロットから未開封の粉ミルクを検査したが、.sakazakiiは検出されなかった。

患者B

  • 患者Bは2022年2月に、逆子と母体の子癇前症の悪化により帝王切開で生まれた早産(妊娠 30 週 6 日)の男児である。
  • 未熟児合併症のために新生児集中治療室で治療を受けていたが、安定しており、食事し、成長し、呼吸補助なしの呼吸をしていた。主に経口胃管を介して、母乳強化剤(液体)で強化された搾乳した母乳を与えられていた。
  • 生後20日目に、無呼吸と徐脈、体温の上昇がみられ、呼吸補助が必要となった。翌日、痙攣を発症した。.sakazakiiが血液および脳脊髄液の培養にて分離された。抗菌薬の静脈内投与による治療と血液培養陰性にもかかわらず、発症から13日後に死亡した。
  • 搾乳検体、2つの異なる搾乳器(病院で使用された搾乳器、母親の自宅で使用された搾乳器)の部品、3つのロットの母乳強化剤(液体)の検体を培養したところ、自宅で使用されていた搾乳器の部品から.sakazakiiが検出された。
  • これらの搾乳器の部品は家庭用シンクで洗浄・消毒され、湿った状態で組み立てられることがあった。搾乳した母乳の検体、母乳強化剤の検体、病院の搾乳器の部品、病院からの未開封の粉ミルクからは細菌は検出されなかった。
  • 血液および脳脊髄液の.sakazakii分離株、および環境検体の分離株にはWGS分析が行われ、患者の脳脊髄液および血液の分離株は自宅の搾乳器から検出された分離株と遺伝的に濃厚に関連していることが示された(0-1 SNPの違い)。

討論

  • WGS 分析に基づくと、これら 2人のC. sakazakiiは関連していなかった。1人は自宅で調製された粉ミルクによって感染した可能性が高く、もう 1人は搾乳器の器具によって汚染した搾乳した母乳によって感染した可能性がある。
  • これらの事例は、環境中の病原体の遍在性、C. sakazakii感染を予防する上での衛生の重要性、遺伝的関連性と可能性のある感染源を決定する方法としての WGS の有用性を示している。これらの感染源について理解を深めることは、乳児のC. sakazakii感染を予防する方法について臨床医や保護者を教育するのに役立つ。
  • C. sakazakiiは髄膜炎と敗血症を引き起こすことがある。最も多いのは非常に幼い乳児と未熟児の病歴のある乳児であり、彼らの免疫系と消化器系は未熟である。
  • C. sakazakii感染症は抗菌薬で治療可能であるが、髄膜炎を発症した乳児の約40%が死亡するなど、重篤な結果になることが多い。生き残った乳児の多くは、脳膿瘍や水頭症などの合併症を経験し、永続的な神経学的後遺症を引き起こすことがある。
  • 米国では毎年約18人の乳幼児において、侵襲性C. sakazakii感染症が発生していると推定されている。それらの殆どはアウトブレイクには関連していないが、家庭内の乳児用食品や器具の汚染が原因の孤立事例として発生している。
  • C. sakazakiiは、乾燥した環境で生き残る能力が顕著なため、過去の調査では開封された粉ミルクでC. sakazakiiが特定された。しかし、台所シンクの表面、おしゃぶり、ボトル、家庭用品、掃除機のバッグ、その他の食品など、家庭内の他の多くの環境源からも検出されている。そして、粉ミルクに使用されるスプーンなどの食事器具が調理台や流し台で汚染され、その後、粉ミルクにC. sakazakiiを移動させた可能性がある。
  • 生後2カ月未満の乳児、未熟児、免疫抑制状態の乳児を診療する臨床医は、特に乳児が粉ミルクまたは搾乳した母乳を与えられている場合はC. sakazakii感染のリスクを保護者に説明する必要がある。

[註釈1]
Cronobacter sakazakii 

  • 当初、形態学的特徴から黄色色素を産生する Enterobacter cloacae と同定されていた。しかし、色素産生株と非産生株は性状が異なることから同一種でないと報告され、E.sakazakii と言われるようになった。さらに分子生物学的検討から 2008 年に、Cronobacter sakazakii と命名され現在に至っている。
  • C.sakazakiiは腸内細菌科細菌に属するグラム陰性桿菌であり、乳児において重篤でしばしば致死的な髄膜炎と敗血症を引き起こすことがある。
  • C. sakazakiiは環境中に遍在しており、報告された乳児の殆どは「汚染された粉ミルク」または「汚染した搾乳器を使用して搾乳された母乳」に起因している。

 

[註釈2]
SNP 個体間において、ゲノムDNAの1塩基が異なる現象のことであり、一塩基多型(single nucleotide polymorphism)とも言う。

 

文献

  1. Haston JC, et al. Cronobacter sakazakii Infections in Two Infants Linked to Powdered Infant Formula and Breast Pump Equipment — United States, 2021 and 2022
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7209a2-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問