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142号 南半球におけるインフルエンザ関連入院の予防におけるインフルエンザワクチンの有効性
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CDCが週報(MMWR)において、2023年の南半球におけるインフルエンザ関連入院の予防でのインフルエンザワクチンの有効性(推定値)を報告しているので紹介する1)

はじめに

  • ラテンアメリカおよびカリブ海諸国では、インフルエンザにより毎年716,000~829,000人が呼吸器系で入院し、41,007~71,710人が死亡している。
  • 3月~9月のインフルエンザシーズンの南半球諸国でのワクチン有効性(VE:vaccine effectiveness)の推定値は、その後の10月~5月の北半球のインフルエンザシーズンでのVEの推測に役立つ。

方法

  • インフルエンザ関連入院に対するVEは、インフルエンザ検査陽性の入院患者[症例患者]とインフルエンザ検査陰性の入院患者[対照患者]の間でワクチン接種のオッズを比較する検査陰性症例対照研究デザインを使用して推定された。
  • 重症急性呼吸器感染症(SARI: severe acute respiratory infection)は、過去10日間に発症して入院に至った「発熱または記録された体温38℃以上」および「咳の病歴」を伴う急性呼吸器感染症と定義された。
  • 呼吸器検体が収集され、RT-PCRによってインフルエンザウイルスの型とサブタイプが検査された。
  • 2023年3月27日から7月9日までのデータが入手された。
  • 参加国は卵ベースのインフルエンザワクチンの南半球製剤を使用した。卵ベースの三価製剤には、A/Sydney/5/2021(H1N1)pdm09様ウイルス、A/Darwin/9/2021(H3N2)様ウイルス、B/Austria/1359417/2021(B/Victoria系統) 様ウイルスが含まれた。卵ベースの4価製剤にはB/Phuket /3073/2013 (B/山形系統)様ウイルスも含まれた。
  • 評価対象者は、国の予防接種政策に基づくワクチン接種の3つの対象グループ(幼児、既存疾患のある人、高齢者)のSARI患者に限定された。
  • 症例患者は「RT-PCRのインフルエンザ検査結果が陽性のSARI患者」として定義された。
  • 対照患者は「インフルエンザとSARS-CoV-2の両方に対するRT-PCR検査結果が陰性のSARI患者」として定義された。
  • 症状発現の14日以上前に2023年シーズンインフルエンザワクチンを1回以上接種した患者はワクチン接種者とみなされた。
  • 発症前に2023年のシーズン中にインフルエンザワクチンを接種しなかった人は、ワクチン未接種者とみなされた。
  • 症状発現の14日前未満でワクチン接種を受けた患者、またはSARS-CoV-2のRT-PCR検査結果が陽性だった患者は評価から除外された。

結果

  • 2023年3月27日から7月9日までに、アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイ、ウルグアイでインフルエンザワクチン接種の優先接種対象者のうち合計 3,974人のSARI入院が確認された。このうち、1,194人は、SARS-CoV-2検査結果が陽性などの理由で除外された。
  • これらの除外後、3つのワクチン接種対象グループの最終分析サンプルには2,780人の SARI 患者が残り、その内訳は幼児 1,262人(45.4%)、既存疾患のある人 388人(14.0%)、高齢者 1,130人(40.6%)であった。
  • 900人(32.4%)のSARI患者からインフルエンザウイルスが検出された。その内訳はインフルエンザA型ウイルス 815人(90.6%)とB型インフルエンザウイルス 85人(9.4%)であり、2011年から2019年の流行の平均よりも早いサーベイランス週間で陽性反応を示した検体の割合が高かった。
  • サブタイプされた815件のインフルエンザAウイルスのうち673件(82.6%)において、668件(99.3%)がA(H1N1)pdm09、5件(0.7%)がA(H3N2)であった。そして、85件のB系統はすべてB/Victoriaであった。
  • インフルエンザウイルスの検出は対象グループによって異なり、ほぼ半数(547人、48.4%)がSARIの高齢者から検出され、約3分の1(139人、35.8%)が既存疾患のある人から検出され、214人(17.0%)が幼児から検出された。
  • 全体として、SARI患者の23.9%がワクチンを接種していた。この割合は対象グループによって異ならなかったが、SARI患者の間では国ごとにワクチン接種率に有意な差が観察され、ウルグアイの9.4%からチリの37.0%までの範囲であった。
  • SARI患者のうち、2023年季節性インフルエンザワクチン接種を受けた患者は15.3%だったのに対し、対照患者は28.0%だった。
  • インフルエンザ関連のSARI入院に対する全体的なVEは51.9%であり、幼児では70.2%、高齢者では37.6%であった。2023年の南半球シーズンに流行したインフルエンザA(H1N1)pdm09に限定すると、SARI入院に対するVEは55.2%で、全体の推定値と同様であった。
  • インフルエンザB/VictoriaのVEは統計的に有意ではなく、インフルエンザA(H3N2)のワクチン接種した対照患者数が不十分だったため、ウイルス特異的VEの推定はできなかった。

考察

  • 2023年南半球インフルエンザワクチン製剤のこの中間評価は、南半球5か国のデータを用いて実施され、今シーズンの3価および4価不活化インフルエンザワクチンがインフルエンザ関連入院の減少に効果的であることを示唆している。特に、VEの暫定推定値は、幼児および高齢者において、主にインフルエンザA(H1N1)pdm09ウイルスに関連する入院が大幅に減少していることを示している。
  • 一方の半球でのインフルエンザの流行のタイミングと強さは、必ずしも反対側の半球でのその後の流行を予測できるわけではないが、このレポートは、北半球の管轄地域の保健当局が潜在的に早期のインフルエンザシーズンに備え、ワクチン接種の利点を強調するのに役立つ可能性がある。
  • このデータは、南半球のワクチン製剤でのインフルエンザA/Sydney/5/2021(H1N1)pdm09様ウイルスおよびB/Austria/1359417/2021(B/Victoria系統)ウイルスはインフルエンザ入院に対しての防御を与えていることを示唆している。
  • インフルエンザB/山形系統は2020年以降世界的に流行していないため、将来のインフルエンザワクチン製剤にB/山形抗原を残すべきかどうかを判断するには継続的なモニタリングが必要である。
  • ワクチン接種は、インフルエンザとそれに伴う重度のアウトカムを予防する最も効果的な方法の1つである。世界中の保健当局は、重症化のリスクが高い人(幼児、既存疾患のある人、高齢者など)に対してインフルエンザワクチン接種を奨励すべきである。医療従事者のようなインフルエンザウイルスに曝露したり、伝播させるリスクの高い人にも同様に奨励すべきである。

矢野 邦夫

浜松市感染症対策調整監
浜松医療センター感染症管理特別顧問