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137号 刑務所における結核のアウトブレイク
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 米国ワシントン州において、刑務所内で結核のアウトブレイクが発生した。CDCが詳細を報告しているので紹介する1)

発端事例

  • 2021年7月から8月にかけて、ワシントン州の刑務所(施設A)で、結核患者1人と潜在性結核感染者2人が収監されていることが確認された。その後の曝露源調査によって、施設Aで追加の結核患者1人と潜在性結核感染者27人が特定された。この期間に診断された人には、感染性に関連する臨床的特徴(喀痰塗抹陽性など)がみられた人はいなかった。
  • この事実から、これらの患者は「刑務所内の他の場所にいる診断されていない感染性結核患者」もしくは「最近刑務所から釈放された感染性結核患者」に関連しているかもしれないという懸念につながった。

調査と結果

  • 2021年12月から2022年1月の期間に、別の刑務所(施設B)に収監されていた3人が結核の診断を受けた。そのうちの1人はコミュニティに釈放され、もう1人は第3の施設(施設C)に移送されていた。
  • 2022年11月15日の時点で、受刑者において25人の結核患者が報告されており、それらはアウトブレイクに関連していた。そして、最新の患者は2022年6月23日に報告された(図)。刑務所スタッフでは結核患者は確認されなかった。
  • 肺結核(肺外結核の有無にかかわらず)と診断されたのは19人であった。25人の患者全員が胸部X線またはCTを受け、喀痰が検査された。画像検査で空洞所見がみられた人はおらず、4人は抗酸菌塗抹が陽性であった。
  • 培養で確認された11人の全員の分離株は、全ゲノム一塩基多型解析(whole genome single nucleotide polymorphism analysis)によると密接に関連しており、最近の感染を示唆する疫学的データと一致していた。

図 2施設の収監者におけるワシントン州矯正局からワシントン州保健局に報告されたアウトブレイク関連の結核症例、月別 — ワシントン州、2021年7月~2022年6月

感染性期間

  • 感染性が高いと考えられた12人の結核患者について、5施設で接触者調査が開始された。その結果、11人は培養陽性となり、もう1人は培養陰性であるが症候性肺疾患および臨床的に重要な胸部X線所見があった。これら12人の患者の推定感染性期間の中央値は170日(範囲=91~391日)であった。
  • 感染期間が最も長い人は、感染性結核を発症した最初の人である可能性が高く(つまり、推定感染性期間の開始日は2021年1月1日であった)、感染性期間中に施設AおよびBに収監されていた。2021年8月の最初の曝露源調査中に、この人物はツベルクリン反応が陰性であり、2021年7月頃に始まった慢性的な咳と体重減少を示すチャートのメモにもかかわらず、症状を開示していなかった。この人物には未治療の潜在性結核感染の病歴があったが、当時は注目されなかった。そのため、2022年1月に施設Bでその後の結核スクリーニングが実施されるまで、胸部X線は実施されなかった。その後、レントゲン写真の所見は異常であると報告された。

接触者調査

  • 結核患者の接触者は「患者の推定感染性期間中に患者と同じ日に同じ場所にいた受刑者またはスタッフ」と定義された。 2022年11月15日の時点で、5施設の収監者2,644人と4施設のスタッフ431人が接触者として特定された。
  • 過去に結核感染または結核発症のエビデンスがなく、2021年1月1日以降に検査を受けた2,093人(79.2%)の接触者(受刑者)と135人(31.3%)の接触者(スタッフ)のうち、それぞれ、237人(11.3%)および7人(5.2%)が結核検査で陽性となった。

公衆衛生対応

  • 施設A(2021年7月)および施設B(2021年12月)において最初の患者を特定した後、施設A、B、Cの受刑者およびスタッフの結核スクリーニングを開始した。米国で生まれた人の殆どはツベルクリン反応を受け、米国で生まれていない人の殆どはインターフェロンγ放出アッセイを受けた。
  • 結核について評価中の人は隔離され、結核と診断された場合は、4~6か月の抗結核療法が開始された。潜在性結核感染者には、3か月のイソニアジドとリファペンチンによる治療が好ましいレジメンであった。しかし、リファマイシン系が全国的に不足していたため、一部の人では治療が遅れた。
  • 免疫抑制者(病気もしくは薬剤によって)は結核を発症するリスクが高いので、治療の遅れを防ぐために9か月のイソニアジドのレジメンが提供された。

考察

  • これは、ワシントン州矯正局で記録された最初の結核アウトブレイクであり、ワシントン州で過去20年間で最大のアウトブレイクでもある。複数の要因が診断を複雑にし、アウトブレイクに関連した感染に寄与した可能性がある。
  • 第一に、限られたリソースがCOVID-19対応に振り向けられている間、毎年の結核検診が中断されたため、結核伝播を助長する患者の検出が遅れた。
  • 第二に、患者には長期間にわたって感染性があったため、診断の遅れがアウトブレイクに関連した伝播に寄与した。また、臨床医は患者2人に結核と一致する症状があるにもかかわらず、肺結核を迅速に診断しなかった。これらの患者の1人は、感染性期間に、施設Aから施設Bに移送されていた。
  • 「このアウトブレイク前は結核は稀であった」「結核の症状とCOVID-19の症状が類似している」「刑務所内でCOVID-19アウトブレイクが同時発生した」もアウトブレイクに寄与した可能性がある。
  • 隔離されることへの恐怖は、受刑者やスタッフが症状を報告するのを思いとどまらせる可能性があり、これも結核の診断の遅れにつながった可能性がある。

文献

  1. Tuberculosis Outbreak in a State Prison System
    https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/72/wr/pdfs/mm7212a3-H.pdf

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問